【193】おや? シャノンちゃんの様子が……?
引き続き、一人(護衛付き)歩きをしている私です。
はたして本当にこれを一人歩きと呼べるのかはさておき、周りの認識ではそれで間違いないみたいだ。だって、話したことがない人まで保護者のような目で私を見守っているんだもん。
「おい、皇妃様が通るんだから避けろ! 道を作れ!」
「そこ! 荷物どけとけよ。皇妃様が躓いたら怪我しちゃうだろ!」
「皆様、皇妃様が転びそうになったらいつでも受け止められるようにしてくださいまし。神獣様がいないのですから!」
あまりにも手厚いフォローだ。一体どれだけ転んでると思われてるんだろう。
そんなに傷を作ってる記憶はないんだけど……あ、リュカオンがいつも受け止めてくれてるからか。
どうりでみんな心配しているわけだ。
「クラレンス、ノクス、分かるな? ここでシャノン様に傷一つでも負わせるわけにはいかないぞ」
「うん、こんな衆人環視の中でシャノン様に擦り傷一つでも負わせたら僕達の信用に関わるもんね」
「……プレッシャー……」
もういっそ抱えた方が安全なんじゃないかとノクスが手を伸ばしてくるけど、もう少し自分の足で歩かせてくださいな。一回転びそうになったら諦めるから。
結局ノクスに抱えられ、方々からの妙に熱烈な視線を感じつつも、ようやくフィズの執務室へと辿り着いた。
なんだろう、この疲労感。
執務室の目の前まで来ると、ノクスが私を床に下ろしてくれた。
妙な疲労感によるちょっとした眠気を感じつつフィズの執務室の扉をノックする。
すると、瞬き一つの後にフィズが顔を出した。
「今にも消えそうな儚いノックの音が聞こえたからもしかしてと思ったけど、やっぱり姫だ」
フィズが直々に出てきたからビックリしたけど、ノックの音で私が来たと分かったらしい。
「姫、どうしたの? 神獣様なしでここまで来たの?」
「うん、フィズに忘れ物を届けにきたの」
はい、とフィズが忘れていったペンを差し出す。
「わぁ、ありがとう! 姫はなんていい子なんだろう!!」
いい子だねぇ、かわいいねぇと頭を撫でられる。
まるっきり子ども扱いだけど、褒めちぎられるのは悪くない。
フィズは私を抱き上げると、低めの高い高いをしてくれた。
そして天才だ、なんていい子なんだ、天使だねぇ、かわいいねぇと褒めちぎられながら温かいココアを振る舞われる。ペンを一つ届けただけでここまで褒められるとは。
「……まさに猫かわいがり」
「完全無欠の陛下だけど、子育ては向いてなさそうだよね」
「甘やかし……すぎ……?」
護衛達が何やら言っているが、私は甘やかされるのは歓迎である。
ココアを飲み干すと、体が温まったからかまぶたが重くなってきた。
「あ、ちょっとお疲れ気味かな? ここまで一人で歩いてきたんだもんね」
私の眠気を察したフィズにより、近くにあったブランケットでみの虫にされる。
途中からノクスに抱えられてきた気もするけど、最近はいろんなことがあったから疲れが溜まっていたのかもしれない。
「ほら、少し寝ていきな」
よしよしとブランケットの上から背中を撫でられると、あっという間に眠気がやってくる。
気付けば、私は離宮のベッドで寝ていた。
自分で歩いてきた記憶がないので、きっとフィズか護衛の誰かが運んでくれたんだろう。ありがたや。
だけど私の睡眠欲は際限がないので、夕食を食べてお風呂に入った後は普通に眠くなる。
私は当たり前のようにリュカオンと伯父様のいる部屋に入り込む。
「おお、来たかシャノン」
「……リュカオン、随分リラックスしてるね」
「やることがないからのう」
古めかしい口調の美麗な青年は部屋の中央にあるベッドに片腕を枕に寝ころび、もう片方の手で傍らの猫を撫でていた。
サイドテーブルにはどこから持ってきたのか、片手でつまめるお菓子が並んでいる。
いつの間にか人をダメにする部屋が出来上がっていた。なんて羨ましい。
「シャノンもおいで」
リュカオンに手招きされ、いそいそと楽園の上に乗り上げる。
すると、伯父にゃんこがへそ天でゴロゴロと喉を鳴らしていた。
「うわぁ、完全に家猫だ……」
「もともとこやつが外で生きていたことはないだろう」
「それもそうだね」
そういえば生粋の引きこもりにゃんこだった。
そんな風に伯父にゃんこを見下ろすと、細めていた目が見開かれ、私を見上げた。
「シャノンちゃんおかえり~」
「ただいま」
伯父にゃんこの毛に顔をうずめ、スンスンと呼吸をする。う~ん、いい匂い。
スリスリと頬ずりをすれば、伯父にゃんこが再び喉を鳴らし出す。
その音を聞いていると、ますます眠くなってきた。
もちろん私もこの部屋で寝るわけだけど、リュカオンがオオカミの姿に戻れなくなってしまったので代わりに伯父にゃんこを抱きしめて眠る。
人型リュカオンがジト目でこちらを見てきているけど、私はあったかいもふもふがないと寝られないのだ。許せ。
そして翌朝、私は違和感を覚えて目を覚ました。
外を見れば真っ暗だが、夜の時間が長い最近では珍しくもない光景だ。
まあ、それはいい。今はそれよりも気になることがある。
「……なんだこれ……」
違和感のある自分の背中の方に視線を向けると、ゆらりと動くふわふわとしたもの。
――そう、私の尾てい骨のあたりからは、紛れもない尻尾が生えていた。





