【29】ホッと一息
オルガが持ってきてくれたサンドイッチを一つ手に取り、はむっと齧りつく。
「ん~! おいしい!」
こういうシンプルな料理ほど職人の腕が出るよね。私が作っても多分この味にはならない。
私の胃袋と口の大きさに合わせてくれたのか、一つ一つのサンドイッチは小さめだ。
「この短時間でよく用意できたね。一からこのパン焼いたの?」
「いえ? 申し訳ないですけどそこまで時間はなかったのでパンは用意されていた既製品を使いました」
「え? もうできてるパンがあったの?」
「はい、ありましたよ。本当はいい小麦粉もありましたし一から焼きたかったんですけどね。すみません、暫くはそういうのを使ってやりくりすることになりそうです」
「え、ううん。それは全然いいの。おいしいサンドイッチありがとね」
そう労うと、オルガがぱぁっと笑顔になった。
「いえ! 俺、夕飯も腕によりをかけますね!!」
「うん、頼んだよ! あ、別のものを作るのは大変だろうから私はみんなと同じもので大丈夫だよ。ごはんもみんなで食べようね。あと、食材は足りそう?」
「承知しました! 食材は全然余裕ですね! むしろ少し多いくらいっすよ」
「それはよかった」
そう言うと、オルガは早速夕飯の準備をするからと退室していった。
私には一食にどのくらいの食材を使うのかは分からないけど食材が足りているならよかった。もしかしたらいなくなった使用人の分もそのまま食材を送ってくれているのかもしれない。
いなくなった使用人達がそんな手続きをしているとは思えないしね。
にしても、既に出来ているパンとかも送られてきているようで何よりだ。全部を一から作るのはオルガ一人だと大変だからね。
「リュカオン、ちょっと他のみんなの様子も見に行ってみようか」
「そうだな」
リュカオンも同意してくれたので、一緒に部屋を出る。すると、どこからか掛け声みたいなのが聞こえてきた。
「これは……玄関ホールの方かな?」
「ああ」
とりあえず、私とリュカオンは玄関ホールへと向かった。
玄関ホールの上から下を見下ろす。すると、どうやらホールではオーウェン達五人が訓練をしているようだった。
玄関ホールから二階に繋がる階段を下り、オーウェン達の元へ向かう。すると、みんなが一斉にこちらを向いた。
「みんなお疲れ様。何もこんな初日から訓練しなくてもいいのに」
「シャノン様。いえ、俺達は体が鈍ってしまっているので、一刻も早く筋力を戻さねばならないのです」
そう言うオーウェンだけど、素人の私からすると十分な筋肉がついている気がする。今だって登ってみたくなるほど立派な体つきなのに。現役時代はもっとすごかったのかな……。ちょっと気になる。
にしても、オーウェンを呼び捨てにするのはなんかまだ違和感があるなぁ。私に雇われるのだから呼び捨てにしてって言われて私もそれを受け入れたけど。やっぱりオーウェンはなんか威厳みたいなのがあるもんね。
オルガはすぐに違和感がなくなったんだけど……。ちょっと犬っぽいからかな。性格だけならリュカオンよりも犬っぽいもんね。
「というか、みんな騎士で採用ってことでいいの? 今はまだ人手が足りないから色んなことをしてもらうことになるけど、落ち着いたら一つの役割に専念してもらうつもりではいるんだけど……」
四人は私の言葉に特別な反応は示さなかった。だけど、一人は少し気まずそうな顔をしてる。私が治した元騎士の一人、ジョージだ。
「ジョージは、騎士以外になりたいものはある?」
すると、ジョージはおずおずと口を開いて言った。
「し、実は俺、庭師になりたくて……。でも、金とかいろんな事情があって騎士になったんです。もちろん今は人員がそこまで多くないので全力でシャノン様をお守りしますし、雑用もなんでもします。……でも、もしシャノン様に許していただけるなら、落ち着いた後、庭師として俺を雇っていただけませんか!」
最初は自信なさげに話し始めたジョージだけど、最後はきちんと私の目を見て言いきった。
「―――いいよ。じゃあその時までに頑張って勉強しておいてね。書庫は好きに入っていいから」
「っはい!! ありがとうございますシャノン様!」
ジョージは本当に嬉しそうな顔になった後、ガバッと頭を下げた。
そんなジョージに仲間達が「よかったな」と声を掛けていく。うんうん、いい関係だね。
なぜ実地じゃなくて書庫で勉強しておいてと言ったのかというと、庭はリュカオンの認識阻害魔法の範囲外だからだ。
建物の中だけでなく外までとなるとリュカオンの負担が大きくなるので、この離宮だけを対象にしてもらうように言った。オーウェン達にはこのことも事前に伝えている。
嬉しそうに話すジョージ達を見て私は思った。
―――ジョージのためにも、この状況を改善しないとね。
私は既に、対ユベールとして動く意思を固めているのだ。
まあ、私みたいな小娘に何が出来るのかって話なんだけどね。





