【35】初日にして遭遇しちゃったよ!!
ストックが切れたので明日から毎日更新ではなくなるかもです!m(__)m
上手く紛れ込めた私は、早速先輩侍女さんに付いて仕事場に向かった。
一番地位が上だろうなって思ってた黒髪の侍女さんはどうやら侍女長だったらしい。侍女長さんは私達を適当な人数に分けると自分の仕事に戻って行った。そりゃあ侍女長ともなれば忙しいだろうしこんなちびっこ達に構ってる暇もないよね。
顔を出してくれただけでもありがたいことなんだと思う。
うん、この感じだと侍女長はまともそうだね。まだ分からないけど。
侍女長さんの後ろにいた四人の侍女のうち、栗色の髪をした若めの侍女さんに私と他の二人は振り分けられた。この侍女さんは二十歳くらいかな。
先を歩く侍女さんが私達に話し掛けてくる。
「私の名前はウルカと言います。ええと、まずは簡単な説明ですかね。王城侍女といっても上級から下級とピンキリですし、仕事は多岐に渡ります。皇族の方々の身の回りのお世話はもちろんですが、掃除や洗濯、お客様のおもてなしや書類仕事などもありますね。皇族の方々への贈り物の選別をしたり渡しに行くのも私達の仕事になります。分かりましたか?」
「「「はい」」」
「ではまず客室の片付けをしてみましょうか。シーツを引っぺがしたりゴミを回収するだけなのでそれほど難しくないですし」
にこやかに笑い、ウルカさんは私達を伴って客室の方へ向かって行った。
さすがに王城に泊まれる身分の人が使う客室なだけあって一部屋一部屋が広くて豪華だ。といっても、ゴテゴテした内装というわけではなく品がいい感じ。さすがだね。
さあ作業に取り掛かろうとしたところで、先程別れた他のグループの子達もこちらにやってきた。
私とは他のグループの子達を引率してきた侍女さんがウルカさんに声を掛ける。
「あらウルカ、あなたもここだったの」
「ええ、今日は客室の掃除はたくさんやることがあるし……ほら、彼女とは鉢会わなそうでしょ?」
「あ、やっぱりそうなんだ。私もよ」
「やっぱそうだよね」
そう言って二人は苦笑を交わす。
彼女……?
誰の事だろう。後でそれとなく聞いてみようかな。
忘れないようにしなきゃと思っていたけど、思ったよりも早くその機会はやってきた。
説明としてウルカさんと一緒に一部屋綺麗にした後、私以外の二人がペアになって一部屋、そして私とウルカさんがペアになって他の一部屋の清掃をすることになった。
ちょうどいい機会だ。
部屋の扉をパタンと閉じ、さあ話し掛けようと口を開きかけるとウルカさんの方から私に話し掛けてきた。
「えっと、シャル・ウラノリアさんで間違いないよね?」
「はい」
「一応聞くけどユベール家の縁者の方だったりする?」
「いえ全く。帝都では名前も知られていない程の田舎貴族なので」
スンとした顔で答えたけど、いきなりユベールの名前が出たことで内心びっくり、心臓はバックバクだった。
「そう。さっき私達の他にいた侍女の中に金髪の子がいたの覚えてる?」
「はい」
たしか、ちょっと勝気そうな顔をした金髪の侍女さんがいたはずだ。
「あの子には気をつけた方がいいかも。元々あんまり勤勉な方ではなかったんだけど、あの子のお姉さんがユベールの分家の方と結婚してからはさらに増長しちゃってね、大人しそうな子にそれとなく自分の仕事を押し付けるようになっちゃったの。シャルさんは大人しそうな見た目だし、ターゲットにされるかもしれないからなるべく近付かないようにね」
「はい、ご忠告ありがとうございます」
どうやらこれを言うために私と二人きりになったようだ。優しい。
きっとその金髪さんも罰されないギリギリのところでやってるんだろうな……。そういう小物は逆に質が悪いって聞いたことがある。
「最近はユベールの縁者の侍女が皇妃様への贈り物を横領した罪を他の子になすりつけたことがバレてクビになったから暫くは大人しくしてると思うんだけどね。でも、ああいう人に限って自分は大丈夫とか思ってそうじゃない?」
「……そうですね」
多分、というか間違いなくセレスの件だよね。
「まあ、真犯人が罰されたのはいいんだけどその肝心な皇妃様への贈り物がまだ見つかってないんだよね。隠し場所を吐く前に失踪しちゃったらしいし。だからもし皇妃様への贈り物らしきものを見つけたら教えてね」
「はい」
「あ、あと、一応今の話は他の子達に言わないでね」
「分かりました」
もし私が口の軽い人間だったらどうするんだろう。まあちゃんと教育を受けた貴族ならそんな人は中々いないか。
私も他の子に言う気は全くないし。リュカオンが人質……狼質? にとられたりしたらポロッと漏らしちゃうかもしれないけど。
まあ私ならともかく、リュカオンを無抵抗で捕らえるなんてできるわけないけど。国家転覆より難しいんじゃないかな。
そこからは特に無駄話もせず、私達は部屋の掃除に勤しんだ。
「じゃあ回収したシーツとかを洗濯場に運びましょう」
「はい」
シーツやタオルなどをカゴに入れて持ち、部屋を出ようとした瞬間、リュカオンからの念話が入った。
『待てシャノン』
『ん? どうしたのリュカオン』
『何か、嫌なものがそちらに近付いてる』
嫌なもの……? なんのことだろう。
そして、部屋の扉をほんの少しだけ開けて急に動きを止めた私を訝しんだのだろう、私の肩にウルカさんの手がポンと置かれた。
「シャルさん、どうした―――」
「―――あら、小さいのがうろちょろしてるわね」
ウルカさんの言葉を遮るようにして、廊下から女性の声が聞こえた。
艶のある色っぽい声だけど、どこか底冷えするような気味の悪さを孕んでいる。なんだか不気味な雰囲気の声だ。
「ああ、そういえば侍女体験というのがあったわね。下級貴族は大変ねぇ。まあ平民上がりの侍女が増えるよりはいいけれど」
きっと廊下に出ていた侍女体験中の子に話し掛けているんだろうけど、その声音からは幼い子に対する慈しみなどは全く感じられなかった。
「平民出身の侍女といえば、この前も手癖の悪いのがいたそうね。どんな手を使ったのか、私の家に所縁のある侍女に罪を擦り付けたそうだけれど。おかげでその子は傷心のあまり姿を消してしまったそうじゃない。本当に平民は質が悪いわ」
逆だよ! 逆すぎるよ!!
その言葉そっくりそのまま返してやる! 本当に調子に乗った貴族は質が悪いわ!!
絶対今のセレスの件だし。
そして私は今の言葉で、この女が誰なのか見当がついてしまった。
反射的に部屋の外に出ようとすると、ウルカさんに肩を握られて止められた。ウルカさんの方を振り向くと無言で首を振られる。私が抗議しようとしているのを察したんだろう。
ウルカさんの判断は正しく、そのやり取りをしている間に女性は「精々立派な侍女になって私に尽くすことね」と言って去っていった。
意外とあっさりいなくなったね。
私が出て行ってたら事態をややこしくしちゃってたな。周りの子も巻き込んじゃったかもしれないし。止めてくれたウルカさんに感謝だ。
まあセレスの件を曲解してるのは許さないけど。
そして私はほぼ確信を持ちつつもウルカさんに問いかけた。
「ウルカさん、今の人は……」
「うん、シャルさんも見当がついてるかもしれないけど、彼女はヴィラ・ユベール。ユベール本家のご令嬢よ」
―――出たな、悪の親玉の一味。
絶対にシャノンちゃんが成敗してやるんだからね!!
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