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【176】軟禁されてたらしい☆




「――温かい紅茶をどうぞ」

「わぁ、ありがとう」


 金髪緑眼の青年が湯気の出るティーカップを私の前に差し出す。

 侵入した先で紅茶まで出してもらえちゃうなんて、好待遇だね。ただ、私の後に続いてフィズやクラレンス、ノクス、そして伯父様が天窓からゾロゾロと侵入してきたにも関わらず、出されたカップは一つだけだった。

 もしかして他の人が見えてないのかな……?

 本が散乱してる部屋の中に一脚だけあった椅子も私に座らせてくれたし。


「……なんで不法侵入した先でおもてなしされてるんですか? 僕の主」

「かわいすぎたからじゃない?」


 後ろでクラレンスとフィズがコソコソ話しているけど、私の対面にいる青年は気にした様子はなく、ニコニコと微笑んでいる。

 ぽやぽやしてるなぁ……。

 知らない人が窓割って家に入ってきてるっていうのに「女神様かな?」ってのほほんと笑ってらっしゃるし。

 目の前のテーブルに出された紅茶を見ながらそんなことを考える。

 私はせっかくだし、紅茶の入ったティーカップを口に運んだ。丁度喉も渇いてたからね。

 ……うん、薄い。

 ほとんど色の付いたお湯だね。茶葉を使ってるはずなのに不思議……。

 なんとか風味を感じようとしていると、慌てた様子のクラレンスがこちらに駆け寄ってきた。


「――ちょっ、シャノン様!? 毒味がまだですよ! なんでもかんでも口に入れないでください。ペッしてくださいほら、ペッて」

「もう飲み込んじゃった」


 パカッと口を開いて見せる。


「な、なんともありませんか?」

「あったかいお湯だった。飲んじゃまずかった?」


 リュカオンが反応しなかったから大丈夫だと思ったんだけど……。

 チラリと私の狼さんの方を見ると、コクリと一つ頷かれた。問題ないってことだろう。

 だけどクラレンスはリュカオンの反応を見届けた後、私の目を見て語りかけてきた。


「いいですかシャノン様、得体の知れない人物からもらったものを易々と口にしてはいけませんよ」

「あはは、勝手に侵入してきておいて酷い言い草だな」


 クスクスと笑うお兄さん。

 確かにその通りだね。

 お兄さんの言葉が耳に届いているのかいないのか、クラレンスは尚も続ける。


「毒でないのはよかったですが……。僕の主が……ほぼお湯の紅茶だなんて粗末なものを……」

「君も忙しい奴だねぇ」


 ショックのあまりか、クラリとふらつくクラレンス。それを呆れたように見るフィズだけど、その手はさり気なく私からカップを遠ざけていた。

 取り返そうとするも、「これはちょっとやめとこうね~。ないないだよ」と言われる。

 毒……は入ってなかったし、フィズ的には無味無臭の紅茶とも呼べない代物を私の口に入れるのがダメなんだろう。クラレンスのこと言えないね。

 仕方ない、未知の飲み物を味わうのは諦めよう。

 私はフィズからカップを取り返すのを諦め、目の前の青年に向き直る。

 

「ところでお兄さん、お兄さんはここで何してるの?」

「ん? 僕はここで軟禁されてるんだよ」

「そっかぁ。…………今なんて?」

「軟禁されてるんだ☆」


 明るく言い直せって言ったわけじゃないんだけどな。語尾に星が見えたよ。

 悪い人ではなさそうだけど……すごく、すごくクセが強い人なのかもしれない……。


「そのせいで紅茶一つ用意するにも不自由な状態でね。本来なら女神様のご降臨を盛大に祝いたいところなんだけど……」


 ……この口ぶり……それに、これまでの状況を鑑みると……。


「やっぱり、お兄さんがこの島の領主で間違いないよね?」

「おや、よく分かったね。いや、むしろ女神ならば知っていて当然だと思うべきなのかな?」

「女神ではないけどね」


 一応否定しておく。

 すると、フィズが一歩前に出て私の隣に並んだ。


「ところで君、領内がどうなってるかは知っているのかい?」

「見ることはできないけど、想像はついていますよ。領民には本当に申し訳ないことをしていると思ってます」


 フィズには自然と敬語になるお兄さん。あれか、オーラが違うからか。フィズは明らかに高貴なオーラが出てるもんね。


「傭兵達の暴走も、元々は僕達のミスから始まったことですし」

「どういうこと?」


 私が問いかけると、お兄さんがポツポツと話し始めた。


「先代の領主は僕の祖父だったんだけど、その祖父が急死してから領主の座が僕に転がり込んできてね。その代替わりと同時に先代に仕えていた使用人達も年を理由にして一気に辞めてしまったんだ。祖父以外に仕える気はなかったんだろうね。それで、諸々の引き継ぎやゴッソリいなくなった人員を補充する間もなく今回の魔獣大量発生騒動だ」


 おお……不運が重なるね。


「重要な仕事に関わっていたものが丸っといなくなってしまったものだから、これまでは雑用程度のことしかしていなかった若手と新たに来てくれた数少ない人員、そして領主に就任したばかりの僕で対応にあたった。……結果は知っての通りだよ」


 まあ、そんな体制じゃあ上手く対応できるはずもないね。


「まずはどこからか増え続ける魔獣をなんとかする必要があった。そこで、新しく雇った者が先代達の残してくれた資料を見つけたと言って片っ端から傭兵に依頼をかけたんだ。危険な仕事だし、辺鄙な場所だから破格の条件をつけて」

「ほうほう」


 なんか……嫌な予感がするな……。

 話の雲行きの悪さを感じていると、お兄さんが少し視線を落とした。


「だけど、どこかで資料がごちゃごちゃになってたんだろうね。その使用人が参照したのが、あちこちで危険視されている傭兵達の一覧だったようなんだ。つまり、誤ってブラックリストに載っている者達を片っ端から呼び寄せてしまったってわけ」

「とんでもないやらかしだね」


 傭兵の中でも質の悪い集団を自分達で集めちゃったのか。

 そして、破格の条件で集まってきた破落戸達が結託しちゃったってことか。ついでにガラの悪い仲間達も引き連れてきてから今みたいな感じになったんだろうな……。それで噂が噂を呼んで、ならず者達が集まってきたと。

 最悪の悪循環だね。

 領内のお兄さんに対する悪い噂は傭兵達が広めたのか自然と囁かれるようになったのかは分からないけど、ここから出られなかったら否定することもできないよね。


「元々、僕は領主になる予定はなかったからあまり領主教育を受けていないんだ。だけど、父が芸術の道に進んだり兄が平民の女性と駆け落ちしたりと色々あって、今回うっかりその座が転がり込んできてしまった」

「それは災難だったね」


 普通の貴族なら喜ぶことなのかもしれないけど、このお兄さんにとっては災難以外のなんでもなかっただろう。

 お兄さんは私の言葉を肯定するように少し微笑むと、そのまま話を続けた。


「さらに悪いことに、この屋敷には常に傭兵達の監視がある上に、残ってくれた数少ない古株の執事の一人を彼らに人質にとられてしまってね。父親のように面倒をみてくれた人だったから、彼らの言うことを聞くしかなくなってしまった。それで質の悪い傭兵達を取り締まることも、国に助けを求めることもできなくなってしまったんだ」


 なるほど、だからここまで傭兵達が好き勝手してたんだね。

 だけど、私はそれ以上に気になることがあった。


「――というか、人質とって領主を軟禁って……犯罪じゃないの?」

「犯罪ですよ」


 クラレンスがすかさず私の言葉を肯定する。


「だよね」

「ええ、どうやら奴らのバカさ加減は僕達の予想の上をいったようです。大方、似たような奴らが大勢集まったことで気が大きくなったんでしょう」

「にしても、やることが大胆すぎない? なんでこんなことするの?」

「どこへ行っても爪弾きにされるごろつき共にとって、自分達の居場所を手に入れるまたとないチャンスとでも思ったんでしょう。ブラックリストに入っているということは犯罪者に片足を突っ込んでるってことですから。今回の件で、領主の軟禁に関わった者達は完全に犯罪者になりましたけど」


 私達が最初に辿り着いた街にいた破落戸達はただやんちゃをしてただけだけど、人質とって領主を軟禁なんて完全にアウトだもんね。関わっていた一部の傭兵達は投獄間違いなしだ。

 ……ん?


「そういえば、傭兵達の特別待遇って、領主の命令があれば解除できるよね?」

「できますね」

「フィズ達がいれば、人質の執事さんを救出することなんてわけないよね?」

「わけないですね」


 クラレンスを見れば、力強く頷かれる。

 ふむ……。


「……つまり、実力行使可能?」

「可能です」

「なるほど」


 となると、話は早いね。



 ――傭兵更生計画、第二弾の始動だ!





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― 新着の感想 ―
投獄どころか処刑一択じゃない?
領主を軟禁とか犯罪者どころか討伐対象でいいと思うんだ
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