表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/194

【30】色を戻しただけなのに






 次はセレスとルークの様子を見に行こうかなと思ったところで私は気付いた。


「そういえば、まだ色を戻してなかったね」

「おお、そうだったな。慣れてすっかり忘れていた。我も小さいままだったな」


 念には念をということで療養中も色を変える魔法は解いていなかったんだけど、そしたら慣れちゃって色を変えていたことをすっかり忘れていた。


「じゃあ戻すぞ」

「うん」


 リュカオンが尻尾を一振りすると、私の髪と目の色、そしてリュカオンの色と体の大きさが元に戻った。

 自分の髪の毛を一房取って見てみると、元の白銀色に戻っていた。うんうん、やっぱりこっちの方がしっくりくるね。

 リュカオンも元の大きさに戻って体を伸ばしている。その動作一つとってもわんこサイズとは迫力が違う。


 すると、こちらを見詰める複数の視線を感じた。すぐ側にいたオーウェン達だ。

 みんな目を見開いてこちらを見ている。そっか、そういえば色を変えてることも言ってなかったね。


 最初に口を開いたのはオーウェンだった。


「お二人とも、それが本来のお姿なのですか……?」

「うん」

「そうだ」


 私とリュカオンがそれぞれ答える。


「……なんというか、元の姿のお二人が並んでいると神々しいですね。外から差し込んでくる光も相まって絵画を見ているようです……」


 ほぅ……と感嘆の溜息を吐いてジョージがそう言った。


「そう? 変わったのは色だけなのに。あ、リュカオンは大きさも変わったか」


 私は先程よりも近い位置にきたリュカオンの頭を撫でる。

 ちなみに、魔法で顔を変える……というか、変わったように見せることは出来なくはないけどあんまり褒められた行為ではない。顔が変わると誰か分からなくなっちゃうし犯罪に使われる危険性も高いことから、禁忌魔法の次くらいに忌避されている魔法だ。

 まあ、そもそも出来る人があんまりいないんだけどね。

 色は定着させられるから、一度魔法をかければ解除するまで効果が持続する。でも、容姿そのものを変化させる魔法を持続させるには常に魔法を発動させていなければならない。気を抜くとすぐに元の顔に戻ってしまうからだ。

 そもそも、その魔法を使うこと自体そこそこ高位の聖獣と契約していなければできない。そんなわけで、私も変装は色を変えるだけになったのだ。リュカオンは大きさも変えていたけど、多分体全体の大きさを変えるだけならそこまで難しくないんだろう。神獣であるリュカオンにとっては。


「……ねぇ、私の自意識過剰じゃなかったらもしかしてみんな見惚れてる?」


 明らかにうっとりとした視線は、私……というかリュカオンの姿に見とれているとしか思えなかった。


「もちろんです! まさか言い伝えと同じお色の神獣様をお目に掛かれるとは。それに、シャノン様も元のお姿だとかわいらしさの中に神聖さが加わりますね。……あ、リュカオン様が神獣だということを疑っていたわけではありませんが」


 オーウェンの言葉にみんながうんうんと頷く。


「大丈夫大丈夫、ちゃんと分かってるよ」


 その後、サービス精神旺盛なシャノンちゃんはみんなの前でリュカオンと一緒に絵画に描かれているようなかっこいいポーズをとってあげた。リュカオンは嫌がるかなと思ったけど、「かっこいい」とか「神々しい」とか言われて嬉しかったのかノリノリだった。

 画家がいないのが残念だね。私とリュカオンの勇姿を是非絵に残して欲しかったのに。絵を描いている間ジッとしているのは苦手だからいいけど。


 そんな感じでもてはやされ、調子に乗ってポーズをとっていた私達だけど、オーウェン達が感涙にむせび始めるとハッと我に返った。

 そして、これ以上大の大人、それも騎士に涙を流させるのはまずいとその場を離脱する。






「危ない危ない、あれ以上続けてたら狂信者ができちゃうところだったねぇ」


 リュカオンに乗り、冗談めかしておでこの汗を拭うフリをしたけどあながち間違いでもなさそうな雰囲気だったんだよね。

 私としては「なにしてるんですか」って笑ってもらう予定だったんだけど、まさか感動で泣かれるとは思わなかった。まだこの国の人の感性を理解するには程遠いね。



 リュカオンに乗って、てってこてってこと使用人ゾーンに行くと、セレスとルークがいた。


「あ、セレス! ルーク!」


 廊下で話していた二人に声を掛ける。そしてこちらを向いた二人は揃って目を見開き、驚いたような顔になる。

 同じ表情をするとやっぱり似てるね。


 驚き口元を覆い隠したままセレスが言う。


「し、シャノン様、それにリュカオン様、そのお色は……」

「これが元の色だよ。リュカオンも狼だし、元々はこの大きさ」


 よしよしとリュカオンの頭を撫でる。


「色が違うだけで大分印象が変わるものですねぇ」


 私を見てルークが感心したように言う。


「それに、その姿のリュカオン様に乗るシャノン様は絵になりますね。このまま暫く観賞していたいくらいです」


 ニコニコとそんなことを言うルーク。

 この国の人、みんな神獣大好きすぎじゃない?

 あんまり信仰心の強そうじゃないルークからもこの感想が飛び出るんだもん。


「みんな神獣大好きだね」

「……好きなのは神獣様だけじゃないですよ。シャノン様も大好きですし、茶髪よりもその白銀色の髪の方が神秘的でお似合いです」


 セレスにギュッと抱きしめられる。その後ろではルークがうんうんと頷いていた。


「えへへ、嬉しい」


 やっぱりハグされるの好きだなぁ。


「あ、でも、帝国では銀髪に空色の瞳の人しか神獣と契約できないって言われてるんじゃなかったっけ? 私はその条件には合わないけど、リュカオンと契約してるって信じてくれるの……?」


 抱き締められたままセレスの顔を見上げてそう問いかける。

 すると、セレスは優しい微笑みを浮かべて言った。


「ふふ、私は言い伝えよりも恩人の言葉を信じようと思います。それに、シャノン様はそんな嘘を吐く人ではないでしょう?」


 セレスの言葉に同意するようにルークも頷いている。


「セレス……! すきっ」

「私も好きですよ」


 ぎゅううと私達は抱きしめ合った。

 両想いな私達の後ろでは、手をわきわきさせたルークとリュカオンが何やら話している。


「これは美しい光景ですね。どうしましょう神獣様、僕も交ざった方がいいですかね?」

「止めておけ。抱き着きたいなら我にしておくがいい。シャノンを信じてくれた礼に触らせてやろう」

「え!? いいんですか!?」


 聞くや否や、ルークはリュカオンの首に抱きついた。流石チャンスは逃さない男。

 ルークはリュカオンのフワフワさらさらの毛並みに頬ずりする。それにセレスが慌て、ルークを止めにかかった。


「ち、ちょっと兄さん……!」

「止めてくれるなセレス。神獣様に触らせていただける機会なんていつあるか分からないんだから今のうちに堪能しておかないと」


 いい性格してるねルーク。嫌いじゃないよ。

 すると、リュカオンがあわあわするセレスを見上げて言う。


「そなたも触りたければ触るがいい。シャノンを信じてくれた礼だ」


 首にルークを引っ提げたまま胸を張るリュカオン。

 少し躊躇ったセレスだけど、ふわりと盛り上がる胸毛の魅力には抗えなかったようだ。ゆっくりとしゃがみ、魅惑の胸毛に手を埋める。胸毛にしたのは神獣であるリュカオンの頭を撫でるのは抵抗があったというのも理由の一つだろう。さすがのルークも頭を撫でたりはしてないし。


「ふわ……! すごい、私今神獣様に触れてます……!」


 セレスは感動して子どものように瞳を輝かせていた。


「分かるよ妹よ。まさかこんな機会を賜るなんて思ってもみなかったよね。こんな光栄なことないよ」


 ルークもかなり喜んでくれているみたい。

 そして、触らせてあげただけで大袈裟なくらい喜んでもらえたリュカオンも、あからさまに態度に出したりはしないけど嬉しそうだった。



 よかったね、リュカオン。

 


 









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Twitterです!更新報告とかしてます!
コミカライズページ
書籍3巻8月6日発売!
<書籍3巻は2025/8/6発売です!>
お飾りの皇妃書影
ぜひお手に取っていただけると嬉しいです!

― 新着の感想 ―
[一言] リュカオンがドヤ顔でふんす!となってるであろう姿が可愛すぎる~!! 我のモフ味をとくと味わうがよい!ってなってるんだろうな~。かわいい。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ