【33】こんなかわいい侍女がいてたまるか!!
せっかくセレスが急いで直してくれたのでドレスを一回脱ぎ、さっそく小さくなった侍女服に袖を通してみた。
「おお、ぴったり。セレスどう?」
手を広げてセレスに見せる。
「とっっっってもおかわいらしいです!!!」
セレス大興奮。
傍から見てサイズ感が合ってるかって質問だったんだけど、返ってきたのは賛辞だった。まあ悪い気はしない。
「こんな愛らしい侍女いませんよ! くるんと丸めてお持ち帰りされちゃいます!!」
「せ、セレス落ち着いて……」
今にも鼻血が出そうなほど興奮するセレスを宥める。
数分経てば、セレスも見慣れたのか落ち着いてくれた。
「潜入する際はまた髪と瞳の色を変えられるのですよね?」
「うん、やっぱり私の色は珍しいから目立っちゃうしね。念のため名前もシャルって名乗るよ」
私ってば一応王族だし、生まれた時から仕えられる方の立場だったから体験とはいえ侍女になるのはなんだか不思議な心地だ。
「みんなにも見せてこよっと! あ、その前に」
「?」
首を傾げるセレスに抱きつく。
「セレス、侍女服直してくれてありがとね」
お礼を言うのは大切だ。
すると、セレスが両手で顔を覆って天を仰いだ。
「~~~っ! 私の主が最高すぎる……!」
「そうでしょうそうでしょう、シャノンちゃんはいつもみんなに誇れる主であろうと思ってるからね。ちょっとおマヌケなところも人間性でカバーだよ!」
「……それを自分で言っちゃうシャノン様が私は好きですよ」
「えへへ」
セレスにギュッと抱きしめ返されて私はご満悦だ。
「じゃあみんなに見せてくるね!」
「はい。あ、私もお供します」
「おっけー」
みんなはどこかな~と考えながらセレスとリュカオンを伴い部屋を出る。
「あれ? リュカオン様にお乗りにはならないんですか?」
「うん、体力作りしないとね」
王城に潜入するためにっていうのもあるけど、これから自分で動く機会も多いだろうから体力切れで動けなくなるというのは避けたい。
「ずっとリュカオンに甘えてたいのはやまやまなんだけどね」
「我も背中にシャノンの重みがないのは少々寂しいな」
「……」
「あ、こら、無言でよじ登ろうとしてくるんじゃない。体力をつけるんだろう」
身を捩って私がよじ登ろうとするのを阻止するリュカオン。
「ハッ! そうだった」
だってリュカオンが寂しいとかいうんだもん。寂しいのはよくないからね。
だけど体力もつけないといけないので私は渋々リュカオンから離れた。
「みんなはどこにいるかな~」
オーウェン達は今日も訓練に勤しんでるだろうし、ルークは医務室を自分の使いやすいようにカスタムしているらしい。まあオルガは調理場にいるでしょ。
テコテコと歩き、まずは玄関ホールへと向かう。
「みんな~みてみて! セレスが侍女服直してくれた!」
オーウェン達の前まで行き、クルンと一回転する。
「どうどう? 似合う?」
「……似合いすぎるくらいです。変な貴族に攫われたりしないでしょうか……」
真顔でそう言うオーウェン。他のみんなもうんうんと頷いている。
どうしよう、私がかわいすぎたからか賛辞を通り越してみんなを心配させちゃったみたい。
「まあそれはリュカオン様がいると思うので大丈夫だとは思いますが、いらぬ嫉妬を買いそうで心配です……」
「確かにそうですね」
オーウェンの言葉にジョージが同意する。
う~ん、たしかに目立つのは本意じゃないなぁ。動きづらくなるし。
「仕方ない、顔は隠そうか。セレス、なにかいい方法はある?」
「伊達メガネで顔を隠しましょうか。あとは前髪で目を隠すようにして地味な顔になるようにちょっぴりメイクをすればいけるかと」
「さすが私の侍女、それで行こう!」
幸い伊達メガネはセレスが持ってるらしい。
髪と瞳の色も変えるしそれで完璧だね。
その後、ルークとオルガのところにも行った。
実際に潜入する時は変装することを最初に伝えたから、二人とも手放しで褒めてくれた。
「すっごくかわいいです。侍女服なのにお姫様みたいにかわいい」
「シャノン様はどんな格好してもかわいいっすね!!」
シャノンちゃん嬉しい。
よし、これで準備は大体整ったね。あとは体力作りとか念話の練習をして潜入の日に備えよう。
セレスの話だと次の侍女体験の開始日は一週間後らしい。侍女体験に参加できるのは貴族の令嬢のみだから、私でもそこまで浮きはしないだろうとのことだった。
王城に入れる時点で手続きを踏んでいる証拠だからそこまで確認はされないってことだけど、一応隙を見て書類を偽造したりする準備もしておく。備えあれば憂いなしってやつだね!
いざって時のために逃走する準備もしておこう。
そのためには逃げ足も鍛えないとね。魔法で移動スピードを速くすることはできるけど、どれだけ早くなるかは本人の身体能力に依存する。だから聖獣と契約している騎士であっても体作りは欠かせないのだ。
そんなわけで少しでも足を速くしておきたい。なんてったって今が最低レベルだから伸びしろしかないしね!
―――ってことでシャノン、走ります。
「目指せ脱・早歩き!」
「うむ、体調を崩さない程度に頑張れ」
「リュカオンは過保護だね。私でもちょっとやそっと走ったくらいじゃ体調なんか崩さないよ。……なにその目」
可哀想なものを見る目だ。
分かってるよ、私もフラグっぽいなって思ったもん。
そんなわけで、早速やたらと長くて広い廊下を走ってみることにした。
リュカオンとセレスに加え、元騎士のオーウェン達が私の走る姿を見守ってくれる。やっぱり騎士は体の動かし方とかをよく知ってるから、何かいいアドバイスをくれそうだもんね。
「じゃあいっくよ~!」
廊下の端までいき、みんなの待ってる逆側の端まで全力で走った。
ぜぇ、ぜぇと息を荒げる私の背中をさすりながらセレスが恐る恐る口を開く。
「……シャノン様、今のは走られていたんですか?」
「全速力だよ!」
前屈みになっていた状態から顔を上げると、みんなが絶句していた。
私の足、予想以上に遅かったんだね。
これはどうしたものかといったようにオーウェンがチラリとリュカオンを見る。
「幼児が必死によちよちと走ってるようで愛らしいだろ」
「……そうですね」
本気でそう思っているのか私をフォローしているのかいまいち読めないリュカオンの言葉にオーウェンが微妙な顔で同意する。神獣様の言葉は否定できなさそうだもんね。
みんなの反応的にこれはやばいと思ってそれからいっぱい走ったけど、途中でリュカオンストップが入った。その後はルークによって適切なストレッチが施される。
過保護な神獣さんが止めてくれるから、頑張り過ぎて体調を崩すなんて心配は杞憂だったね。