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【2】あっさり死にかける




 本当に、私はツイてない。


 もはや呪われてるんじゃないかと思う。

 そんな私の思考を邪魔するのは、馬車の外から聞こえる夥しい数の魔獣の唸り声。国境の森を進んでいると、徐々に徐々に集まってきた魔獣に囲まれてしまったのだ。


 外から騎士達の動揺する声が聞こえてくる。

 こんな状況になれば、素人の私でも分かる。これは完全にイレギュラーで、絶望的な状況だって。


 腹を括った私は馬車の外に出た。予想以上の魔獣が集まっていて恐怖に腰が引けるけど、そのまま足を踏み出す。

 幸い、まだ魔獣も、こちら側の聖獣も様子見で交戦は始まっていない。


「ひ、姫様! 馬車の中にお戻りください!!」

「戻ってもどうせ死んじゃうでしょ?」


 騎士にそう返しながら私は現場の状況を確認する。


 ―――騎士が十人に聖獣十体、プラス私か。ギリギリいけるかな。


 聖獣と契約していなくても、ある程度の魔法は使える。そして、王族である私は万が一の時のために聖獣の力を閉じ込めた、特別な魔道具を持たされていた。

 これを使えばここにいる人間くらいならこの森の外に転移できる。


 でも、チャンスは一回だ。それを逃したらもう手立てはない。

 ここにいる騎士達に転移は無理だろう。たぶん、自分だけなら出来ると思うけど他人である私を飛ばすことはできない。騎士である彼らにそんなことができるとは思わなかった。


「みんな! これから森の外に転移するからもう少し近くに寄って!」

「「「はっ!」」」


 彼らは魔獣に剣を向けたまま、ジリジリと後退してくる。

 魔法陣の圏内に全員が入ったのを見計らい、私は魔法を発動した―――


「ガァッ!!!」


「…………へ?」


 私の体が宙に浮く。


 そして、ポーンと飛ばされた私の体は馬車から離れた木に激突した。


「かはっ……!」


 い、痛い。いたいいたいいたい。


 これまでに感じたことのない痛みに思考が支配される。だけど、目に入ってきたもののせいで痛みは一瞬吹っ飛んだ。



「―――あ」


 

 そこにいたのは、災厄の象徴、真っ黒い鱗のドラゴンだった。ドラゴンは私達の上でバサバサと翼をはためかせている。


 ドラゴンが、ピンポイントで私を、その長い尻尾で吹っ飛ばしたのだ。

 ―――魔法陣の外に。


 もう、魔法は発動してしまっている。私に残された選択肢は、このまま魔法を発動して自分以外を森の外に飛ばすか、魔法を中断して全員を道連れにするかだ。魔法は中断されたら、もう一度発動することはできない。


 私に、後者は選べなかった。


 「姫様!」と私を呼ぶ声は途中で途切れた。ちゃんとみんなは転移できたみたいだ。

 その場に残されたのは、夥しい数の魔獣と上空から私を見るドラゴン。


 こわい。こわい。


 逃げる暇もなく、ドラゴンの鋭い爪が私を切り裂いた。


 ドクドクと自分の血が流れていくのを感じる。


 その時、私の頭の中にあったのは、恐怖と痛み、そして生きたいという渇望だけだった。

 真っ赤な血が私の周りに広がっていく。数々の高貴な血が混ざっているという私の血が。


 痛みと失血で意識が朦朧としていた時。

 たぶん、その時に目覚めたんだと思う。



 ―――私の中に眠る、古代の血が。








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<書籍2巻は2024/12/6発売です!>
お飾りの皇妃書影
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