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【3】生に感謝する




 次に目覚めた時、周りに魔獣はいなくなっていた。というか、全部倒されていた。


 生きているのは私と、起きると目の前にいた青白く発光する狼だけだ。だけど、興奮状態の私は最初その狼の存在には気付かなかった。


「―――ハッ! なにこれ! なんで魔獣が全員倒れてるの!? もしかして、いろいろ混ざった私の中の血が目覚めて無意識のうちに魔獣を倒したとか!? さすが私! 血統種すごい!!」


「血が目覚めたのは本当だが魔獣達を倒したのはお前じゃない。あと自分のことを血統種とかいうのは止めなさい」

「……?」


 あれ? 今なんか声がした。騎士達は全員飛ばした筈なのに。どこからだろ。

 きょろきょろする私の顔面を狼が片手でべしょりと押さえた。固めの肉球ですね。


「死にかけてたからテンションがおかしくなっているようだな」

「?? 狼が喋ってる。なんで?」


 不思議。試しに狼の口に自分の頭を突っ込んでみた。


「ほは、ひほほふひにはははほふっほふほはひゃへははい(こら、人の口に頭を突っ込むのは止めなさい)」

「なんて言ってる?」

「ペッ、人の口に頭を突っ込むのは止めなさい。そなた、仮にも姫であろう」

「狼にぺってされたの生まれて初めて。うん、帝国に譲渡される血統種だよ」


 狼の唾液は全然臭くなかった、むしろ一瞬で乾いた。

 自分の頭を撫でていると、狼の呆れた視線に気付く。


「そなた、元々そんなキャラなのか?」

「うん、さすがに身内以外の前では猫かぶってるけどね。あ、身内って離宮の侍女達のことよ? あと、死にかけていろいろ吹っ切れたのもあるかも」


 死にかけたことで今まで自分がどんなに恵まれた環境にいたのか気付いたのだ。

 離宮に閉じ込められていたことを不満に思ってたけど、いいじゃない、命があるんだもの。むしろお世話してくれる人もいて、安全で、衣食住も揃ってるんだからあの離宮は楽園だったのだ。

 なので、今の私は祖国、ウラノス王国の民達に大層感謝している。今まで私の生活を支えてくれていたのはウラノスの民たちの税金なのだから。

 そんなウラノスの民のためなら私は喜んで敵国に行くし、お飾りの皇妃にもなろう。


 それに、生き残った今考えてみるとお飾りの皇妃というのは私にとって天職かもしれない。

 だって、お飾りってことは何もしないでも養ってもらえるってことでしょう? デメリットがあるとすれば自由に恋ができないことくらいだ。恋への憧れなんて先程血液と一緒に流れ出ていったので、その点は既に問題ない。


 私、こう見えても体は強くないし、王族としての教育も軽くしか受けていない。むしろお飾りの皇妃って天職なのでは? 私のためにある職業なのでは?


 つい先程まで真っ暗だと思っていた私の世界が、パァッと開けたような心地になる。


 すごい、死に直面すると本当に価値観って変わるんだ。


 考え方の変わった私にとって、アルティミア帝国に行かない理由はほとんどなくなっていた。



「―――さあ狼さん! そうと決まればアルティミア帝国に行きましょう!」

「何がそうと決まればなんだ。あと勝手に我の背中に跨るな」


 狼さんの毛皮は見た目以上にさらさらだった。すごい、毛の一本一本が絹みたい。


「あ、ごめん重かった? なんか、狼さんは敵じゃないと思ったから勝手に跨っちゃった。ごめんね?」

「はぁ、お前のようなちびっこ重くはない。仕方ないな、こうなった経緯は道中話してやろう。急ぐのだろう?」

「うん、ありがとう」


 私は狼に跨り、しっかりとその首にしがみついた。

 どのくらい意識を失っていたか分からない以上、帝国に急がねばならない。私は大事な和平の証だからね。


 狼の背で揺られながら思ったけど、そういえば体が痛くない。洋服は真っ赤だけど、傷は治ってるみたいだ。


「狼さんが治してくれたの?」

「無論だ。我はお前の契約獣だからな」

「あらいつの間に」

「お前が死にかけてる間に無意識に我を喚び出して契約を結んだ。つまり我はお前の契約神獣ということだ」

「へぇ。……ん? 神獣?」


 聖獣の言い間違えかな? と思ったけどそうでもなかったらしい。


「神獣で間違いない。お前の中の古代神聖王国の血が我を喚び寄せた。お前に混ざっているのがただの神聖王国の民の血ではなく王族のものだったのがよかったんだろう」

「ふ~ん」


 さすが血統がいいだけで帝国に差し出されるだけあるね。まだ帝国に到着すらしてないけど。


「じゃあ狼さんが魔獣を倒してくれたんだ」

「うむ、我にとっては魔獣など恐るるに足りぬからな」

「ドラゴンも?」

「無論。我にしてみればあれは羽の生えたトカゲだ」

「わぁ」


 ドラゴンが聞いたら怒りそうだな。


「まだまだ聞きたいことはあるだろうが、とりあえず寝ておけ。お前は生き残ったのだから」

「うん……」


 きっと私が興奮状態だと思ってそう言ってくれたんだろう。普段から割とこんな感じだって言ったらぶっ飛ばされそうだな。

 黙って寝ておこう。


 そういえば、狼さんは帝国の場所分かるのかな。


 まあ、神獣だしだいじょうぶか―――……





 





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<書籍2巻は2024/12/6発売です!>
お飾りの皇妃書影
ぜひお手に取っていただけると嬉しいです!

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[一言] ⋯⋯え、面白さまでヽ(。>▽<。)ノ
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