【189】ランタン代わりの皇妃様
さらに神無時が近付いてきたことにより、いよいよ一日の三分の二程が夜になってしまった。
まだ午後三時だというのに、既に辺りは薄暗い。
「姫、足元見づらいから転ばないように気をつけてね」
「うん」
場所は離宮の廊下、私のことをどんくさ族の代表だと思っているフィズが手をとってエスコートしてくれる。
今は私とフィズ、リュカオンの三人しかこの場にはいない。
私もこの薄暗い中で転ばない自信がないので足元をガン見しながら歩く。それはもう、俯きがちどころではなく首を直角に曲げて地面をガン見するレベルだ。
「おい、シャノン……!」
「ん?」
リュカオンに呼ばれて顔を上げると、目の前に真っ白い柱が迫っていた。
「――あ」
ぶつかる――と思った瞬間、体がフワリと浮き上がった。フィズが抱き上げてくれたのだ。
フィズは今にも死にそうな小動物を見るような目を私に向けている。
「……姫、神無時が終わるまでは自分で歩くの止めよっか」
「自立歩行するなと?」
「部屋の灯りを点けたら頭から血を流して倒れてる姫がいそうで心配なんだよ」
「とんだミステリー展開だね」
犯人を捜そうにも、どうせ私が暗闇の中で足を滑らせて転んだだけというミステリーにもならない展開なんだろうけど。
私もさすがにその展開は嫌だな。
「う~ん、にしてもやっぱりこうも毎日暗いと気が滅入るねぇ。姫も心配だし」
「フィズ、暗いの嫌?」
「まあ、昼間は暗いよりは明るい方がいいかな」
「そっか」
それなら私の出番だね。
ていっと魔力を練る。神無時が近付くにつれ好調になっていく魔法は簡単に発動した。むしろ今までは魔法が出ないように我慢してたくらいだしね。
「姫――うわっ」
突然パァッと発光した私にフィズが目を瞑る。
む、どうやら眩しすぎたみたい。急いで魔法の出力を少し弱くする。
よしよし、これくらいならそこまで眩しくないだろう。そう思ったけど、フィズは未だに目を細めてこちらを見上げていた。
「まだ眩しい?」
「ううん、神々しい。発光してる姫はこの世のものじゃないみたいだね。美術館とかに飾られないように気をつけて」
「う、うん?」
真面目な顔で言われたのでとりあえず頷いておくけど、内容はよく分からなかった。
「常にこれくらい光ってた方が姫も転ばなくていいかもね」
「でも、ずっと光ってたら変に思われないかな。ただの人間じゃないってバレちゃう?」
「あはは、大丈夫大丈夫、姫の美貌が人間離れしすぎてるおかげでちょっと光ったくらいじゃ誰も疑問に思わないって。むしろ拝まれないか心配だけど、まあそれはいつものことだから」
フィズが発光する私を抱っこしたままうんうんと頷く。
「それに、魔法を使っている方が姫も楽そうだね」
「うん」
我慢しなくていいからね。
できたらもっとピカピカ光りたいところだけど、これ以上はみんなの目によくないから我慢しておこう。
蛍もこんな気持ちなんだろうか。まさか蛍に思いを馳せる日がくるとは、人生って分からないね。
「リュカオンも眩しくない?」
「ああ、眩しくないぞ。シャノンは光っててもかわいいのう」
安定の親バカを発揮するリュカオンだけど、その表情にはどこか覇気がない。
そういえば、最近リュカオン元気ないな。
さっき私が柱にぶつかりそうになった時も声を出しただけだったし。いつもなら真っ先に飛んできて私を受け止めてくれるはずなのに。
「リュカオン大丈夫? 体調悪いの?」
「いや、体調は悪くない……」
煮え切らない返事だ。
私はフィズと顔を見合わせ、お互いに一つ頷く。
うん、そうだよね。
フィズは壊れ物を扱うかのようにソッと私を床に下ろすと、代わりに傍らで伏せをしていたリュカオンを抱き上げた。
巨大狼であるリュカオンはかなり重たいはずだけど、フィズは軽々と持ち上げている。さすがフィジカルモンスター。
「おい、何をするのだ」
「まあまあ、落ち着いてよ神獣様」
さすが皇帝というべきか、フィズは癖なのかリュカオンを仰向けに抱き上げている。あれはお姫様だっこというべきなのかへそ天というべきなのか……。
リュカオンがグイグイと前足でフィズを押すけど、フィズは全く意に介した様子がない。さすがのリュカオンも筋力だけではフィズには勝てないか……。
そして、リュカオンはフィズによって抵抗空しくベッドに運ばれていった。
リュカオンの様子からしてそこまで酷くはなさそうだけど、すごく心配だ。
これは、私がしっかりと看病しないとだね……!





