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【156】干された布団かな?




「キュッフン」

「テディ……顔を舐めすぎ……」

「……ラブラブだね……」


 契約をしてから(テディ)はノクスにベッタリで、今もノクスの首に巻き付いている。襟巻きトカゲならぬ襟巻き狐だ。

 肩が凝るかもだけどあったかそうでいいね。


「ノクス、最近は魔法の練習も始めたんでしょ?」

「そうなんですよ。ウラノス出身の聖獣騎士二人に師事してるので、魔法も大分上達してきてるんですよ」

「なんでクラレンスが答えるの?」


 というか、どこから出てきたの? 今までいなかったよね?


「僕も特訓に付き合ってるので」


 ニッコリと笑って言うクラレンスは、すっかりノクスの保護者気取りだ。仲良しマウントをとられている気がしなくもないけど、大人なシャノンちゃんはスルーしてあげよう。

 頬を膨らませ、プイッとクラレンスから顔を背ける。すると、出来の悪い子猫を見守るような眼差しをしたリュカオンと目が合った。


「シャノン……絶妙にスルーしきれてないぞ」

「む」

「あはは、シャノン様もまだ子どもですね」


 爽やかに笑うクラレンスだけど、その笑顔の裏には勝ち誇ったような色が見え隠れしている。

 この人が本当に好青年だと思っていた時期が、私にもありました。


「……今日のところはこのくらいにしておいてあげよう」

「なんでシャノン様が勝った風なんですか?」

「リュカオン、戦略的撤退だよ!」

「はいはい」


 リュカオンを連れ、私は尻尾を巻いて自分の部屋に逃げ帰った。







「リュカオンリュカオン、私って神獣の血が入ってるんだよね」

「ああ」

「ってことは、魔法の才能がすごくあるってこと?」

「そうだな。我と契約しなくてもある程度強力な魔法は使えただろう。そんなことが出来るという発想がなかったからやらなかっただけで」

「なるほど」


 たしかに、私はなぜか聖獣と契約をすることはできなかったから、ちゃんとした魔法を使ってみようって思ったこともなかった。

 聖獣と契約しなくても、一応弱い魔法は使える。だけどそれは本当に微々たるもので、実用性はないから基本的には使わない。

 祖国(ウラノス)の王族は基本的に聖獣と契約をしている。なので、私も契約をしようと試みたことはあるんだけど、誰もしてくれなかった。

 だけど、今ならその理由が分かる気がする。


「今思えば、みんなすごく恐縮してたもんね……」


 呟くと、リラックスモードだったリュカオンの耳がピンと立ち上がった。


「ん? なんだ? 聖獣との契約の話か?」

「その通り! 勘がいいね!」

「ふん、シャノンの考えることなどお見通しだ。なんてったって保護者だからのう」


 むふんと胸を張るリュカオン。

 思えば、リュカオンは私の契約神獣なわけだけど、いつの間にか保護者ポジに落ち着いてたね。いつの間にかというか、大分初期の初期からだけど。

 私に神獣の血が入ってたから、リュカオンも無意識に庇護欲が湧いたのかな。

 そして、私が聖獣と契約できなかったのも多分、神獣の血が混ざっているからだと思う。

 通常、聖獣に契約を拒否されるということは相性が合わなかったということなので、全身で嫌だと表明されることが多い。だけど、私の場合はどの聖獣も「いえ、そんなそんな」みたいな腰の低い態度で断ってきたのだ。

 あの瞬間だけは間違いなく、聖獣達に中間管理職の文官が宿ってたと思う。

 ウサギの聖獣なんて、二足で立ち上がって綺麗な四十五度のお辞儀を披露した後、両前足で揉み手までしてたもん。そんなのどこで覚えたんだろうと思ったのをよく覚えている。


「本能的に自分よりも能力の高い存在だと察したのだろうな。自分の存在がプラスにならない相手とわざわざ契約をしたがる聖獣もいないだろう」

「やっぱりそういうことだったのかな」

「まあ、神獣はそれなりに高位の存在だからな。シャノンが動物に嫌われやすい体質というわけではないから安心しろ」

「う、それならよかった……」


 気にしてたことをズバリと当てられ、変な声が出る。

 リュカオンにはなんでもお見通しだね。

 これ以上見透かされないよう、リュカオンの背中にのしっと寝そべる。


「どうした? 甘えたくなったのか? かわいいのう」


 背中に乗ってるから直接は見えないけど、リュカオンが蕩けるような顔をしていることは、魔法を使わなくても雰囲気で分かる。

 にしても魔法、魔法か……。

 つまりは、リュカオンや伯父様程とまではいかないけど、私にもとんでもない素質があるってことだよね。


「……」


 魔法を使ってしたいこと、なにかあるかなぁ……。

 モフモフの上で仰向けになり、腕を組んで「ふむ……」と考え込む。

 パッと思いついたのは聖獣騎士だけど、私は騎士ではないので戦闘で魔法を活かす機会はまずないだろう。皇妃としての仕事で活かす場面も思いつかない。

 となると、やっぱり楽しいことに魔法を使いたいな。

 うん、好きなことをするのが一番だよね。アリスも言ってたし。

 私はむくりと起き上がり、すっかりくつろぎモードのリュカオンの前に回り込む。


「リュカオン、私、使ってみたい魔法があるんだけど……」

「ん?」


 なんだ? と首を傾げるリュカオンに、私の希望を話す。


「――難易度はかなり高いが、それでもやるのか?」

「うん!」


 元気よく答えると、リュカオンが「ふむ」と一つ頷いた。

 お? これは厳しいことでも言われるのかな? と一応少し身構えてみる。

 すると、リュカオンが真顔のまま口を開いた。


「うちの子は向上心旺盛ないい子だのう」


 あ、ただ親バカなだけだった。







 そして翌日、さっそく新たな魔法を使うための特訓を始めることにした。

 髪型をポニーテールにし、服装も動きやすいワンピースを着てやる気満々である。


「物は試しだ。とりあえずやってみろ」

「うん」


 結果をイメージしながら魔法を発動する。

 すると、私の足が地面から浮いた――数mmだけ。


「ひっっく!!」


 思っていた結果と違いすぎてびっくりだ。

 足が床につく感覚がないからかろうじて浮いた自覚はあるけど、傍から見たらただ立っているのとなんら変わりないだろう。


「まあ、初めてならそんなものだろう。ほれ、気を抜くなよ。集中が切れたら――ほれ」

「あ」


 足が床についてる。いつの間に。

 集中して魔法を発動させ続けないとダメなんだね。


「ほんとに難しい魔法なんだね」

「集中力がいるからのう。移動するだけならこの魔法を使うよりも普通に歩いた方が早いぞ」

「夢がないなぁ……」


 私が求めてるのは移動手段じゃなくてロマンだから、別に効率はどうでもいいのだ。

 ――そう、私が習得しようとしているのは空を飛ぶ魔法だ。

 誰だって一度は空が飛べたらなぁと思うもんね。あと、私が宙に浮いていたら侍女ズが喜びそうだと思ったのだ。

 なんてったって、彼女達が私を褒める時、五回に一回くらいは「妖精」というワードが飛び出してくるんだもん。

 

 妖精といえば飛ぶもの。なので、空を飛んで妖精っぽいことをしたらみんなが喜んでくれると思ったのだ。


 つまり、「妖精妖精と言うなら、なってやろうじゃないか!!」作戦である。




 それから一時間ほど練習すると、足の裏が床から十五センチほど浮くようになった。

 だけど――


「どうしてこうなった」

「……背中にハンガーでも仕込んでおるのか?」

「吊されてるわけじゃないよリュカオン」


 鏡を見ると、背中をつままれたような姿勢でプラーンと浮いている私がいる。

 ……なんか、干された布団みたいな体勢であんまり優雅じゃない。想像と全然違うな……。

 しかも――


「――すごく疲れるね……」

「そうだな。これならば普通に歩いた方が楽だと思うだろう?」

「うん……」


 現実は厳しいなぁ。


「……なんか、あんまり実用性はない魔法だねぇ」


 上達したら違うのかもしれないけど。

 一旦魔法を解いて休憩していると、少し離れたところで見守っていたリュカオンがのっそのっそとこちらにやってきた。


「シャノン、魔法で背中に羽を出せるか?」

「やってみる。ん~……」


 念じると、私の背中から羽が現れた。鳥のような羽ではなく、半透明で、物語の妖精に生えているような羽だ。

 やっぱりその辺のディテールは大事にしたいからね。


「なんでこれ出させたの? 飛びやすいとか?」

「かわいいからだ」

「……そっか、かわいいからか」

「ああ、かわいいからだ」


 あくまでリュカオンは真顔である。


「……それだけ?」

「ああ、それ以外に羽を出す意味などないであろう?」

「なるほど?」


 よく分からないけど、あるとかわいいらしいので羽はそのままにしておくことにした。




 それから練習を再開したけど、リュカオンの言う通り、羽を出したところで飛び方が改善することはなかった。それどころか、飾りがついたことで吊されてる感がより強調された。


「……羽をつままれたトンボのような体勢だのう」

「おおよそ一国の皇妃を表す比喩じゃないね」








 疲れたので休憩がてらおやつを食べていると、フィズが私の部屋を訪ねてきた。

 入室の許可を出すと、嬉しそうな顔のフィズが入ってくる。


「姫~、やっと休みをとれる目処が立ったよ~」

「ってことは――」

「うん、行けるよ、新婚旅行!」

「!!」


 私は喜びのあまり、フィズの顔めがけて飛びついた。

 今ならノクスにへばりつく(テディ)の気持ちが分かる。

 当然、私のジャンプ力ではフィズに飛びつくには足りない。だけどつい先程まで練習していたからか、反射的に魔法が発動した。

 背中にポンッと羽が生え、浮遊魔法が私をフィズの顔の辺りに運ぶ。


「ひ、姫!? 妙にジャンプ力が――って、羽!?」


 難なく私をキャッチしたフィズが、背中に生える半透明の羽に気付く。


「え、姫はついに本物の妖精になっちゃったの? 綺麗な水と空気のある土地を用意した方がいい?」

「人のままだから育成方法は変えなくていいからね?」


 どうやら私のあまりのかわいさに混乱してしまったらしいので、魔法だよと教えてあげる。


「そうだったんだ。今度からかわいいことする時は事前に教えてね。愛くるしすぎて心臓が止まるかと思ったよ。これまで一回も止まったことないのに」

「そりゃそうだ」


 私の旦那様が当たり前のことを言ってらっしゃる。まだ混乱してるのかな?


「天下の皇帝陛下をここまで乱すなんて……私の魅力って罪だね……」

「本当だね、絵画の中の美女を連れてきても姫には敵わないよ」


 ニコニコと私の言葉を肯定するフィズに、リュカオンがジト目を向ける。


「皇帝、まだ抱っこをねだるような幼子が勘違いするから、否定すべきところは否定しておけ。真綿に包んでかわいがるだけが育児ではないぞ」



「「リュカオン(神獣様)がそれ言う?」」



 私とフィズの声がピッタリ重なった。







本日(12/14)からガンガンpixv様で「お飾りの皇妃? なにそれ天職です!」のコミカライズ連載が始まりました!

とてもかわいらしい漫画に仕上げていただいているのでぜひご覧下さい!


【ガンガンpixvの作品ページ】

https://comic.pixiv.net/works/11281

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<書籍2巻は2024/12/6発売です!>
お飾りの皇妃書影
ぜひお手に取っていただけると嬉しいです!

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