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【23】察しがいいねお兄さん!






 私が人形じゃないことが分かり、セレスと次兄さんを抱きしめたまま固まる長兄さん。そんな長兄さんを見てセレスがハァとため息を吐く。


「オーウェン兄さん、さっきルーク兄さんにも言ったけれどこの方は人間よ。あと、ここまで私を雇ってくださっていた方だから失礼のないように」


 どうやら長兄さんがオーウェンさんで次兄さんがルークさんらしい。

 私を見たままポカンとするオーウェンさんの腕の中からセレスとルークさんが抜け出す。特にルークさんの動きは早かった。

 いつまでもお兄さんに抱き締められているのは照れ臭かったのかもしれない。


 とりあえず挨拶しておこう。


「こんにちは、私、シャ……ルと申します。この度は我儘を言ってセレスにここまで連れてきてもらいました」


 その言葉で私が貴族だと気付いたのか、オーウェンさんの眼光が鋭くなった。


「単刀直入な質問で失礼ですが、オーウェンさんのその腕と目は同僚の騎士にやられたものでお間違いありませんか?」


 そう聞くと、オーウェンさんの視線がセレスに移る。


「……セレス、お前なに話してんだ」

「セレスは悪くありません。お叱りなら私に」


 そう言うと、セレスを睨み付けていたオーウェンさんの視線がこちらに向いた。


 うっ、こわっ。


 自分より遥かに大きな男の人に睨まれるのは予想以上に怖かった。しかも元騎士なだけあって威圧感たっぷりだし。

 だけど、私は引かなかった。


「どうなんですか?」

「……正確には腕は同僚のやつにやられたが目は魔獣にやられた。魔獣の討伐訓練中、どさくさに紛れて腕を斬りつけられ、その隙に魔獣の爪が俺の右目を掠った。これで満足か?」

「ありがとうございます」


 オーウェンさんはかなりイラついた様子だ。そうだよね、見ず知らずの小娘が無神経に自分の怪我のことを聞いてきたら腹が立つよね。


 だけど、私にとっては重要な意味を持つ質問だった。

 いくらリュカオンと契約したからと言って私に帝国全土の人達の怪我を直すことはできない。物理的にもだし、治療を生業としている人達もいるから人々の営みを壊さないためにもそれはできない。これはリュカオンも同じ意見だ。

 でも、オーウェンさんのは人為的につけられた傷だ。しかも王城の管理下で。私がまだ来ていない時のこととはいえ、皇妃としてそれを放っておくわけにはいかない。

 私は皇妃になった瞬間、この傷に対する責任が生じたのだ。


 だから、この傷の治癒もリュカオンに頼んではいお終いというわけにはいかない。


「ていやっ」


 素直に治癒させてと言っても聞いてくれそうにない雰囲気だったので、私はオーウェンさんの右腕に飛び付いた。

 そして、リュカオンと契約したおかげで使えるようになった治癒の魔法を使う。


「!?」


 戻ってきた右腕の感覚にオーウェンさんが驚いている隙に、痛々しい傷跡が残る右目にも手を当てた。

 淡い光が消えた後、これまでピタリと閉じられていたオーウェンさんの右目がゆっくりと開く。そして、きれいになった目蓋の下からは、光を取り戻した灰色の瞳が姿を現した。


 私の腕力では長い時間オーウェンさんの腕にしがみついていられるわけもなく、すぐにぽたりと落下する。


 右腕から私が離れると、驚いたような面持ちのオーウェンさんは右目の前に右腕を持ってきた。そして、信じられないといった風にわなわなと震え始める。


「右手が……動く……目も、見える……」


 どうやら、治癒は上手くいったようだ。リュカオンの力を借りてるから当然だね。

 治癒が上手くいったことを喜んでいると、私のお腹に治ったばかりの腕がぐるりと回された。


「へ?」

「兄さん!?」

「オーウェン兄さんなにしてんのさ!!」


 オーウェンさんの右腕は治ったばかりとは思えないほど簡単に私を持ち上げる。

 わぁ力持ち。完治したようでなによりだ。


 オーウェンさんは私を持ち上げると、そのまま無言で療養所の奥の方に駆けだす。

 一拍後、リュカオンを筆頭にセレスとルークさんも私達を追いかけてくる。



 そして、オーウェンさんは療養所の一室に入り、そこで私を下ろした。そこには、ベッドで上半身を起こしている男性やリハビリをしているらしい男性達、四人がいた。


 私から一歩離れると、オーウェンさんはガバッと私に向けて頭を下げた。それはもう、一切の躊躇もない動きだ。


「嬢ちゃん、頼む! どうかこいつらの怪我も治してくれ!! こいつらも被害者なんだ。あんな態度をとった俺の頼みなんか聞きたくないと思うが、頼む! こいつらを治してくれるなら金ならいくらでも払うしなんでもするから!!」

「……頭を上げてください」


 そう言ってもオーウェンさんは頭を上げてくれない。


「最初からそのつもりでここに来たので、頭を上げてください」

「え……?」


 そう言うと、オーウェンさんはやっと頭を上げてくれた。

 オーウェンさんを安心させるように私は微笑む。ウラノスで侍女達に仕込まれた、人を安心させるお姫様スマイルだ。


 私は部屋の中にいた男の人達、一人一人のところに行ってなにがなんだか分かっていない男の人達の怪我を治していく。

 怪我の具合は素人目で見ても、オーウェンさんよりも軽い人や重い人と様々だった。


 治癒をかけると、みんなはやっぱり信じられないような面持ちで自分の傷があった部分を確認する。


「嘘だろ……俺の左足が動く……」

「まさかこの傷が治るなんて……」


 その様子を見て、オーウェンさんがぽつりと呟く。


「これは夢か……? 俺の妹は人形じゃなくて女神様を連れて来たのか……?」


 どっちも違うよ。


 部屋の外から中の様子を見ていたセレスとルークさんも目をかっぴらいている。そして、ルークさんの視線が私に向いた。


「シャル……様、貴女は一体何者なんですか……。それに、この聖獣も。いや、こんなことができるのなんて聖獣じゃなくてまるで……」



 ―――神獣様だ。


 ルークさんは空気中に消え入ってしまいそうな声で、そう言った。












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