【24】演技だったんだからね!!
―――神獣様だ。
消え入りそうなルークさんのその言葉に、その場にいた私以外の人の視線がリュカオンに向いた。
リュカオンは誤魔化しているのかそうでないのか、くぁ~っとあくびをする。馬車の中でずっと私の枕になっててくれたもんね、多分ぐっすりは寝られなかっただろうしリュカオンも眠いよね。……って、そうじゃない。
というかあれ……? ここでリュカオンが神獣だっていうのをはぐらかす意味ある? ……別にないね。
「うん、リュカオンは神獣だよ。ね、リュカオン」
「うむ」
リュカオンがモフモフの胸を張る。
「「「!?」」」
「し、しゃべった……」
「そんな聖獣いないよね。じゃあ、まさか本当に……」
おお、信じてくれそう。
シャノンちゃん感激。
やっぱり元々悪感情を持たれてないと信じられやすいんだね。いや、実際に治癒ができたことの方が大きいか。聖獣と契約してもあの傷の治癒は無理だもんね。
リュカオンもみんなが信じてくれそうなことに心なしか嬉しそうにしている。よかったねぇリュカオン。
ピコピコと動く耳や、フリフリが抑えきれない尻尾も珍しいから内心は結構嬉しいんだろうな。
嬉しそうなリュカオンを微笑ましく見詰めていたら、その場にいた人達が一斉に跪いた。
「へ?」
急に跪くからビックリして口からまぬけな声が飛び出す。ビックリしたせいか動悸もしてきた。
ドクドクする胸を押さえ、みんなに「どうしたの?」と聞く。
「ま、まさか生の神獣様にお目にかかることができるなんて……」
跪いたままセレスがそう言う。若干涙声だ。
おぉ、みんなリュカオンに会えて感動してるんだ。
それもそうか、帝国は割と神獣信仰が強いらしいもんね。
リュカオンも満更でもないらしく、「面を上げよ」といつもよりも仰々しく言い放つ。すると、やっぱり生の神獣を目に焼き付けたいのかちらほらと顔を上げ始める。
そんなみんなが嬉しそうで、健康的な顔色をしているのを見た私は安心して―――
―――次の瞬間、私の視界がフッと暗転する。
「シャノン!?」
動揺して私の名前を呼ぶリュカオンの声が、どこか遠くで聞こえた。
***
どうやら気が抜けたことで今までの疲れが一気に押し寄せ、私は気絶してしまったそうだ。
私が気を失ったのは一時の事で、ベッドに寝かされて三十分もすれば一度目を覚ました。
「……あれ?」
「シャノン! 起きたか!!」
目を覚ますと、目の前にリュカオンの顔があった。どうやら寝ている私に乗りかかっていたらしい。
急に倒れちゃったからか、よっぽど心配をかけたみたい。
「すまないシャノン、我がついていながら……」
「ううん、私も倒れる直前までは普通に元気だったもん。当人が気付いてないんだからリュカオンが気付くわけないよ」
若干掠れる声でそう言い、リュカオンを安心させるように頬同士をスリスリと合わせる。ふふ、なんだか子狼になった気分。
頬に当たる極上の毛並みを堪能していると、周りにいた人達に気付いた。
あ、みんないたんだ。
セレスやルークさん、それにさっき傷を治した人全員が私が寝かされているベッドの周りにいた。
その中でルークさんが真っ先に口を開く。
「シャノン……? さっきはシャルと名乗られていませんでしたか?」
「あ」
リュカオンがやっちまったと目を見開く。
一回ならまだ聞き間違えで言い逃れできたけど、リュカオンもう何回か私のこと「シャノン」って呼んじゃってるもんね。
ルークさんの言葉を聞いて、セレスは思い当たることがあるのか何やら考え込む。
「シャノン……どこかで聞いたことがあるような……」
そう呟いたセレスは、一瞬後にハッと息を呑んだ。
「お嬢様、念のため、本当に念のためお聞きしたいのですが、お嬢様は皇妃様とは何のご関係もありません、よね……?」
まさかそんなことはないだろうというニュアンスでセレスが問いかけてきた。
う~ん、どうしよう。
でも、ここにいるみんなはリュカオンのことを神獣だって信じてくれたし、セレスに至ってはウラノスと仲良くしたいって言ってくれてたみたいだし、私が皇妃だってバラしちゃっても大丈夫な気がする。
もしそれで嫌われちゃっても、縁がなかったってことで諦めよう。
「皇妃様とのご関係も何も、私がこの国の皇妃様ご本人です」
えっへん、と胸を張る。
ベッドの上で上半身だけを起こした状態だから格好はつかないかもしれないけど。
ハッ! というか私、ここまでの道中でセレスに頼りないところを結構晒しちゃってるよ。
たとえ皇妃だって信じてくれても、こんなのが皇妃なのかって思わせちゃうんじゃ……!
くそぅ、身元を隠してるとはいえどもうちょっと格好つければよかった……!!
身分を隠したことで安心しちゃって甘えん坊の私が完全に顔を出しちゃってたよ。すぐに転ぶからってセレスに手を繋いでもらっちゃったりなんかして。
皇妃としての威厳の片鱗もなかったよ。
あ、でも普通の子どもの演技をしてたってことなら満点だね。演技じゃなかったけど。
そうだ! ただの子どもの演技をしてたってことにすればいいじゃん!
私、天才かもしれない。
「私の完璧な演技のせいでセレスはただの貴族の令嬢だって信じ込んでたみたいだけどねっゲホッゲホッ!」
嘘吐いたら咳が出た。
「お嬢……皇妃様……」
ねぇセレス、なんでそこで可哀想な子を見る目をするの?
私の背中を撫でる手にも哀れみが込められてる気がするよ。
「皇妃様、私はありのままの貴女が好きですよ」
セレスが優しい声音でそう語りかけてくる。
「……シャノンでいいよ。セレスは、私が皇妃だって信じてくれる……?」
おそるおそるセレスを見上げると、セレスはフワリと笑って言った。
「―――もちろんです、シャノン様」
「!」
やっと信じてもらえた……嬉しい……!
セレスの微笑みに安心した私は―――そのまま熱を出してばたんきゅーした。





