【27】謎の青年から謎のブレスレットをもらった
こちらに来てから五日目の夜、私は全然眠れなくて苦しんでいた。
……全く眠気がない。
今日は昼間に寝すぎちゃったなぁ。
もう熱も下がってるし、ベッドから出て床にヒタリと足をつける。そしてブランケットを羽織り、窓の方に向かった。
ちょっと外の空気が吸いたかったのだ。
ペタペタと窓の方に歩み寄り、ガラリと窓を開ける。その瞬間―――
「わっ」
ビュゥッと強い風が吹き込み、羽織っていたブランケットが窓の外に飛んでいってしまった。幸い遠くまではいかず、この窓の真下に落ちる。
ここは二階だから、下に降りないとブランケットは拾えない。
後ろを振り向くと、ベッドの上ではリュカオンが穏やかな寝息を立てていた。
起こすのは……悪いよね。
仕方ない、一人で拾いに行こう。
私はみんなを起こさないようにこっそりと療養所を出ると、ブランケットが落ちた場所へと回った。
すると、そこにはもう誰かがいた。そして積もった雪の上に落ちたブランケットをその誰かが拾う。
近付いて行くと、徐々に顔が見えてきた。
「―――あ」
「やあ、また会ったね」
そう言ってニコリと笑ったのは超絶美形なお兄さん、フィズだった。
「これは君の?」
「はい」
そう答えると、フィズはふわりと私の肩にブランケットを巻き付けてくれた。
「あ、ありがとうございます」
「いいえ」
「ところで、フィズはどうしてこんな所にいるんですか?」
「仕事が終わって帝都に帰るところなんだ。それで偶然この辺りを通りかかったら窓からブランケットが降ってきたんで拾いにきたってわけ」
「そうなんですか」
セレスの故郷にこんなことを言うのもなんだけど、こんな田舎の方になんの用があったんだろう。
まあ、私も人のことは言えないけど。
「ところで、君は前回会った時よりもスッキリした顔をしてるね。なにか心配事でも解決できたのかな?」
「はい」
「そう、それはよかった。にしても偉いね、まだ小さいのにこんな遠くまでやってきて自力で問題を解決するなんて。そんな行動力のある子は中々いないよ」
そう言って頭を撫でられる。
「そんな偉い子にはご褒美をあげないとね。なにかあったかな……」
「ご褒美?」
なんてワクワクする言葉だろう。
洋服のポケットをゴソゴソと漁るフィズをキラキラとした目で見詰める。
「あ、あった。手を出して」
「はい!」
両手を器の形にし、フィズに向けて突き出す。
何をくれるんだろう。
「はい」
「?」
手にジャラリとした何かが乗せられる。周りが暗いので、顔の前まで持ってきてその正体を確認する。
手渡されたのは、何かの紋章が入ったチャームの付いたブレスレットだった。
「ブレスレット?」
「うん、かわいいでしょ」
「……はい」
かわいいというよりはシックでオシャレな感じのブレスレットだ。フィズはちょっと変わった人っぽいし、もしかしたら感性も独特なのかもしれない。
「よかったらもらって。多く発注しすぎてちょっと余っちゃったんだよね」
「フィズはそういうの多いですね」
もらえるものは貰うけど。
ふふっと笑い、フィズは私の左手首にブレスレットを着けた。
そして、私の腕からブレスレットが滑り落ちないのを確認するとうんうんと二回頷く。
そこで、冷たい風が私達の間を駆け抜けた。
「―――少し話し込んじゃったね、体が冷えちゃうしもう中に戻りな」
そう言うとフィズはヒョイっと私を抱き上げた。
顔が近くなるとフィズの目の下に薄っすらと隈が浮かんでいるのが分かる。疲れてるんだろうか。
「フィズ、疲れてますか?」
「ん? そうでもないよ。僕は部下に『化け物』と称される程の体力の持ち主だからね」
そう言ってフィズは笑うけど、やっぱりフィズの纏う雰囲気が少し疲れてる気がする。
「ふふふ、心配してくれてるの?」
「うん」
「ありがとう。でもたった今癒され中だから大丈夫だよ。これがアニマルセラピー……」
「誰がアニマルですか」
広義ではアニマルなのかもしれないけど。でもフィズは私のことを子猫か何かと勘違いしてる気がする。
そしてそのままフィズに運ばれたんだけど、ブランケットにくるんと包まれて抱っこされるのは中々に心地がよかった。
療養所の玄関までなんてすぐなのに、その間に寝ちゃうくらいには。
「―――あれ? 寝ちゃった? ふふふ、ほんとに子猫みたいだね」
フィズの楽しそうな声が、どこか遠くで聞こえた気がした。
次に目を覚ました時、私はベッドに戻っていた。
フィズと会ったのは夢だったのかと思ったけど、左手に着いているブレスレットがあれが夢じゃなかったことを教えてくれる。
オシャレなブレスレットだけど寝巻だと袖で隠れちゃうから周りから見ても着けてるのか着けてないのか分かんないね。私、小柄な上にオーバーサイズが好きだし。ドレスとかはさすがにジャストサイズのを着るけど。
あ、そういえば私ってば一応既婚者なのに知らない男の人からもらったブレスレットを身に付けてていいのかな。……まあいっか、フィズみたいなかっこいい人が私みたいな小娘を口説くわけないし。私のことを皇妃だなんて思ってないだろうしね。
そんなことを考えながらブレスレットを服の上から触って確認していると、抱き枕よろしく抱き着いていたリュカオンがもぞりと動いた。
「……シャノン、今度から夜中に外に出る時は我を起こせ」
「は~い」
どうやらこっそりブランケットを拾いに行ったのはリュカオンにバレちゃったらしい。
そしてリュカオンは自分のおでこを私のおでこに合わせてくる。
「体調は悪化してないだろうな」
「うん、とっても元気」
「それならばいいが」
私を案ずるようにぺろりと頬を舐められる。
普段はあんまり狼らしいことをしないリュカオンがこんなことをするのは珍しい。ついつい私のことを子狼みたいに扱っちゃうくらいには心配をかけちゃったらしい。
「ごめんねリュカオン」
「よい。子どもはわんぱくなくらいが丁度いいからな」
そう言いつつも私の頭を両前脚で抱え込み、毛繕いをするようにペロペロと舐めるリュカオン。
特に抵抗する理由もないので私も子狼よろしく大人しく舐められる。
心配かけてごめんねパパ。
もしこの話が少しでも面白いなと思っていただけたらブックマークや、↓の☆☆☆☆☆をクリックして評価をしていただけると嬉しいです!!!