【28】いよいよ帰宅する!
私の体調も完全に回復し、いよいよ離宮に帰る日がやってきた。
私について来てくれるというみんなで療養所の外に出る。
「みんな、ちゃんと荷物は持った~?」
「「「はい」」」
そこそこの大荷物を持った各々が返事をする。
うんうん、準備は万端なようだ。離宮に行く人数は私とリュカオン以外に八人。私とリュカオンがそれぞれ四人ずつ連れて転移をする。
「じゃあリュカオン、また後でね」
「ああ」
また後で、と言っても転移は一瞬だけど。
そして、私とリュカオンは転移を発動した―――
目を開くと、そこには離宮の玄関ホールの景色が広がっていた。
どうやら上手く転移できたようだ。リュカオン達もすぐ側に現れたし。
「リュカオン、お願い」
「分かった」
私が言うと、事前に打ち合わせしていた通り、リュカオンはすぐに魔法を発動してくれた。
離宮全体を囲む認識阻害魔法だ。城を辞した筈のセレスやオーウェンさん達の姿がユベール家に見つかったら厄介そうだしね。オーウェンさん達が故郷に帰ったのは数年前だけどまだ顔を覚えている人もいるかもしれないし。
何より、ユベール家に私が力を持ち始めたと思われても困る。
ウラノスから使用人を連れて来られなかったのが陛下の命令なのかユベールの横槍なのかは分からないけど、私の力になってくれる使用人がいるというのは隠しておいた方がよさそうだ。もし陛下の命令であっても私がユベールに目をつけられないためにだろうし。
この離宮から使用人がいなくなったのもユベールの介入があったんじゃないかと思う。
「―――ってことで、みんなリュカオンの魔法の範囲外に出るのは禁止だよ!」
「分かりました」
みんな神妙に頷いてくれる。そっか、みんな直接的にしろ間接的にしろユベール家による被害を受けてるもんね。
「一応使用人エリアもあるけど、部屋なんていっぱい余ってるから好きなとこ使って? あ、前の使用人エリアの部屋は前の人達が片付けていかなかったからちょっと物が乱雑になっちゃってたかも……」
そう言うと、みんなの目がギンッと鋭くなった。
「勝手にいなくなるばかりか辞する前に部屋の掃除もしないなんて……」
セレスが拳を握りしめてワナワナと震える。
セレスは侍女という仕事に誇りを持っているようだから余計許せないんだろうね。でも私は彼らにそこまでの怒りは抱いていない。
「まあまあ、でも前の使用人が消えちゃったおかげで私はセレスやみんなに会えたわけだし。私のことでそこまで怒ってくれる人達が来てくれて私は幸せよ?」
そう言うと、セレスやみんなの怒りの表情が徐々に元に戻って行った。
「……シャノン様、こんなことを言うのは差し出がましいですが抱きしめても?」
「え? もちろんいいよ~。ふふふ、そんなこと聞かなくてもいいのに」
いいよと言うや否や抱きしめてきたセレスの腕の中で私はくふくふと笑う。
私も抱きしめられるのは好きだ。安心する。
「みんな今日はお休みでいいよ。生活環境を整えるために時間もいるだろうから働くのは明日からで……」
あ、でも食事はどうしよう……。
オルガを見上げると、彼はやる気に満ち溢れた目で私を見返してきた。
「シャノン様! 明日からなんて言わねぇでください!! 俺は今すぐにでも腕を振るいてぇです!!」
やる気満々でオルガはそう言う。
「う、うん、じゃあお願いしようかな」
「はいっ!」
元気よく返事をすると、オルガは駆け出して行った。
まだ調理場の場所教えてないけど大丈夫かな……。まあ、調理場の場所なんて大体分かるか。
材料は調理場にある魔道具から定期的に補充されてるから困ることはないと思う。私のいなかったこの期間にも補充されてるだろうし。
「じゃあ後は各自自分の生活環境整えてね! 今日は私のお世話はいらないから。あ、もし必要なものがあったら言って!」
「「「はい」」」
そして私達は解散した。
私とリュカオンは足早に私の部屋に戻る。
そして、私達は着替える間もなくベッドにダイブし―――寝た。
やっぱり転移を使うと疲れるね。だから一先ずお昼寝だ。
リュカオンにべったりとくっついて横になり、私達は二時間程ぐっすり寝た。
お昼寝から目を覚ますと、オルガが軽食を用意しておいてくれていた。
そしてオルガが興奮気味にまくし立てる。
「シャノン様! 調理場は宝の宝庫でしたぜ! まさかあんなにいい食材を使える日がくるとは!! 王城でも俺は下っ端で偉い人の食事なんて任せてもらえなかったんで、こんなにいい食材を扱えるなんて思ってもみませんでしたぜ!!」
「そ、それはよかった」
オルガの勢いに若干気圧されつつも私はそう返す。
オルガの興奮具合を見るに、ちゃんといい物が用意されていたらしい。食材の質が分からないどころかそれを使って料理に失敗してることはオルガには内緒にしておこう。
にしても、食材を用意してくれた人には申し訳ないことしたな……。
オルガが来てくれたので私はもう料理には挑戦しません。……多分。
私はまだ顔も見ぬ、食材を用意してくれた人にそう誓った。





