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【31】私だって買い物くらいできる気がするけどなぁ






 その日の夕飯はみんなで食べた。

 食堂は広いので九人でテーブルに着いてもスペースには余りがある。


 慣れない環境だったにも関わらずテーブルの上には立派な食事が用意されていてびっくりした。

 オルガは「調理場の道具とかは大体把握したんで、明日からはもっとうまいもん作りますね!」と言っていたけど、メインにサイドにスープ、あとパンがあるなんて十分過ぎる。

 毎日料理を作ってくれる人がいるなんてありがたいことだよね。まともな料理も作れずそのままでいける果物を食べたことを思い出しちゃう。


 いっぱいあったので早めに消費しようとのことで今日のメインは魚料理だ。オルガが作ってくれた魚料理はとってもおいしかった。本当は一口食べた瞬間からオルガに抱きついてお礼を言いたかったけど、お行儀が悪いので止めておく。


「ところでみんな、何か足りない物とか必要な物とかはあった? 何かあったら私買ってくるよ」


 私が言い終わった瞬間、全員の動きが止まり、その場を静寂が支配する。

 カチャカチャと微かに聞こえていたカトラリーの音もピタリと止んだ。


「ん? みんなどうしたの?」


 シャノンちゃんの心遣いに感動して言葉も出ないのかな。

 すると、私の目の前にいるセレスが真剣な顔でこちらを見据えてきた。


「シャノン様、お買い物はシャノン様一人で行かれるおつもりですか?」

「うん、もちろん」

「……失礼ながらそれは不可能ではないですか?」

「私は不可能を可能にする女」

「そういう次元の話ではありません。いいですか、決してお一人で街に買い物には出ないでくださいね。リュカオン様を連れてもダメですよ」


 セレスがそう私に言い聞かせる。


「な、なんで?」

「シャノン様、正直シャノン様はとっても世間知らずでいらっしゃいます」

「は、はい」

「金銭感覚はありませんし、買い物にも慣れていらっしゃらないと思うので周囲から浮くこと間違いなしです」

「がーん」


 お買い物くらい私でも簡単に出来ると思ってたけど、どうやらそれは思い上がりだったみたい。他のみんなもうんうんと頷いている。


「幸い必要なものは揃っているので買い出しも大丈夫ですよ」

「あ、そう、それはよかった」


 買い出しの必要はないとだけ言えばいいにも関わらず、わざわざ私に買い物は行かないように言ったのはそれだけ私がやばいということだろう。

 いや、でも、セレス達が大袈裟なだけでさすがに私も買い物くらいできる……よね? 

 うん、そう信じよう。


 ただ、いたずらにセレス達を心配させたいわけでもないので買い物に出るのは暫く止めておこうと思う。


「ふふふ、みんな心配性だね」


 そう言うとみんなが揃って微妙な顔になった。仲良しだね。





 食事が終わると、私は真っ先にオルガのもとへと向かった。

 そのままギュッとオルガに抱きつく。


「オルガ、ごはんとってもおいしかった。ありがと」

「~~っ!! シャノン様ってばいい子! 俺、これからもおいしいごはん作りますからね!!」

「うん、期待してるよオルガ!!」


 オルガの作ってくれる料理は味もそうだけど量も丁度いいからね。


 夕食を済ませた後はセレスが手伝おうかと申し出てくれたけど自分でお風呂に入り、自分で着替えて寝た。それくらいはできるようになったシャノンちゃんです。


 ベッドに入り、リュカオンに話し掛ける。


「ねぇリュカオン、私がお買い物に行くのってそんなに無謀な行為なのかな」

「ああ、シャノンにはまだ早い」

「まだ早いって……シャノンちゃんもう十四年生きてますけど」

「まずは金銭感覚を身に付けることからだな」


 リュカオンは優しくそう言い、私の上にのしかかってきた。自然、私はリュカオンのお腹の下に仕舞われる形になる。


「ふふふ、子狼になった気分」


 リュカオンの下で仰向けになり、胸の辺りを両手でふみふみしてみた。子猫の真似だ。狼の子どももふみふみするのかは分からないけど。

 リュカオンの毛の触り心地を楽しんでいると、リュカオンが私をジトリと見下ろしていた。


「おい、我から乳は出んぞ」

「そこなんだねリュカオン」


 そう言うと、「いいからもう寝ろ」と再びリュカオンの腹毛の下にしまい込まれた。

 ぬっくぬくだ。まだまだ雪も降ってるし寒いからね。


 久々に大きくなったリュカオンの温もりに包まれ、その日はぐっすりと眠れた。






 次の日の朝は、扉がノックされる音で目が覚めた。


「シャノン様、おはようございます。入ってもよろしいですか?」


 どうやらセレスが早速侍女として起こしにきてくれたようだ。


「ん~……どうぞ~……」


 寝ぼけ声でセレスを呼び込む。

 まだ目は開けられない。

 扉が開く音がして小さな足音が近付いてくるのが聞こえる。セレスが入ってきたんだろう。


「シャノン様、おはようございます」

「ん、おはようセレス。やっぱり朝は寒いねぇ」


 寒くてリュカオンの毛皮に顔を埋める。

 そんな私達を見てセレスは微笑まし気な笑い声を上げた。


「ふふふ、本当にシャノン様とリュカオン様は親子のように仲がよろしいですね。お色も似てますし」

「うん、私リュカオンと仲良し」


 ぎゅううと、まだ寝ぼけ眼なリュカオンの首に抱きつく。

 他の聖獣と契約者達の関係もこんな感じなのかな。


「どうします? 予定もないですしまだ寝られますか?」

「ううん、起きるよ」


 生活リズム大事。

 オルガが頑張って朝ご飯を作ってくれてるだろうしね。

 リュカオンの下から這い出し、上半身を起こす。そしてセレスが洗面器に用意してくれたお湯で顔を洗った。


「お召し物はどうなさいます?」

「う~ん、セレスも来てくれたし久々におめかししようかな」


 と言っても私一人では着られないドレスを着るくらいだけど。


「まぁ! いいですね。髪の毛も少し弄らせていただいてもよろしいですか?」


 セレスが目に見えてウキウキし始める。


「いいよ。ドレスもセレスが選ぶ?」

「はい! 是非!」


 小さい頃はお人形さん遊びが好きだっただけあって服を選ぶのも好きなのだろう、セレスは嬉しそうにクローゼットへと向かって行った。


 セレスが選んだのはちょっとおしゃれをしたい日に着るような普段使い用のドレスだ。薄紫色を基調としたドレスで、細部にリボンやフリルがあしらわれている。

 着るには背中部分に付いているボタンをいくつも留めないといけないので私一人で着るのは至難の業だ。


 寝巻を脱ぎ、ドレスに袖を通す。その際、セレスが私の着けているブレスレットに気付いた。


「あら? そのブレスレット……」

「ああ、これは―――」

「王城の入城許可証ですね。今までそんなブレスレット着けていらっしゃいましたっけ?」

「!?」


 さらりと放たれたセレスの言葉に私は目を瞠った。


「え!? 入城許可証!?」

「は、はい、そのブレスレットに付いているチャームが入城許可証ですね」


 「一回ぽっきりのだと紙なんですけど」、とセレスが続けるけど、大事なのはそこじゃない。


「これがあれば王城に入れちゃうってこと?」

「? はい」


 事も無げに言うセレス。

 そう言えばセレスには私が王城に入れないことは言ってなかったかもしれない。まさか皇妃である私が王城に入れないとは思わないもんね。


 一度ブレスレットを外してセレスに見てもらったけど、やっぱり間違いないようだった。



 ―――どういうこと? どうしてフィズはこれを私に渡したんだろう……。


 夜だから周りは結構暗かったし、別のブレスレットと間違えたのかな。

 そういえば、とてもかわいいという感じではないこのブレスレットをかわいいと言ってたし、その説が濃厚かもしれない。

 だとしたらフィズには悪いけど、このまま有効活用させてもらおう。どうやって王城に入ろうか迷っていた私にとって、またとないチャンスが物理的に転がり込んできたんだから。


 だけど、前回のように自分達の窮状を訴えるために王城に行きたいわけではない。

 生活するのに困らないくらいの使用人は確保できたしお金も手元に十分ある。そして私はそこまで贅沢がしたいわけでもない。それに、今私が皇帝と接近するのはあまり得策ではなさそう。

 妻として、頑張ってる旦那様の邪魔はあまりしたくないし。


 だけど、私はただ黙ってことが終わるのを待っているタマでもない。


 こちとら早くユベール家の問題をなんとかしてゆっくり余生を過ごしたいのだ。


 なので、立場やらなにやらにがんじがらめになって思うように動けていないだろう旦那様を陰ながら手助けしたいと思います。

 シャノン……いや、シャルとして動こう。


 手始めに王城侍女の抜き打ちチェックかな。セレスの件がどうなったのか、ここにいても情報は入ってこないし。あとはついでに私のペンダントを盗んだ犯人探しもできたらいいな。


 あ、もちろん旦那様の邪魔にならないように慎重に動くよ。



 さて、そうと決まればみんなで作戦会議だ!














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