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【36】過保護増殖中






 ヴィラ・ユベールのカツカツとしたヒールの音が聞こえなくなってから、やっとウルカさんの手が私の肩から離れた。


 そして私達が廊下に出ると、私以外の二人が青い顔をして震えていた。

 怖かったんだね。


 声だけでも威圧感たっぷりだったし、なんだか気味が悪かったもん。なんの心の準備もなく絡まれた二人はどれだけ怖かったか。

 気分一つで自分の家なんて潰せてしまう程の相手だけど、何で機嫌を損ねるか分かんないもんね。


 震える二人を抱きしめてよしよしと背中を撫でてあげる。ウルカさんも落ち着かせようとしてか、二人の頭を撫でていた。


「びっくりしちゃったよね、ごめんね、庇ってあげられなくて」

「いえ」

「私達を庇ったらウルカさんが目をつけられちゃうので。それに、そこまで酷いことを言われたわけじゃないし」


 ウルカさんの言葉にふるふると控えめに首を振る二人。

 確かに言われた内容だけなら暴言とまではいかない。ただ、お前は世界一高い山のてっぺんにいるのかって感じで二人を見下してたのが声音からでも察することができた。

 私の方から姿は見えなかったけど、きっと態度も虫を相手にするような酷いものだったんだろう。そうじゃなかったらあの内容でここまで怯えることはないはずだ。



「―――う~ん、今日はもうやめておいた方がよさそうね。これを洗濯場まで運んだら今日はもう帰っていいよ」

「え……」


 ウルカさんの言葉に二人が不安気に顔を上げた。

 自分達が使えないと判断されたから帰されると思っちゃったんだろう。二人ともキュッと私の腕を掴む。

 するとウルカさんも二人が誤解していることを察し、慌てて言い募る。


「ああっ、二人に悪いところは何もないよ。元々ただの体験だし、怖い思いをしたのに無理することはないって意味。侍女長には私の方から言っておくから今日は帰ってゆっくり休んで。シャルさんも」


 そうは言われても本当に帰っていいのか問うようにこちらを見てくる二人。

 う~ん、本当はもうちょっと見たかったけど今日は仕方ないよね。何より私が残るって言ったらこの二人も残りそうだし。

 となると、私の選択肢は一つだ。


「はい、じゃあお言葉に甘えさせていただきます」


 そう答えるとウルカさんはニコリと笑い、一つ頷いた。

 おそらく大体の事情を察しているだろうウルカさんの同僚さんも「それがいいよ」と同意している。


 私の両腕にそれぞれくっついている二人もウルカさんの提案を素直に受け入れることにしたようだ。

 まあまだ子どもだし、本音は侍女体験なんて来たくなかっただろうしね。家のためを思って今日ここまで来ただけで偉いよ。

 シャノンちゃんってば二人の頭を撫でてあげたい。その二人に腕をそれぞれ掴まれちゃってるからできないんだけどね。


 そして洗濯場までシーツやらなにやらを届けた後、私達は帰宅した。

 私は別の門から帰ると言って二人と別れた後、誰もいない所まで来ると目の前にリュカオンが現れる。


「リュカオン!」

「シャノン、お疲れ様」


 ほら乗れ、と言わんばかりに頭を下げるリュカオン。イケメンすぎる。

 もちろん遠慮なく乗らせていただきます。


 リュカオンに乗った瞬間に押し寄せてきた疲労感のせいで全身から力が抜ける。力の抜けた私は、跨ったままリュカオンの上に寝そべるようにしてその首に抱き着く体勢になった。ただ、そんな体勢でもリュカオンの安定感は失われることはない。


「リュカオン、色々と話したいことはあるんだけど、とりあえず離宮に帰ってから話すね」

「ああ、それがいいな」


 それからリュカオンは超特急で離宮へと帰ってくれた。もちろん私をずり落としたりせずにね。


 離宮の玄関を開くと、使用人全員が集まって私を出迎えてくれた。


 「ただいま」というと全員が「おかえりなさい」と返してくれる。うんうん、これだよこれ。温かいなぁ。

 本来の使用人との関係ってこうだよね。

 心が冷え切ったヴィラ・ユベールと思いがけず遭遇していたおかげでうちの使用人達の優しさがより身に染みるよ。

 寒暖差で風邪ひきそうなくらい。……あ、そんなこと考えてると本当に風邪ひきそうだから止めておこう。今のなしなし。

 私は頭の中に浮かんだ考えを必死に振り払う。


 のんきにそんなことを考えていると。いつの間にか自分の部屋に到着していた。早いね。

 リュカオンに乗ったままだから早いのは当然かもしれないけど、セレス達も後ろにきちんとついて来てる。みんな足速いね。

 

 そこからの展開も早く、セレスによって光のスピードで着替えさせられた後、ルークによる診察と、酷使された私の筋肉に対するケアが行われた。

 深窓の姫君だったシャノンちゃんの筋肉にとっては王城で歩き回るだけでも重労働なのだ。


 短い間だったけど体力作り頑張ってよかった。やってなかったら途中で倒れちゃうところだったよ。


 あ、ちなみにオーウェン達はいつも通り部屋の外でオロオロしてた。


 ベッドの上で上半身を起こした体勢になり、念のためにと毛布でグルグル巻きにされる。

 うんうん、まだ寒いもんね。……って、みんなリュカオンの過保護さがうつってない? あ、私の体の弱さじゃあこのくらいが普通? なるほどね。


 ルークによってまだ熱が出ていないことを確認された後、やっとリュカオンと話をする準備が整った。


 いや~、ここまで長かったね。

 私的にはさっさとリュカオンと話したかったんだけど、私の診察が終わるまでリュカオンは頑なに口を聞こうとしてくれなかったのだ。

 私の性格をよくお分かりで。

 割と一つのことに集中しちゃうタイプだから、リュカオンとの話に夢中になっちゃったら体調確認に対する返答とかが疎かになっちゃう。リュカオンはそれを心配したんだろう。



 出鼻はくじかれちゃったけど、これもみんなの優しさだ。




 さて、何から話そうか。


 セレスの持ってきてくれた紅茶で喉を潤した後、私達はようやく話し合いを始めた―――。
















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