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【22】兄弟って似るんだね





 温かいごはんを食べて体が温まり、お腹も満たされたおかげで私の足取りは軽かった。


 ただ、足取りが軽いからといって私の足がへなちょこなことに変わりはない。室内の、平坦でなんの障害物もない床に慣れ切った私の足にとって、いきなりの雪道は難易度が高すぎたのだ。

 しかも、昨日歩いたことでしっかりと筋肉痛になった私が転ばないはずがなかった。


「あたっ」


 雪にダイブするのは本日二度目、今回の旅での通算五度目だ。フィズに支えてもらった時のは倒れそうになっただけで実際にこけてはいないので数に入れてない。

 雪が降る季節でよかった。ふわふわの雪がクッションになってくれなかったら今頃私の体は傷だらけだよ。ウラノスで私の世話をしてくれてた侍女達が見たら発狂しちゃうね。


「大丈夫ですかお嬢様」


 すぐにセレスが私を起こしてくれ、外套についた雪を慣れた手付きで払ってくれる。この二日間、セレスには世話をかけっぱなしだ。

 お世話というか介護に近いんじゃないかと自分でも思い始めてるくらい。やばば。

 だけど、なぜか私がやらかせばやらかす程セレスの表情は生き生きしていく。


「セレス、ごめんね?」


 セレスの方が背が高いから自然、上目遣いになってセレスに謝る。すると私を抱き起して力を使ったからか何なのか、セレスの頬がポッと赤くなる。


「い、いえ。お嬢様に付き添わせていただいて気付いたのですが、私どうやら手のかかる方のお世話をするのが性に合っているみたいなのです。なんというかこう……侍女をやっているという実感が湧くといいますか。まあもうクビになっちゃったんですけど」


 そう言ってあははと笑うセレス。笑えない、全然笑えないよ。

 というか、さらっと私のこと手がかかるって言ったよね? シャノンちゃんは聞き逃してないぞ。

 ジトリとセレスを見るけど軽く流される。


「お嬢様のお世話はとても楽しいですよ。侍女人生の最後に素敵な思い出をいただきました」

「セレス……」


 そっか、依頼はセレスの故郷までの同行だけだったもんね。これが終わったらセレスとの縁も切れちゃうのかな……。そう考えたら、なんだか寂しくなってきた。

 しょんぼりとした顔になっていると、私の顔を見たセレスが慌てだした。


「お、お嬢様!? どうしました? 抱っこしますか?」

「ねぇセレスは私のこと赤ちゃんだと思ってるの?」


 赤ちゃんどころか既婚者なんですけど。まだ十四だけど。

 一瞬でスンとなる私。そしてスタスタと歩き始めた―――ら、三歩ともたずまた転んだ。


 くそぅ。





 結局、セレスに手を繋いでもらって歩いた。すごく快適。最初からこうすればよかった。

 犬の姿のリュカオンは乗るには小さいから自分で歩くしかなかったのだ。

 十四にもなって手を繋いでもらってる私をリュカオンが生温かい目で見てるけど、私は気にならないよ。恥より命の方が大事だもん。

 ふんふんとセレスと繋いだ手を振る。


「ふふ、お嬢様、そんなに手を振ったらまた転んでしまいますよ?」

「大丈夫だいじょ~ぶっ」


 つるんと滑ったけどセレスが抱えてくれて事なきを得た。

 ごめんねセレス、もう手振らない。ただただまっすぐ歩きます。


「お嬢様、ここは曲がりますよ」

「あ、はい」


 ただただまっすぐ歩くだけではダメでした。

 



 そこからは道なりに歩いていると、この辺りでは大きめの建物が目に入る。家じゃなくて何かの施設みたいだ。


「あれが次兄のやっている療養所で、その向こうにある建物が私の実家です」

「へぇ」

「お嬢様はこれからどうされるのですか? この辺には宿らしい宿はありませんし、家に泊まっていかれます?」


 セレスが優しい。こんな知り合ったばかりの美少女を実家に泊めてくれようとするなんて。


 でも―――


「その前に、療養所に寄ってもいい? セレスのお兄さん達に挨拶させてほしいんだけど」

「え? はい、それは構いませんけど……」


 セレスは首を傾げつつも了承してくれた。


 そして、セレスが療養所の扉をガラッと開く。


「兄さ~ん、いる~?」


 すると、療養所の奥からパタパタという足音が近付いてきた。


「は~い、あ、セレス! お帰り!!」


 白衣を着た青年がセレスと同じ濃紺色の髪をなびかせてやって来た。そしてその勢いのままセレスを抱きしめる。


「お兄ちゃんはセレスが心配で心配でしょうがなかったよ!! セレスが拒否するから手紙も届かなかったし!」

「ごめん……」

「ほんとだよ! 俺達がどれだけ心配したか!!」


 ギュウギュウとセレスを抱きしめ、頬ずりするお兄さん。そこで、お兄さんがセレスの背後にいた私に気付いた。


「あれ? どうしたのセレス、お人形さんなんて持って帰ってきて。お前は昔から人形遊びが好きだったもんね」

「……兄さん、この方は人間よ。ついでに今の私の雇い主だから失礼のないように」

「え?」


 お兄さんの目が真ん丸に開かれる。

 あ、そうだ、セレスに成功報酬を渡さないと。

 私はゴソゴソと懐から金貨の入っている巾着を取り出した。


「セレス、こういう時の報酬ってどれくらい払えばいいの? つかみ取りする?」


 そう言うと、セレスとリュカオンがあちゃ~というような顔になり、お兄さんは再び目を瞠った。


「セレス、この子は―――」


 その時、先程よりも幾分か重たい足音がお兄さんの話を遮った。

 その足音はドタドタとこちらに近付いて来る。


「おい! セレスが帰ってきたのか!!」

「わぉ」


 おっきい。

 すごい威圧感を纏ってセレスの長兄さんらしき人が現れた。長兄さんは髪を短く刈り上げていて、次兄さんより頭一つ分大きい。

 しかも体はかなりガッチリしていて、次兄さんの二倍くらい胸板がありそうだ。

 だけど、怪我をさせられて動かなくなったという右腕はぶらりと垂れ下がっており、右目は痛々しい傷痕が覆っていてピタリと閉じられている。


 長兄さんのガッチリとした左腕が次兄さんごとセレスを抱きしめた。そして力いっぱい二人を抱きしめる。

 まさに家族って感じの光景だ。


 ―――いいなぁ。


 そんな光景を見て、私は素直に羨ましいと思った。それと同時に、なんだか物寂しさを覚える。

 なんでだろう、心温まる光景のはずなのに。不思議。


 ぎゅっとリュカオンを抱きしめていると、長兄さんが私に気付いた。


「ん? セレスお前随分大きい人形を持ち帰ってきたんだな。お前は昔から人形遊びが好きだったからな」

「……」

「……兄さん……」


 セレスは頭が痛いといった様子で眉間を指で押さえる。


 次兄さんとあんまりにも同じことを言うものだから、私は思わずポカンと口を開けてしまった。

 口を開けた私を見て人形じゃないことが分かったのか、長兄さんも「へ?」と少しまぬけな声を上げる。



 兄弟って、考えることも似るんだなぁ……。














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