【157】かわいすぎて人間辞めちゃった!
「――し、シャノン様……!?」
私の目の前には口元を両手で覆い、ワナワナと震える侍女三人衆。彼女達の瞳に映っているのは、背中から羽を生やし、干された布団スタイルで空中を平行移動する私だ。
「――か、かわいい……!! かわいいがすぎます!! どれだけ愛くるしいを極めたら気が済むのですか? そのうち辞書の『かわいい』の意味に『シャノン様』と載ってしまいますよ!?」
「シャノン様ってば、本当に妖精さんになってしまったのですね。いえ、むしろ天使? ここは天界……?」
「ついに人間を超越されたのですね。いえ、私は分かっておりました、シャノン様の愛らしさは人類の枠に収まるものではないと」
おお……つままれスタイルでここまで喜んでもらえるとは。
「し、シャノン様、抱っこしてもいいですか?」
「ん!」
三人に向けて腕を広げる。
すると、三人は「「「きゃ~!!」」」と歓声を上げ、私をむぎゅっと抱きしめてきた。いい匂い。
「羽を触ってみてもよろしいですか?」
セレスが目をキラキラと輝かせて伺ってくる。
「いいよ」
「ありがとうございます!!」
元気なお礼とは対照的に、傷付けないようにかソッと羽を触ってくる。
「わぁ……ツヤツヤです……。魔法ってすごいですね。さすが神獣様のお力……」
うっとりと呟くセレス。
私が神獣の血を継いでいるということは、まだセレス達には言っていない。それを打ち明けようとすると伯父様関連のこととか、色々と込み入った話になるので、とりあえずは伏せておくことになったのだ。
「シャノン様の頬もスベスベのモチモチです。毎日の手入れの甲斐がありますね」
「髪の毛もさらっさらでいい匂いですわ。シャノン様は何もお付けにならないのに、どうしてこんなにいい匂いがするんでしょう」
ラナとアリアが私のほっぺをむちむちし、頭を撫でながら言う。それもう魔法関係ないじゃん。
侍女ズにかわいがられていると、クラレンスと狐を抱いたノクスが通りかかった。
「――見て見てノクス、シャノン様に羽が生えてるよ。似合い過ぎてなんだか非現実的な光景だねぇ」
「……そうだな」
「あれ? あんまり驚いてない? 侍女のみんなはあんなに『天使だ!』『妖精だ!』って驚いてるのに」
「なにを言ってる……。あんなに小さくてかわいくて賢いのが、人間なわけないだろ……。やっぱり、人類ではなかったんだな」
「そっか、そうだよね。僕もそう思ってた」
あ、クラレンスがノクスを甘やかしてる気配がする。
こちらを見て暫く立ち止まっていた二人は、その場を後にしようとした。盛り上がっている侍女達に遠慮したんだろう。
だけど、立ち去ろうとした二人に気付いたアリアがすかさず呼び止める。
「お二人とも、こんなに愛らしいシャノン様を間近で観賞しなくてよろしいんですの? 私達に遠慮をする必要なんてないのですよ。シャノン様は人類皆で愛でるべきお方ですから」
この世の摂理を語るような顔をして言うアリア。
愛が壮大だ……。
そして、呼び止められた二人がテコテコとこちらに歩いてくる。
「……まあ、確かにシャノン様は全人類で保護すべき存在だね。なんてったって僕の主だし」
否定するかと思いきや、クラレンスがアリアの発言に乗っかる。そういえば、クラレンスは意外と忠誠心の高い子だったね。最近は憎まれ口を叩いたりもするから忘れそうになるけど、「素晴らしい主人に仕えるのが至高!」って感じの考えなのだ。騎士にピッタリだよね。
そして、クラレンスと並んでやってきたノクスと、その腕に抱かれたテディも私の背中に生えた羽をジッと見詰める。
「……」
気になったのか、テディのまあるい前足が私の羽に触ろうと伸びてくる。だけど、ノクスがすかさずイタズラな前足を捕まえていた。
「こらテディ、羽にじゃれちゃ、だめ……」
「キュ?」
「ちょこっと触るくらいなら全然いいよ?」
「いいえ……テディのおもちゃに少しだけ似てるので……ちょっと触るどころじゃなく、じゃれついて遊ぶつもりだったと……。間違いなく……カミカミする気でした……」
こら、とノクスが人差し指でテディの眉間を小突く。
というか、ノクスが「カミカミ」とか言うの、なんか新鮮だ……。ノクスも聖獣育て頑張ってるんだなぁ……。
狐は狐で、「バレたか」とかわいらしく舌を出している。
くぅ、分かっててやってるんだろうけどかわいい……!
狐のかわいさにやられていると、「シャノン様シャノン様」と声をかけられた。
「なに? クラレンス」
「羽があるってことは、もしかして飛べたりするんですか?」
「う、うん、一応ね……?」
「見たいです!」
珍しく心から澄み切ったキラキラとした目を向けてくるクラレンス。
うぅ、こんなに期待してくれてるのにあのショボショボ飛行を見せるのは心苦しい……。だけど、期待に応えないわけにはいかない……!
ふんっ! と気合いを入れ、ラナの腕の中から飛び下りる。
「いくよ!」
魔法を発動し、足が床からフワリ浮く。
だけど、イメージの仕方が悪いのか、またつままれシャノンちゃんスタイルだ。それでも侍女達は「きゃー!! シャノン様かわいい……!!!」と黄色い歓声を上げてくれるけど。
侍女の三人はさっき見たよね? ん? 何回見てもかわいいのには変わりない? なるほど……?
侍女達は私が呼吸をしているだけでもかわいいと言う人達だから、とりあえずは置いておく。さて、クラレンス達の反応は……。
「さすが僕の主! こんな高度な魔法まで使えるなんて。しかもかわいい!」
「ああ……俺に魔法の知識はないけど……かわいいのは、分かる……。抱っこしても、いいですか?」
「別にいいけど……」
おかしいな、ほとんど魔法に対する感想じゃなかった気がする。
首を傾げていると、ノクスがテディを抱いていない方の腕でヒョイッと私を抱き上げた。
すると、「え、しょぼくね?」って顔をしていたテディが、「え、自分がおかしいの?」とみんなの顔をキョロキョロ見回し始めたのがよく見える。
大丈夫、テディが正しいよ。
侍女やクラレンス達に新しい魔法をお披露目して満足した私は、一旦自分の部屋に戻った。
リュカオンにもたれ掛かって寛いでいると、あることを思いつく。
「そうだ! 伯父様にも見せてあげよう!」
「うむ、それがよいな。自分に見せてくれるのが遅かったと後で拗ねられても面倒だし、さっさと行っておくのがいいだろう」
リュカオンが伯父様の面倒くさめの愛を理解し始めてるね。
そして見せにいった結果――
「――うちの姪が……! かわいすぎて人間辞めちゃった……!!」
両手で顔を覆って天を仰ぐ――のは勿体ないと思ったのか、私をガン見したまま叫ぶ伯父様。そして、光の速さで私を抱き上げた。
みんなそうだけど、せっかく飛んでるのに抱っこしちゃったら意味なくない?
「いやシャノンちゃんやっぱり軽いね。軽すぎる。今魔法使ってる?」
「使ってないよ」
「わぁ、じゃあただ軽いだけだ。神獣様の抜け毛くらい軽いよ」
それは軽すぎじゃない? リュカオンで例えてもらえるのはなんだか嬉しいけど。
伯父様に抱っこされたまま、パタパタと羽を動かす。
「え、なにその妖精さんみたいな動き。今日伯父様の心臓止めにきたの? いいよ、全財産はシャノンちゃんに相続するからね」
「国をひっくり返せちゃいそうなほど莫大な遺産は手に余るなぁ。あと伯父様は長生きしてね」
「天使!!」
なんか変な副音声が聞こえた気がするなぁ。
そして、感極まった伯父様がウリウリと私のほっぺに頬ずりをしてくる。普通だったらお髭がチクチクして痛いって言う場面なんだろうけど、伯父様の肌はすべっすべのツヤツヤである。しかもいい匂いするし、嫌がるポイントが全くない。
なんならこのまま眠れちゃいそう……。
今日は朝からずっと魔法を使って疲労が溜まっているのもあり、やってきた眠気にくあ~っとあくびをする。
「……どうしよう神獣様、うちの子がかわいすぎて苦しい。もしかしてここは神獣界?」
「神獣界にもここまで愛くるしい生物はおらぬぞ」
「な~んだ、僕の姪が異次元にかわいいだけか。……って、シャノンちゃんおねむだね。一回お昼寝しようか」
いつの間にか魔法が解けて羽のなくなった私を、伯父様が側にあったブランケットでくるむ。
それから伯父様は、やたらと上手い子守唄で私を寝かしつけてくれた。
……なんか、やけに歌い慣れてるのが気になる。
……まさか伯父様の弟に……? いや、そんなに歳は離れてないだろうし、まさか、ね……。
その後は伯父様に寝かしつけられたおかげか、とてもグッスリ眠れました。





