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【177】遠吠えしたらきちゃった




「――とりあえず、人質にとられているという執事を救出しようか。この感じだと、屋敷内にも入り込まれてるね?」


 フィズが確認すると、お兄さんがコクリと頷く。


「お恥ずかしながら……」

「ってことは、その人達も捕まえないとだね!」


 むんっと意気込むと、周囲から生温かい視線を向けられる。


「……シャノン様、その虫取り網はどこから持ってきたんですか?」

「その辺に落ちてた」


 私が手に持つ虫取り網を見るクラレンス。

 そんなクラレンスに向けて、私はいろんな物が散乱してる床を指差した。


「虫取り網じゃあ人間は捕まえられないですからね? あと、シャノン様はここでお留守番ですから」

「え、連れていってくれないの?」

「ダメです。荒事は僕達にお任せください」


 それじゃあついてきた意味ないじゃんと唇を尖らせるも、クラレンスは頑なだった。私にはめっぽう甘いフィズや伯父様に視線を向けるも、そっと視線を逸らされる。

 残るはノクスだけど――


「……シャノン様、わがまま、ダメ……」

「キュッ」


 ノクスに窘められた……。

 テディと揃って首を横に振るノクスに負け、私はこの場でお留守番をすることにした。ノクスにまで言われちゃったら仕方ないからね。


「いってらっしゃい」

「いってらっしゃ~い」


 ん?

 隣を見れば、ニコニコとしながら私の横に並ぶ伯父様。そんな伯父様を見て、クラレンスが胡乱な目になる。


「……神官殿もここに残るんで?」

「はい、私の任務は神獣様をお守りすることですので」


 しれっとした顔で言い切る。

 そういえばそんな設定だったね。


「それじゃあ行ってくるよ」


 私の頭を一撫ですると、フィズはクラレンスとテディを肩に乗せたノクスを引き連れて部屋を出ていった。


 ――さあ、ネズミを狩る猫が三匹放たれたよ。






 それから暫くして、ネズミ達の大合唱が聞こえてきた。


「ぎゃああああああああああ!!」

「たすけてえええええええ!」

「こっちにこないでくれ!!」

「……」


 阿鼻叫喚というかなんというか……。

 悲鳴とともにガタガタと音が聞こえてくるのは、傭兵達が必死に逃げ回っているからだろう。


「ご近所迷惑にならないかな」

「周囲に家はないので大丈夫でしょう。それに僕も長いこと生きてますけど、ご近所から苦情を言われたことなんてありませんし」


 のんきに言う伯父様。

 いや、そもそも伯父様は一種の聖地みたいなところに住んでるんだからご近所さんいないじゃん。しかも教皇(伯父様)に苦情を言う人なんてあの近辺にはいないし。





 それから言いつけの通り大人しく待つこと数分、キィと音を立てて私達がいる部屋の扉が開かれた。その隙間から、ノクスがテディと一緒にひょっこり顔を覗かせる。


「つれて……きました……」


 ノクスは一度扉の向こうに引っ込むと、執事服を着た老年の男性の背中を押して再び入室してきた。執事服の男性を見た瞬間、領主のお兄さんが目を見開いてそちらに駆け寄っていく。


「爺!」

「若様!!」


 ヒシと抱き合う二人。

 どうやら、このおじいちゃんが人質にされていた執事さんらしい。無事で何よりだ。


「爺、無事でよかった」

「若様もご無事で何よりです! 若様のことですからそのまま引きこもりライフを満喫してしまうかと思いましたが……」

「僕はどれだけ信用がないんだ……ちゃんと定期的にこの部屋にやってきて日光浴はしていたぞ」

「それはようございました。日の光を浴びなければ骨が弱くなりますからな」


 お互いの無事を喜び合う二人を横目に、ノクスがテコテコとこちらにやってくる。


「シャノン様……まだ、駆除完了してない……ので、出ちゃダメ、です」

「は~い」


 仕方ない、もうちょっと待ってるか。

 感動の再会を果たす二人の傍らで、私はソッとノクスを送り出した。



 ノクスを送り出せば、同時に聞こえてくる悲鳴の数がさらに増えた。

 だけど、お留守番を言い渡された私といえば、その悲鳴の数を数えるくらいしかやることがない。

 う~ん、暇だ。


「リュカオン、やることがないねぇ」

「そうだな」

「月がきれいだねぇ」

「そうだな」


 私達が天窓を破壊して入ってきたおかげで、まん丸の月がよく見える。

 雲一つない夜空を眺めていると、前に本で読んだ情景が頭の中に浮かんできた。


「あおーん」

「?」

「あおーん」

「シャノン、何をしているのだ?」


 リュカオンが首を傾げながら私の顔を覗き込んでくる。


「遠吠えだよ。狼って遠吠えできるんでしょ? その真似っこ」

「遠吠えだったのか。子犬の鳴き声の真似かと思ったぞ」


 子犬の鳴き真似にしては似てないんじゃないかな?

 私もあんまり子犬界隈には詳しくないけど。


「リュカオン、遠吠えのお手本見せて」

「遠吠えなどもう長いことしていないが……まあいいだろう」


 リュカオンはスッとお座りの体勢をとると、首をピンとまっすぐにして空を見上げた。


「アオーーーーン」


 おお……体の芯に響いてくるような鳴き声……これが本家か。

 私もリュカオンの真似をして顔を上に向ける。


「あおーん」

「アオーーーーン」

「にゃおーん」

「それは違くないか?」


 暇すぎて遠吠え講座を開いていた私達だった。

 そして伯父様は遠吠え講座には参加しなかったけど、傍らで蕩けるような目をしてこちらを見ていた。


「うちの子ってばかわいすぎ。肩こりに効くわぁ」


 肩こりには効かないと思う。






 それから程なくすると、フィズ達が戻ってきた。三人とも汗一つかいてないけど、大捕物をしてきた後なんだよね?

 それだけ力の差が圧倒的だったってことかと一人納得していると、クラレンスが一歩前に出た。


「屋敷に入り込んでたのと、外を囲んでいた傭兵達は全員捕えました」

「よく捕まえられたね。誰も逃げなかったの?」


 この屋敷は小高い場所にあり、周りを森で囲われている。なので外に逃げ出されると見つけにくそうだなと思ってたんだけど……。


「もちろん、力では僕達に敵わないと察知した傭兵達は何人か逃げ出しましたよ。でも、野生の援軍のおかげで一人残さず捕まえることができました」

「野生の援軍?」


 なんのことだろう……。


「これは語るより見るのが早いから、外に出ようか」

「?」


 フィズに促され、私達は外に出ることにした。


 正面玄関を出ると、そこには一纏めに縛られたむさ苦しい男達と、凜々しい毛玉軍団がいた。


「――わぁ、狼がいっぱい」


 そこには、十数頭の狼が綺麗に整列してお座りをしていた。しかも幅をとらないようにきちんと三列で並んでいる。

 すごい統率のとれようだね。


「この子達が逃げ出そうとした傭兵達を捕まえてくれたんだよ」


 フィズがニコニコしながら教えてくれる。


「そうだったんだ。でも、この子達は野生の狼なんだよね? なんでこんなに集まって私達に協力なんて……」


 そこまで言ったところで、私は狼達の視線が同じ方向を向いていることに気付いた。その凜々しい瞳の向く先を視線で追うと、そこには銀色の巨大な狼さんがいる。


「ん? 我か?」

「彼らの様子を見る感じ、そうだろうねぇ。何か合図でも出したの?」

「何もしてないと思うが……」


 フィズの問いかけに首を傾げるリュカオン。

 狼が寄ってくる合図……。


「――あ」

「シャノン、何か思い当たることでもあるのか?」

「さっきリュカオンと一緒に遠吠えをしてたでしょ? それを聞いてきたんじゃないかな」

「なるほど、あれか。そういえば、昔も遠吠えをしたら野生の狼達が寄ってきておったな。長いことしていないから忘れておった」


 そうだったそうだったと頷くリュカオン。


「一緒に遠吠えって、俺がいない間に二人でそんなかわいいことしてたの?」

「フィズが私達のことを置いてったんでしょ」


 そんな会話をしている間も、集まった狼たちはリュカオンにキラキラと尊敬の眼差しを向けている。狼界でもリュカオンはすごい存在なのかな。


「リュカオン、せっかくだし狼さん達と少し交流してきたら? 逃げだそうとした傭兵を捕まえるのも協力してくれたみたいだし」

「ふむ、よかろう」


 そう言いながらリュカオンが狼たちの方へ歩みを進めると、リュカオンよりも二回り以上小さい狼たちが次々に寄ってきて体を擦り付けていく。

 狼的には有名人に握手をしてもらうのと同じ感じなんだろうか。


 なんにせよ、狼団子になっているリュカオンはとてもかわいかったです。











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<書籍2巻は2024/12/6発売です!>
お飾りの皇妃書影
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