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【163】善良そうな人を確保しろーーー!!!




 日の出ているうちに行動を開始しようと、私達は必要最低限の荷物を持って探索に出かけることにした。



「……」


 生温かい目をするフィズの前には、どやぁぁぁぁ!! と保存食を掲げる私がいる。

 私が荷物の中に忍ばせておいた保存食だ。


「こんなこともあろうかと!」


 保存食をみっちり詰めて重たくなった荷物を持ってきた甲斐があったよ。


「なにこのかわいい生き物。国を挙げて保護すべきじゃない?」

「実際国を挙げて保護してるようなものだろう」

「それもそうだ」


 慈愛の微笑みを浮かべたフィズが、よしよしと私の頭を撫でる。




 荷物を纏め、誰かに会ってもいいように一応の変装をしたら準備は完了だ。


「それじゃあしゅっぱーつ!」


 そして、私達は青々と茂っている森の中へと足を踏み入れた。

 転ばないよう、リュカオンの尻尾を握って森の中を歩く。


「――見て見てリュカオン、なんか変なキノコが生えてるよ」

「うむ、そうだな」

「オルガにお土産でもって帰ろうか」

「いくら腕のいいコックでも毒キノコをもらったら困ると思うぞ」

「あれ毒キノコなんだ」

「一目見れば分かるであろう」


 蛍光色というか、やけに明るい緑色のキノコだとは思ったけど、あれって毒キノコなのか。


「素手で変なものに触れるのもなしだぞ。ばっちいからな」

「分かった」


 返事をした瞬間、盛り上がった土に足をとられてバランスを崩す。だけど、すかさず伯父様が支えてくれた。


「シャノンちゃ――シャノン様、僭越ですがこちらの手をとらせていただいても? 少々危なっかしいので」

「……お願いします」


 こうして、私は左手でリュカオンの尻尾を、右手で伯父様の手を握る体勢になった。


「あはは、見てよノクス、保護者同伴の遠足みたい」

「……微笑ましい……な……」

「キュゥ?」


 後ろからクラレンスがクスクスと笑う声がする。

 何が出てくるか分からないから、先頭をフィズが歩き、その後ろに私達、そして後ろをクラレンスとノクスが固めるという形で歩いている。

 明らかに皇帝(フィズ)がいる場所がおかしいけど、一番強いのがフィズなので致し方ない。

 皇帝自ら探索に行くって言った時も、皇城の騎士達は「あ、左様ですか。ですが陛下自ら出向かれるのは危な――くないですね。行ってらっしゃいませ」って感じの反応だったもん。

 護衛対象が自分達よりも強いって、やりづらいことこの上ないよね。

 ちなみに、皇城の騎士達からもグループが作られ、私達とは別行動で探索に出ている。どの方向に人里があるか分からないからね。


「森の中で遊ぶ時って木の棒とか使うんだよね? せっかくだから私もやってみたい」

「シャノン様、シャノン様のうっっすい皮膚では樹皮に負けますよ」

「うむ、手のひらを擦り傷だらけにしたいのならやるがよい」

「……止めておきます」


 魔法で治せるとはいえ、積極的に痛い思いをしたいわけではない。


「……警戒しないといけないんだけど、なんか力が抜けるわぁ。シャノン様の癒し効果えぐい」

「……分かる……」


 後ろからもピクニックでもしているようなのほほんとした空気を感じる。

 なんか、緊張感がないねぇ。私が言えたことではないけど。


 それから二十分ほど歩いたところで、私の体力が尽きた。


「……リュカオン……」

「うむ、おいで」


 ぺしょんと情けない顔をすると、リュカオンはすぐに私の言わんとすることを察してくれた。

 リュカオンがサッと伏せをしてくれたので、その背中に跨がる。


「ここまでよくがんばったな」


 温かい背中の上で萎れていると、優しい声がかけられた。パパみがすごい。


「……ばぶぅ」

「赤ちゃん返りするでない」


 









 それから三十分ほど経つと、街のようなものが見えてきた。


「おお! 人里だ!」

「やっぱり人が住んでいる島でしたね。しかもそこそこ発展してそうですよ」

「孤島で発展している場所となると、結構絞られてくるね」


 ふむ、と記憶を漁っている様子のフィズの後ろでは、伯父様がのほほんと微笑みを浮かべている。のんきなもんだね。

 逆に、引きこもりの伯父様からしたら神聖図書館の外はどこであっても同じなのかもね。


「とりあえず街に行こうよ」

「それもそうだね」




 周りを囲う壁などはなかったので、街の中に入るのは容易だった。

 そして、私達は建物の影から街の様子をソッと窺う。


「……なんか、治安悪め?」


 思わず、口からそんな感想が飛び出た。

 街の中を少し歩いただけだけど、皇都とは見るからに雰囲気が違うんだもん。

 明らかにガラの悪い人達が闊歩しているし、地面には平気でゴミが落ちている。初めて見る光景だ。

 家もたくさん並んでるし、大きな街っぽいのにあまり活気もない。

 みんなも街の雰囲気がおかしいことを感じ取ったらしく、空気が固くなっている。


「シャノン、我らから離れるなよ。顔もしっかり隠しておけ」

「う、うん」


 リュカオンの言葉に従い、被っていたフードをぐいっと引っ張る。フィズ達も同じように、それぞれ顔が見えづらいようにしていた。


「……神獣様も、小さくなってローブの下に隠れておいた方がいいかもね。目立ちそうだ」

「ふむ、それもそうだな」


 すかさずリュカオンが子犬サイズになったので、私の懐にしまう。


「姫、気をつけてね、姫みたいな小さくてかわいいのなんかすぐに誘拐されちゃうから。俺達から離れちゃダメだよ?」

「うんうん、庶民の間で人気のお菓子をくれると言われてもついていっちゃいけませんよ」

「う、うん」


 フィズと伯父様の二人がかりで言い聞かされる。


「保護者が大量発生してるなぁ」


 ふむふむと頷いて話を聞いてると、クラレンスが生温かい顔をして呟いていた。





「――とりあえず、聞き込みだね。誰か情報を教えてくれそうな人……」

「うむ」


 リュカオンと一緒にキョロキョロと回りを見回す。偶然にも動きが見事にシンクロした。

 後ろから「かわ……っ!」って聞こえてきたけど、伯父様も一緒に探してくれないかな?

 意識を伯父様から通りの方に戻し、まともそうな人を探す。


「ん? あの女の人……」


 一人、そこはかとなくセレスに似た女性が大きな建物から出てくるのを発見した。

 あの建物で働いてる人なのかな?

 すると、私の視線の先に気付いたフィズが疑問に答えてくれる。


「ああ、彼女が出てきたのはギルドだね」

「ギルド?」

「うん、一言で表すとなんでも屋の団体って感じかな。魔獣退治とか薬草の収集とかをギルドに依頼すると、ギルドに登録している者達が請け負ってくれるんだよ」

「へぇ、それって誰でも依頼できるの?」

「うん、依頼料さえ払えば国から個人まで誰でも依頼できるよ」

「ほぇ~」


 そんな便利なシステムがあったとは。世の中って広いなぁ。

 ギルドには、子どもが掃除などをしてお小遣い稼ぎをできる制度もあるらしい。すごい、私もやってみたい。自分でまともにお掃除したことないけど。

 ふむ、でもお話を聞くならあの女の人かな。

 側らのクラレンスを見上げると、心得たようにコクリと頷いてくれた。


「よし、確保だー!!!」


 標的を指さして指令を出すと、クラレンスが即座に行動に移す。

 実は主第一(あるじだいいち)のクラレンスは、なんの躊躇もなく女性を確保してくれた。といっても、穏便に交渉をしただけだけど。


 通りすがりの人に話を聞くって、なんだか冒険が始まった感じがしてワクワクするね。



 よし、それじゃあお話を聞こうじゃないの。









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