【4】side狼 変な契約者
懐かしい気配を感じ、我は神獣界を飛び出した。
そこにいたのは、獣たちの中心で血を流している少女。少女から流れ出す赤から懐かしい気配がする。
どうやら、極限状態で神聖王国の王族の血が目覚めたらしい。神聖王国の血が無意識に神獣である我を喚んだのか。
だが、我の気を引いたのはそれだけではない。
この子の行く末を見守るのは面白そうだ。よし、契約をしてやろう。
少女と契約し、我は周囲の魔獣を一掃した。ついでに少女の怪我も治してやる。このままだと死んでしまうからな。
そして、暫く待っていると少女が目を覚ました。
目を覚ました少女は、なんというかとても残念なやつだったなぁ。
目を瞠るほど愛らしい顔をしているのにやることなすこと全てが残念だ。狼が話すのが不思議だと言って我の口に頭を突っ込んで来た時はなんだこいつと心の底から思った。
かつての神聖王国の赤子にもされたことないぞ。こやつは赤子以下、いや、未満か。
生粋の姫君だろうに、どんな教育をされてきたのか。……いや、中々に複雑そうな生い立ちだから正当な教育は受けておらんのかもしれぬな。
まだ敵か味方かもわからぬ我に勝手に乗るし。自分の傷が治っていることにも気付かぬし。実に抜けている。せめて顔がよくてよかったな。
どうせこれに聞いても帝国への道案内などできなさそうだし、今は寝かせておこう。
口を開いたら残念なことこの上なかったが、寝ている時はあどけなくて愛らしかったからな。我は子どもが好きなのだ。
寝ているように言うと、少女は素直に目を閉じた。
大量の血を流した後だからな、もちろん体調は万全ではない。
これから慣れぬ土地へいくのだ。少しでも回復しておくのがいいだろう。
なるべく揺れないように我は走った。大体の方向は馬車に残っていた地図から予測できた。
少女の体調面を考えたら馬車を使いたかったが、生憎馬車を引いていた馬の聖獣も転移させてしまったらしく馬車は使えなかった。
馬車を引くくらい我でもできるが、そんな屈辱ごめんだ。
少女が思いつかないのをいいことに荷物だけ回収し、馬車は放置して出発した。寝ている少女のよだれで毛皮を汚されようが馬車を引くよりはマシだ。
少女が寝ている間、こっそりと少女が森の外に転送したという騎士達の安否を確かめてみた。うむ、全員無傷のようだな。
少女を助けに森に入ってきたらどうしようかと思ったが、一旦城に報告に戻ることにしたようだ。まあ、普通はそうするか。あの状況だとこれの生存は絶望的だと考えるのが普通だからな。
救ってもらった命を無駄にしないその判断やよし。
そのまま暫く走っていると、背中に乗せた少女の腹がぐうううと元気よく鳴いた。
ふむ、そういえば大量に失血したのに何も食べさせていなかったな。我は空腹を感じぬから盲点だった。
だが、腹が減っているだろうに少女が目を覚ます気配はない。どうやら体が食事よりも睡眠を欲しているようだ。
仕方ない、急いで帝国に向かってやるか。帝国に着けばなにかしらの食べ物はもらえるだろう。
あと、これには王族らしい振る舞いも覚えさせんとな。
我は神聖王国国王とも契約していたことのある神獣だからマナーには厳しいぞ?
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