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【139】ペナルティ……というよりはご褒美だったみたいだね




「ごめんなさいシャノン、一人で盛り上がってしまって……」


 ションボリとするアリス。


「気にしないで。アリスが楽しそうでよかったよ」

「私としたことが、せっかくシャノンといるのに一人で楽しんで……午後はシャノンの好きなことに付き合いますわ!!」


 むんっと意気込むアリス。

 さあ、やりたいことを言えと紫色の瞳が物語っている。これは、午後もアリスの好きなことをしていいよと言っても聞きそうにないね。

 う~む、やりたいこと……やりたいこと……。

 うんうんと頭をフル回転させるけど、中々思いつかなかった。生まれてこの方、同年代のお友達とまともに遊んだことなんてないのだ。

 遊び……遊び……あ! 


「あ、何か思いつきましたの?」

「うん、アリスも楽しめるかどうかは分からないけど……」


 そして、私はアリスを伴って自分の部屋へと向かった。



「――これは……チェス?」

「うん。アリス、できる?」

「できるわよ、嗜む程度だけれど。シャノンはチェスをやりたいの?」

「うん! 相手してくれる人があんまりいなくて」

「まあ、そういうことでしたら喜んでお相手するわ」

「!」


 そして、私とアリスはチェスで対戦することにした。








「~~っ!」


 私の正面では、アリスが凄い形相で盤面を凝視している。勝つ方法を必死に考えているんだろう。

 そんなアリスを見ながら、頭を使ったことで消費された糖分を補給するためにロールケーキを口にした。

 クリームたっぷりのロールケーキをもっきゅもっきゅと頬張る。あ、クリームがほっぺについちゃった。

 あんまり行儀がよろしくないのでササッと拭う。

 こうも呑気にしていると、傍からは私が一方的に勝っているように見えるかもしれない。だけど、実際はいい勝負だ。中々の接戦だと思う。

 そんな白熱した戦いを繰り広げている私達だけど、リュカオンはあんまり興味がないのか、私の隣でスピスピとお昼寝に興じている。



 そして、それから程なくして私はアリスに勝利した。

 敗北したアリスは、とても悔しそうに盤面を見詰めている。


「もう一回! もう一回ですわ!!」

「もちろん、受けて立つよ!」


 駒を最初の位置に戻し、再び試合を開始する。





 だけど、結果はまたもや私の勝ちだった。


「くぅっ! 悔しいですわ……!!」


 ハンカチを噛み出しそうなくらい悔しがるアリス。アリスは勝っても負けても平然としているタイプかと勝手に思っていたので、この反応はなんだか意外だ。


「国では負け知らずだったのに……シャノン貴女、クイズ大会の時も思ったけれど相当頭がキレるのね」

「えへへ、それほどでも。でも、アリスも相当強いよね? 嗜む程度って言ってたのに」

「あら、そんなの謙遜に決まっているでしょう? 初めから強いことをアピールしても警戒されるだけで何の得もないもの。本当はとても自信があったわ」

「なんと」


 勝負は試合開始前に始まってたのか……。


「もう一戦しましょう!」

「もちろん! ――と言いたいところだけど、もう一戦したら夕食の時間になっちゃうから続きは明日にしよう」

「分かったわ。……」


 すると、アリスは考え込むように口元に手を当てて黙り込んだ。

 どうしたんだろ?

 隣のリュカオンを撫でつつ待っていると、アリスがガバッと勢いよくこちらを向いた。


「シャノン、明日は、負けたら勝った方の言うことを一つ聞くというルールにしましょう」

「ぅえ? ……いいけど、どしたの急に」

「このまま再戦をしても負ける未来しか見えないんですもの。きっと、負けることへの危機感がないから力を出し切れていないんですわ。負けた時にペナルティがあれば私はもっとやれるはず」

「……なるほど?」


 もっと必死にならないと本来のパフォーマンスを発揮できないと。


「でもそれ……」


 言おうとしたところで、私は口を閉じた。

 まあいっか。明日勝負が終わってから言おう。






 そして、翌日の朝一から私とアリスはチェスで対戦した。

 ペナルティがある分、二人とも昨日よりも真剣に取り組んだ結果――


「――ま、また負け……」


 見事、私の勝利に終わった。

 目の前では、またもやアリスがガックリと肩を落としている。


「昨日よりも本気でやりましたのに……」

「そりゃあ、負けた時のペナルティは私にも適用されるんだから、その分私も真剣になるよ」

「!?」


 いやいや、なんでそんな驚いた顔してるの?


「むしろ、私の方がペナルティ回避のために必死だったんじゃないかな?」

「ど、どうしてかしら」

「だって、私が負けたら着せ替え人形とかにされそうだもん。それは疲れるからできれば避けたい」

「……」


 あ、黙り込んだ。さては自分が勝ったらそう命令するつもりだったね?

 まあ、無事に回避できたからいいや。


「――じゃあ、勝ったのは私だし、一つ言うことを聞いてもらおうかな」


 そう言ってニッコリと笑うと、アリスの口元がヒクリと引き攣った。







「キュッ!?」


 狐部屋にやってくると、ビクッと飛び跳ねた狐が急いで物陰に隠れた。私の隣にいるアリスに驚いたんだろう。完全に身を隠したつもりだろうけど、ボリューミーな尻尾がはみ出てしまっているのはご愛敬だ。


「シャノン、とっても怯えていますけれど?」

「あれは初対面の人相手だと基本的に誰にでもそうだから」


 そう、私がアリスに頼みたいのは、狐が外の人に慣れる練習に付き合ってもらうことだ。獣医の先生からも、そろそろいろんな人と接する機会を増やしてもいいかもしれないとお墨付きをもらってるからね。

 アリスにお願いの内容を伝えると、彼女は意外そうにキョトンと目を見開いた。


「それだけでいいんですの?」


 もっときついペナルティを課されると思っていたのか、拍子抜けしたような感じだ。

 なんか心外……。


「アリス……私のことをそんな無理難題を課すような人間だと思ってたんだ……」


 ジト目でアリスを見上げる。


「そ、そんなこと思ってませんわよ!? ああっ……! そんなかわいい顔でむくれないで頂戴」


 誤魔化すようにむぎゅっと私を抱きしめるアリス。

 そんなんじゃ私の気は収まらな……いい匂い……。

 心地よい温もりとほんのりと甘い香りに、頬を膨らませていた空気がぷしゅーと抜けるのが分かる。


「――シャノン様」


 しぼんだ頬をアリスに突かれていると、後ろから声を掛けられた。平坦なその口調の主はもちろんノクスだ。


「あらノクス、どうしましたの?」

「……シャノン様に呼ばれて……」


 アリスの視線が私に向く。どうしてノクスを呼んだのか聞きたいんだろう。


「狐はノクスに懐いてるから、ノクスがいた方が狐が安心かと思って」

「まあ、そうなんですの」

「うん、私よりも懐かれてるからね。なぜか先に出会った私よりも懐かれてるから」

「二回言ったわね」


 大事なことなので二回言いました。


「ところで、私は何をすればいいんですの? あの様子では触れあうのは無理そうだけれど」

「うん、いきなり触るのは無理だから、とりあえずビビらずに慣れない人とも同じ空間にいることができるようになるところから始めようと思う。――ノクス」

「はい」


 ノクスはスッと前に出ると、物陰に隠れている狐を抱き上げた。

 大好きなノクスに抱き上げられると狐も落ち着きを取り戻したようで、ノクスの腕の中できゅるんと丸くなった。かわい。

 よしよし、このまま少し雑談でもしようかな。そう思って隣を見ると、菫色のお姫様がプルプルと震えていた。


「どしたの」

ノクス(うちの子)とモフモフのコラボ……尊い……」


 両手で口元を覆い、真顔で呟くアリス。感動のあまり表情筋も動きを止めているようだ。

 狐を抱っこしただけで大袈裟なと思うけど、そういえば、フィズ(うちの旦那様)も私がリュカオンや狐と戯れてるとかわいいかわいい言ってるな……。

 普段も猫かわいがりだけど、その時はたしかにフィズの甘やかし具合が増し増しな気がする。フィズにお願いごとがある時は狐を抱っこしていこうかな? そんなことしなくても大抵のことは叶えてくれる気がするけど。

 そんなことを考えていると、アリスがなにかを思いついたようでピコンと顔を上げる。


「シャノン、ちょっとあちらに並んでくださる?」

「?」


 アリスに促されるまま、狐を抱くノクスの隣に並ぶ。

 すると、アリスがガバッと後ろに大きく仰け反った。


「グハッ!! ノクスとシャノンと動物のコラボ……! かわいいがトリプルですわ!! なんてわたくし得なセットなんでしょう!! ハッピー……いえ、ハピエストセットね!」


 お姫様は大興奮だ。

 人のことは言えないんだけど、世の中には普通のおしとやかなお姫様は存在しないのかな……。子ども達の夢を壊しちゃいそう……。人前に出る時は猫を被るから、まあ大丈夫か。

 

 あ、そういえば、大きな声で狐は怯えたりしてないかな?



 心配して隣の狐をチラリと見ると、なんだこいつと言わんばかりの呆れた視線でアリスを見上げていた。その瞳には既に怯えの色はない。

 害はないと判断したようだ。



 うんうん、害のないただのお姫様だよ。

 ちょっぴり愛が重めなだけで。







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<書籍2巻は2024/12/6発売です!>
お飾りの皇妃書影
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