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【39】これって自由時間なのでは!?






 ウルカさんは心配そうな顔をしていたけれど、私は大丈夫というように笑って見せると五人を連れて部屋を出ていった。口パクで何かあったら呼んでと言い残して。

 やっぱり優しい人だね。


 そして、私はメリアと二人っきりになった。

 部屋に二人だけになると同時にメリアは私の前にドンと書類の束を置く。


「はい、これ。さっきの子がやってなかった書類。これ仕分けして計算やっといてね」

「……」


 さっきの子には仕分けしか頼んでなかったのに私には計算まで押し付けてきたよ。それ絶対外部に漏らしちゃいけない書類でしょ。

 私が書類の内容を理解できないと高を括っているんだろう。私には最強の味方、リュカオンがいるとも知らずに。

 というか明確な約束もしてないのにどうして私が侍女長さんに言いつけないと思ってるんだろう。メリアは私の度胸に免じて仕事が全部こなせたら家は潰さないでおいてやるって言ってたけど、その中には一言も侍女長さんに言いつけないなんて文言はなかった。

 メリアは私が内心は家が潰されるんじゃないかと怯えているのにハッタリをかましているだけだと思っているようだけど、ヤケクソになって私が言いつける可能性は考えなかったんだろうか。手間はかかるけど誓約魔法でもなんでも使えばよかったのに。あ、普通はお城の中じゃあ魔法使えないのか。


 私には普通じゃないリュカオンがついてるからついつい忘れがちだ。


 「はい」とも「いいえ」とも言わず黙っていると、メリアはまたしても勝手な解釈をしたようだ。


「自信がないようだけど、できなかったら今日で侍女体験は終わりね」


 そしてお前の家も終わりだと言ってこないのはやっぱりメリアにそんな力はないからだろう。


 まあでも、期間を終えず侍女体験を終わるということはすなわち、王城侍女への道からはかなり遠ざかるということだ。自分から申し出たならこんな短期間も耐えられない奴に王城侍女は無理だって判断になるし、担当の侍女にもう来なくてもいいと言われたならよほどの何かをやらかしたということなので当然、王城侍女からは遠のく。

 まあそれは担当の侍女がまともな人だっていうのが前提だけどね。

 少なくとも、脅すだけ脅して部屋を出て行った人はまともな人には分類されないと思う。


 メリアがどこかに行ってしまったので、私は部屋にぽつんと一人になる。

 するとすぐにリュカオンから念話が飛んできた。


『あの娘、変な方向に調子に乗ってるな……』

『うん、ユベールと遠縁になっちゃったのがよくなかったよね。権力でどうにかなると思ってるから、前なら絶対にやらなかったことも平気でやっちゃうんだもん』


 好き勝手やっても権力でどうにかしてるっぽい本家のお嬢様を割と近くで見てたらそんな勘違いもしちゃうか。

 姿は見てないけど、ヴィラ・ユベールのカツカツとしたヒールの音からも我が物顔で王城内を闊歩してるところが目に浮かぶもん。


『でもリュカオン、これってこの作業が終わっちゃえば完全に自由時間だよ!』


 メリアはこの仕事が私にできると思ってないだろうからどうせ終わりの時間まで帰ってこないだろうし。

 本当はこれもやらないで情報収集とかをしたいところだけど、そうするとこの侍女体験(ボーナスタイム)が終わっちゃうからね。


 そうとなれば、早速この書類を魔法でもなんでも使って終わらせちゃおう。


『―――じゃあリュカオン、この書類どうすればいい?』

『そんなこと我にも分からん』

『……え?』


 そんな……! 私の保護者であり良心であり頭脳でありその他もろもろであるリュカオンが分からないなんて……!!


 衝撃を受けていると、リュカオンの呆れた声が頭の中に聞こえてきた。


『よく考えてみろシャノン、神獣である我が書類仕事などすると思うか? しかも我がこちらにいたのはお前達が古代と言っている頃だぞ』


 ―――たとえ我が神聖王国で書類仕事に精通していたとしても今のものとは何もかもが違うわ、とリュカオン。

 た、たしかに。


 え、どうしよう。

 ここでパパッと作業をこなして戻ってきたメリアの鼻を明かしつつ、余った時間でいろいろと調査しようと思ってたのに。

 王城侍女になれないのはどうでもいいけどここで侍女体験が終わっちゃうのは困っちゃうよ。


 やばいやばい。


『そうだ! こっそりウルカさんに聞きに行こう』

『その侍女はさっきメリアとやらが遠ざけていたぞ。……ウルカの所に行こうとするとメリアが自主休憩している場所を通らなければならないようだな。悪知恵だけは働く小娘だ』


 なるほど、ウルカさんに助けを求められないようにしたのか。私が最初に助けを求めるとしたらまず間違いなくウルカさんだもんね。


 だけど、私には奥の手があるのだ!

 そう、なぜなら元王城侍女が私の離宮にいるんだから!!


『リュカオン、ちょっとセレスのところに行ってくれる?』

『ん? ……ああ、その手があったか』


 セレスが王城にいたのはついこの間だし、やり方なんてまだ変わってないよね。

 そしてリュカオン越しにセレスから書類の分類の仕方、そしてどう計算すればいいのかを教わった。


『リュカオン、セレスにありがとうって伝えておいて』

『分かった』


 そして、私は書類と向き合った。

 まずはセレスに教えてもらった通りに書類を分ける。そして計算をして、その結果を所定の場所にシュパパッと書いていく。

 うん、この分だと一時間もしないうちに終わりそう。


『……シャノン、そこそこ複雑な計算の割にやけに作業が早いがどんな魔法を使っているんだ?』

『魔法? やだなぁリュカオン、魔法は使ってないよ。ちゃんと頭の中で計算してるんだから』

『なにっ!? シャノンお前、暗算できたのか……。しかもかなり高度なことをしてるぞ』

『失敬な! 暗算くらいできるよ!!』


 こう見えてもシャノンちゃん、数字には強いのです。



 そうして私は、リュカオンも驚くほどのスピードで書類を終わらせた。


 ―――さあ、もうここからは自由時間だよ!


 













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Twitterです!更新報告とかしてます!
<書籍2巻は2024/12/6発売です!>
お飾りの皇妃書影
ぜひお手に取っていただけると嬉しいです!

― 新着の感想 ―
書類仕事をさぼったところで、怒られるのはウルカなのでは⋯
[良い点] 神獣様にもできないことはある! だけど次の策を思いつくシャノンちゃんは賢い! 現物なしに言葉だけのやり取りで書類の仕分けの仕方が分かるのもすごい。 しかも、そこそこ複雑な計算をやけに早く…
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