【187】頭もお尻も隠して……
他作品にはなりますが『聖女だけど闇堕ちしたらひよこになりました!』3巻が発売されたので興味がありましたらどうぞよろしくお願いします!
神無時が近くになるにつれ、どんどん日が短くなってきている。
そしてその影響は私やリュカオン、伯父様だけでなく他の人達にも広がっていった。
「――最近、なんだか疲れやすいっていうか、肩が凝る感じがするんですよねぇ。元気もでないし」
右肩を左手で揉みながらクラレンスが首を傾げる。
太陽の出ている時間が短くなると、人間っていうのは想像以上に影響を受けるものらしい。
「たしかに、皇城に行ってもみんなそこはかとなくどんよりした空気」
一見普段通りに見える人達だけど、なんだか覇気がないのだ。聞けば、体調を崩して休む人も増えているらしい。
「日が出ている時間が短くなってきてるから、体調を崩す人が多いんだよねぇ」
ケロリとした表情のフィズが言う。完全に他人事だ。
「逆になんでそなたはそんなに元気なんだ」
「リュカオン、フィズにそんな問いかけは無意味だよ」
「フィジカルの化け物ですからねぇ」
クラレンスがうんうんと頷きながら言う。その隣では、ノクスがよしよしと腕の中のテディの頭を撫でていた。
「ノクスもあんまり辛そうじゃないね」
「おれ……鈍いから、あんまり分からないです……」
そういえば、ノクスはノクスでお化けフィジカルだもんね。
寝ぼけ眼で首をかしげるノクスだけど、ノクスが眠そうなのは普段通りだ。
すると、クラレンスがそういえば、と顔を上げた。
「というか、か弱さ世界代表みたいなシャノン様が元気そうなのが僕としては意外ですけどね。ほら、こういう時真っ先に弱っちゃいそうじゃないですか」
「え、そ、そんなことないよ?」
ふるふると首を振ってみせると、クラレンスがまじまじとこちらを見つめてくる。
「シャノン様は平常運転……というより、いつもよりもなんか輝いてません……?」
「そ、そうかな……!?」
クラレンスの指摘にギクリとするも、なんとか誤魔化す。
魔法を使ってるつもりはないんだけど、無意識に溢れ出ちゃってるんだろうか。
勘のいいクラレンスは私の華麗なる誤魔化しに怪訝そうな顔をしたけど、そこはスルーさせてもらう。
「シャノン様はいつでも輝いてらっしゃいますからね」
「通常運転です」
「むしろ輝いて見えない日がないですわ」
私が明後日の方向を見ていると、侍女達がクラレンスに次々と言葉を返す。
侍女ズが親バカでよかった……。
なんとなくどんよりと体調が悪そうな周囲とは反対に、私は元気いっぱいだった。なんかこう、内側から力が漲ってくる感じなんだよね。
普段とは真逆だ。
いつもは虚弱な私をみんなが助けてくれてるからね。
――ということは、今こそ私ががんばる時なのでは……?
目の前がパァッと明るくなったような錯覚を覚え、カッと目を見開いた私にリュカオンが気付く。
「シャノン? どうした?」
「リュカオン、私が活躍できる気配がする……!」
「……」
「なんでそんな可哀想なものを見る目をするの」
せっかく人がやる気に満ち溢れてるっていうのに。
なんだろうこの感じ、神無時ハイってやつなのかな。
そしていてもたってもいられなくなった私は、フィズになにか活躍の場がほしいとざっくりとした交渉をしてみた。
断られることも視野に入れてたけどそこはさすが私に激甘な旦那様、好きにしていいよと二つ返事で許可をくれる。なので、遠慮なく好きなことをすることにした。
「――いらっしゃ~い。お代はいらないよ~」
気分が下がりがちなみんなのために何かできないか考えた結果、私は『困りごとなんでもききます』と看板を引っさげて皇城の廊下に座っている。
「おい、あれ皇妃様だよな……?」
「信じられないけど、あんなにちっちゃくてかわいいの皇妃様しかいないだろ」
「困りごとなんでも聞きますって書いてるけど、なんで机の上に水晶玉載ってんだろ……。あれじゃあ占い師……」
「シッ! 静かにしろ!! 皇妃様に聞こえたらどうするんだ! 用途不明な水晶玉を持ってたって皇妃様はかわいくてかわいいだろ!」
「どんな感情で喋ってんだよお前……」
みんな遠巻きに見つめてくるけど、中々話しかけてこない。
う~む、やっぱり皇妃相手だと悩みも打ち明けにくいか……。
倉庫で見つけたきれいな水晶玉を磨きながら思案する。
「仕方ない。クラレンス、例のものをちょうだい」
「はい」
クラレンスが手に持っていたものをふわっと私に被せる。
それはクローゼットの中に入っていた暗めのローブだ。フードを深く被り、しっかりと顔を隠す。こうすれば皇妃だとは分からないだろう。
そうして少し待つと、ついに最初の相談者がやってきた。
文官服を着た青年がおそるおそるといった様子でこちらを窺ってくる。
「今大丈夫ですか?」
「もちろん!」
机を挟んで対面に置いてある椅子に相談者の青年を座らせる。
「最近疲れやすくてミスも連発してるんです……」
「ふんふん」
「上司は優しいから優しく教えてくれるんですけど、その度に自分がダメな奴だって思っちゃって……」
「なるほどなるほど」
「それで……」
青年のお悩みに頷きながら話を聞いていると、最初はハイライトのなかった青年の目に徐々に光が戻ってく。
そして、いざ私がお悩みを解決しようと口を開いた時には、青年は憑き物が落ちたようなスッキリとした顔をしていた。
あれ? 私まだなにも言ってないけど。
「なんか、皇妃様と話したら元気出てきました!」
「え、そう?」
「はい! すごく癒やされました! ありがとうございます!!」
そうして、青年は仕事しよー! と軽い足取りで戻っていった。
「……私、そんなにいいアドバイスしたっけ……?」
というか、まだ何も言ってないんだけど……。
半ば呆然としていると、リュカオンがそっと耳打ちしてくる。
「シャノンは神無時の影響で癒しの魔法が薄っすらと垂れ流しになってるからな。その効果だろう」
「なるほど、気の所為じゃなくてほんとに癒やされてたんだ」
それならいいのか……? と納得しかけていると、明るい顔をして去っていった青年を見たのか、次のお悩み人がやってきた。そして、それを皮切りにポツポツと人が来るようになったのだった。
そんなこんなでみんなの困りごとを聞いていったんだけど――
「――それで、水晶玉にはなんて出てますか?」
「す、水晶玉……?」
これ、綺麗だから置いてるだけのただの飾りなんだけど……。
とりあえずなんか期待されてるみたいだから水晶玉に魔力を込めてみた。すると、ぼんやりと発された光の中に水色のものがほんのりと混ざっている気がした。
「ええと、なんか暗めな水色の光が見えたから水に気を付けるといいのかも? 私は占い師じゃないからよく分からないけど」
「なるほど、水ですね! 今度いらっしゃる賓客の方々を緑が豊かな水辺の屋敷か都市近くの屋敷でもてなすか迷ってたのですが、都市近くの煌びやかなお屋敷に滞在していただくことにします!」
なにかを納得した青年は一頻りまくし立てると「皇妃様ありがとうございましたー!!」と走り去っていった。
うんうん、よく分からないけど悩み事が解決したならよかった。
「……でも、顔隠してるのになんで私ってバレてるんだろう……?」
「シャノン様、隣見てください、隣」
「ん?」
クラレンスに促されて隣を見ると、ふてぶてしい顔をして伏せをしている契約神獣が私を見上げていた。
こんなに分かりやすい目印もないか。
頭もお尻も隠してリュカオン隠さずだったね。
『お飾りの皇妃? なにそれ天職です!』コミカライズ2巻は10/22に発売です!
かわいらしいコミカライズになっているので2巻もよろしくお願いします!





