【25】使用人ゲットだぜ!
安心したことで気が抜けたのか、私は一気に熱を出して寝込んだ。
私にしては随分体力がもってるなと思ってたら、気を張ってたから自分の不調に気付かなかっただけらしい。まあ、それでここまでもったんだから自分の鈍感さには感謝だ。
ちなみに、その場にはこの療養所の主であるルークさんもいたので私が倒れた時の対応もスムーズだったらしい。感謝だね。
その後の看病や診断も手厚くしてくれ、今の離宮よりもこの田舎の療養所の方が待遇がいいと感じるのは気のせいじゃないだろう。
難点があるとすれば普段使っているものに比べてベッドがちょっと固いくらいだけど、慣れてしまえばそんなことは気にならない。
既に慣れ親しんだベッドの上でうつらうつらしていると、ノックの後でルークさんが入ってきた。その手が持っているおぼんの上には土鍋が載っている。
「シャノン様、おかゆをお持ちしましたよ~」
「まま……」
「誰がママですか」
病人皆平等を主義としているルークさんは、いち早く私にも親し気に接してくれるようになった。
「どうです? 食欲はありますか?」
「はいママ」
「せめてパパにしてください」
パパならいいのか……。
ルークさんはベッドを跨ぐような形でテーブルを設置し、その上におぼんを載せてくれた。
「うん、顔色もいいみたいですね。熱は……まだ微熱があるので今日も安静にしていてください」
私のおでこに手を当て、ルークさんはそう言う。
「は~い」
これでも生まれた時から虚弱の身、安静にするのは得意です。
こんなキャラだから絶対に安静になんかしていないと思われていたらしく、ベッドでひたすら大人しくする私を見てルークさんやセレスが変な顔をしていたのは今思い出しても笑っちゃう。熱があってもすぐにどこかへ遊びに行っちゃう子だと思われていたみたいだ。まあ、昔はそんな時期もありました。
小さい頃は熱があるのにベッドから出てはみんなに連れ戻されてたなぁ。それでさらに体調を崩してをひたすら繰り返し、私も学びました。
ルークさん達の看病のおかげか、今回は回復も早かったように思う。
リュカオンを背もたれにして上半身を起こし、ルークさんが持ってきてくれたおかゆに口をつける。
最初の方は神獣であるリュカオンを背もたれにしたり抱き枕にすることに驚いていたルークさんだけど、すぐに順応した。リュカオンが私の保護者枠だということを理解してくれたらしい。
「―――そういえば、オーウェンさん達の様子はどう?」
「みんななんだかんだ時間を持て余してますね。今も気が付いたらこの部屋の前をうろうろしてますよ」
今まではみんなで支え合ってなんとか暮らしていた状態だから、急に全員が健康になって何をすればいいのか分からなくなっているらしい。それで暇さえあれば私の見舞いに来て部屋に居座ろうとするから、私が休めないだろうとのことでルークさんが出禁にしたのだ。
「ルークさんはこれからどうするの?」
「う~ん、みんなも元気になったことですし、僕はもうちょっと都会の方で働き口を探そうかと思ってますね。元々兄さんが帰って来る前はそのつもりだったので。この療養所は僕が建てたものじゃなくて両親が遺したものなんですよ」
「へぇ」
ルークさんが言うには、田舎過ぎてここで療養所をやっていても患者さんはあまり来ないらしい。
「新しい陛下の使いって方のおかげでお金の方はどうにかなってたんですけどね。いやぁ、あの時は驚きましたよ。夜中にふらっと現れて大金を置いて行くものだから、僕は夢でも見てるのかと……」
当時のことを思い出しているのか、宙を見ながらルークさんがそう言う。
「そうだったんだね。……ルークさん、ちょっとみんなを呼んでもらってもいい?」
「え? あ、はい」
ルークさんは部屋の出入り口までトコトコと歩いて行くと、「みんな~、シャノン様が呼んでるよ~」と廊下に向けて一言放った。
すると、一瞬でオーウェンさん達が飛んでくる。それから少し遅れてセレスも駆けつけてきた。
「シャノン様、どうされましたか」
オーウェンさんが真っ先に私のベッドの前で跪く。すると他の四人もオーウェンさんに倣って跪いた。
「あはは、楽にしてくれていいよ。ちょっと話があっただけだから」
「話……なんでしょう」
オーウェンさんが私を見上げて尋ねてくる。
「オーウェンさん達、私の離宮で働く気はありませんか?」
「「「へ?」」」
予想外の言葉だったのか、みんなの声が揃う。
「それは……とても光栄なご提案ですが、暫く剣も握っていない俺達じゃあ役には立てないと……」
「あら、やってもらうのは護衛だけじゃないよ。私の離宮、今使用人が誰もいないの。離宮の中のお掃除とか、雑用とか、なんでもやってもらうよ。……オーウェンさん言ったよね、『こいつらを治してくれるなら金ならいくらでも払うしなんでもするから』って。私、お金はいらないけど労働力は必要なの。ねぇ、どうかな?」
そう言うと、オーウェンさんは一瞬泣きそうな顔になり、ガバッと頭を下げた。
「―――そのお申し出、謹んでお受けします」
オーウェンさんに続き、後ろの四人もガバッと頭を下げる。どうやらみんな受けてくれるらしい。一先ずそのことにホッとする。そして、次にセレスとルークさんの方を向いた。
「セレスとルークさんも、離宮で働いてくれる気は……」
「働きます」
「はやっ」
私が言い終わるのも待たずルークさんが即答する。
「僕は兄さんと違ってチャンスをみすみす逃したりしないので。セレスはどうする?」
「わ、私も! シャノン様の下で働きたいです!」
「セレス……!」
嬉しい、シャノンちゃん嬉しいよ!
素の私を知った後でも私の下で働きたいって言ってもらえるなんて……!
セレスに向けて両腕を広げると、セレスはふわりと私を抱きしめてくれた。あ、いい匂い。
「うふふ、これからいっぱいシャノン様のお世話を焼くことができるのですね」
「うん! いっぱいお世話させてあげるから任せてね!」
こうして私は、使用人のスカウトに成功したのだった。





