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【191】開かずの間に猫ちゃんが増えました




「お、伯父様? ほんとうに伯父様なの?」


 私はしゃがみ込み、目の前の毛足の長い猫に話しかける。なんともメルヘンな行動だけど、たしかにこの猫から伯父様の声がしたのだ。


「シャノンちゃん」

「わっ! また猫が喋った!!」


 にゃおんとふくふくの口を開き、流暢に人の言葉を話す猫に私は視線が釘付けだ。

 キラキラと瞳を輝かせる私に、目の前の伯父にゃんこは豊かな困り顔を披露する。なでなでしてもいいかな。


「あ~、興味津々なシャノンちゃんもかわいいんだけど、伯父様ってば今割と困ってるんだ。ここ数百年で二番目くらいに困ってるんだ」


 猫になるって結構な大事だけど二番目なんだ。あ、一番は私のお父様(大好きな弟)が出て行ったことか。ブレないブラコンだね。


「とりあえず神獣様を呼んできてもらってもいいかい? というか、今日は一緒じゃないんだ」


 伯父様の疑問はもっともだ。私とリュカオンはいつもセットだからね。


「リュカオンは今部屋に閉じこもってるの。私が入るのも拒否してるから、連れてくるのは難しいかも」

「シャノンちゃんを!? あの親バカが!?」


 びっくりして尻尾の毛をぶわっと膨らませる伯父にゃんこ。

 そんなに驚くことかな。


「というか、僕の姿が変わっているってことは、神獣様も何か別の姿になってるんじゃ……」

「! たしかに!!」


 伯父様よりも影響を受けていたリュカオンだ、伯父様がこんなことになっているのに何事もないということはないだろう。


「とりあえず、二人で神獣様のところに行こう。この事態を経験したことがあるのは神獣様だけだからね」

「そうだね」


 そして、私は伯父にゃんこと一緒に離宮へと戻った。

 見知らぬ猫を拾ってきたと思われると騒ぎになっちゃうから、あくまでこっそりとリュカオンのいる部屋に向かう。





 離宮に戻ってもリュカオンは依然として私の隣の部屋に閉じこもったままだった。

 だけど、こちらも緊急事態なので無理にでも入らせてもらう。

 だって、私の予想が正しければリュカオンが閉じこもってる理由は――


「あ! やっぱり!」


 転移でリュカオンのいる部屋に入ると、そこには予想通り気だるげな麗人がいた。久しぶりではあるけど、見覚えのある美人さんだ。

 紫の目が私を捉えると、カッと見開かれる。


「シャノン!? これ、勝手に入ってくるなと言ったであろう」

「大丈夫、それはちゃんと聞いてたよ」

「聞いていても実行しなければ意味がないだろう。かわいいドヤ顔をするでない」


 すらりと長い人差し指でおでこを突かれる。


「にしても、やっぱりリュカオンは人型になっちゃったんだ」

「うむ、神無時は毎回人型になって戻れぬのだ。……って、ん? やっぱり?」

「伯父様は逆に獣の姿になっちゃったの。ほら」


 伯父にゃんこの脇に手を差し込み、リュカオンの前に差し出す。

 おお、体がみょーんと伸びたね。やっぱり猫って伸びるものなんだ。


「そなた、教皇か」

「はい……」


 伯父にゃんこがコクリと頷く。

 すると、リュカオンが神妙な顔になった。


「そうか、シャノン、教皇と一緒にこっちへおいで」

「うん」


 伯父にゃんこを抱っこしたままリュカオンのもとへ行くと、伯父にゃんこごとヒョイッと抱き上げられた。

 ポンポンと背中を撫でられる。そしてさりげなく私の膝の上の伯父にゃんこの頭も撫でていた。


「ぬくい…かわいい……」


 しみじみと呟くリュカオン。

 どうやらリュカオンも寂しかったらしい。遠ざけたのは自分なのに。むぎゅむぎゅと一人と一匹を抱きしめるリュカオン。

 そんな美麗の青年に、伯父にゃんこはしらっとした視線を向ける。


「神獣様はいい加減、少しは子離れした方がいいですよ」

「弟離れも姪離れもできないそなたには言われたくないわ」


 まあ、確かに誰が言ってるんだって話だよね。

 伯父にゃんこはふんっと居心地悪そうに耳をピルピルさせた後、リュカオンに向き直った。


「ところで神獣様、これは神無時が終わったら元に戻るものなんですか?」

「うむ、神無時の一週間が終わったら自然と戻るから安心せよ」

「そうなんですね。じゃあ人の姿に戻れるまでここでお世話になります」


 ふぅ、とふてぶてしく力を抜く伯父様。


「伯父様、うちに滞在するの?」

「うん、この姿じゃあ日常生活もままならないからね、ここで神獣様と一緒に引きこもることにするよ。神獣様、僕のお世話も頼みますよ」

「まあ、それは構わないが……」


 そう言って伯父様の鼻筋を撫でるリュカオン。どうやら猫姿の伯父様が気に入ったようだ。うん、あんまり心配はしてなかったけど二人ともうまくやれそうだね。



 ――かくして、開かずの間の引きこもりが一匹増えたのだった。







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