【14】あそこに! 今にも故郷に帰りそうな侍女がいる!!
のっそのっそとリュカオンに数分揺られ、程よいところでリュカオンから下りた。
するとリュカオンは少し小さくなり、犬の聖獣に擬態する。
「かわいいねリュカオン」
「そうであろうそうであろう」
リュカオンがうむうむと頷く。
「ところでリュカオン、ここはどこ?」
「……」
リュカオンに聞くと出来の悪い子を見る目で見られた。事実だから全然気にならないけど。
というかこの場合来たばかりの場所で土地勘のあるリュカオンの方が異常なのでは? 私の契約獣すごいね。契約しているだけの私も鼻高々だ。
「とりあえず王城に近付いてきた。門と王城の中間地点くらいの場所だな」
王城は馬鹿でかいのだが、その庭もかなり広い。私の住む離宮とかも王城の庭にあるわけだしね。庭と言うよりは大きめの街と言った方が近いかもしれないくらいの広さだ。実際王城の敷地内にいろんな建物もあるし。
そして、王城の庭は全て柵で囲われているので、敷地内に入るにはいくつかある門を通らなければならない。
私達も最初は門を通って中に通された。……一番人通りが少ない門だけどね。
……あ、そういえば最初に出迎えてくれた人達をどうにかして見つけたら私が皇妃だってことを証明してくれるんじゃないかな。……いや、たとえ見つけられても協力はしてくれないか。
あの冷たい目が脳裏に蘇る。
やっぱり元敵国出身っていうのがよくないよね。人は第一印象が大事だっていうのに出身だけで最初の印象があんまりよくないんだもん。
思考が逸れちゃったけど今は使用人集めだ。
「今日は門の方に行こうか。王城には入れてもらえなさそうだし、そもそも王城内に入っていく人はみんな何かしらの職に就いてるだろうしね」
今の仕事を辞めてまで来てくれる程の魅力がないのは分かってる。
門はみんなが通るから人通りが多いし、運よく求人広告が誰かの目に留まるかもしれない。
許可も取らず勝手に求人広告を貼ってもいいのかって? いいでしょ、私皇妃だし。
たとえ誰にも認められていなくてもこの国の皇妃は私なのだ。長時間出歩いていると疲れちゃうのでその辺にちゃちゃっと募集用紙を貼って帰ろう。
私達は初日に通ったのと同じ、一番人通りの少ない門へと向かった。
なぜ一番人が通る門にしなかったのかって? だってこんな怪しい募集用紙を人前で見るの恥ずかしいでしょう。あんまり人目がなかったらこっそり手にとってくれそうだ。
あと、寂れた門を通る人の方が仕事に困ってそうだという勝手なイメージからだ。
そして私達は目的の門に到着した。
「どうかなリュカオン、どこかに紙を貼れそうなところある?」
「ん~」
リュカオンと一緒にキョロキョロと辺りを見回す。
流石、あんまり使う人が多くない門だけあって周りに物も少ない。いっそその辺の木に貼っておこうかな。木なら怒られなさそうだし。
そんなことを考えながらフラフラと歩いていた私の視界が何かを捉えた。
「ん?」
今、何か気になるものが視界の端に入ったような……。
そちらの方に顔を向け、私はカッと目を見開いた。そしてテコテコと隣を歩いているリュカオンの肩を揺する。
「リュカオンリュカオンっ! あそこに! 今にも故郷に帰りそうな侍女がいる!!」
小声だけどテンション高く私はリュカオンに言った。
「なに?」
リュカオンもそちらに視線を向ける。リュカオンの視線の先には大きな荷物を持ってトボトボと歩く女の人がいた。女の人はちゃんと分かりやすく侍女服を着ている。
「あれ! 絶対に故郷に帰る途中だよね!?」
「そう言われれば……そんな風に見えなくもないな」
今日は紙を貼るだけのつもりだったけど予定変更だ。今あの侍女さんに話し掛けずしてどうする!!
私は走った。周りからは早歩き程度にしか思われていなくても私は走ったのだ。
「あ、あのっ」
「?」
侍女さんがこちらを向く。
しまった、勢いで話し掛けたはいいもののなんて言おう。
「……何かお困りではないですか? その、私、職業の斡旋……いえ、使用人を募集してまして……」
我ながらかなりあやしい奴だね。
私なら絶対こんな人の話なんて聞かない。走って逃げるね。早歩きで追いつかれるだろうけど。
だけど、侍女さんは大荷物だからか逃げ出すことはなかった。
それどころか腰を屈めて微笑みかけてくれる。
「どうしましたか、かわいらしいお嬢様。落ち着いてお話ししてくださいませ」
―――や、優しい!
帝国でこんなに優しい人に会ったのは初めてだ。
しかも、かなり胡散臭いことを言ったはずなのに私の言葉に耳を傾けてくれている。まだ子どもだから焦って上手く話せていないと思われたんだろう。
かわいくてよかった。磨いてくれた祖国の侍女達に感謝だ。
「あの、お忙しくなければお話を聞いてほしいんですけど……」
「いいですよ。ちょうど先程暇になったところですから」
「!」
侍女さんには本当に申し訳ないけど、私は長年追いかけていた探し人をようやく見つけたような気分だった。
このまま立ち話もなんだと、私達は近くにあったベンチに隣同士で腰掛けた。そして、私は至急使用人を雇いたいのだということを話す。
「お嬢様はご慧眼ですね。私、王城での仕事にお暇を出されて故郷に帰るところだったんです」
「では……」
「申し訳ありません。お誘いは光栄なのですがお断りさせて下さい。故郷で兄達を支えたい気持ちもあったのでこれもちょうどいい機会かなと思ってるんです。理不尽な理由で辞めることにはなってしまいましたが、兄達を直接支えたい思いもありましたし」
きっと私に諦めさせるためだろう、侍女さんは丁寧に私の侍女になれない理由を説明してくれた。それは仕方がないことだからいい。今回はご縁がなかったということだろう。
だけど、私は侍女さんの言葉に引っかかった。
「―――理不尽な理由?」
私の空気感が変わったのを感じたのか、侍女さんが元々まっすぐだった姿勢をさらに正す。
「リュカオン、私達の言葉を周りに聞こえないようにしてくれる?」
私がそう言うとリュカオンはコクリと頷き、私達の周りに遮音結界を張ってくれた。ついでに人払いの魔法も使ってくれたようだ。
すると、侍女さんが驚いたようにリュカオンを見る。
「そちらは聖獣様でしたか」
「……うん。それで、理不尽な理由ってなに?」
神獣だって言ってあげられなくてごめんねリュカオン。視線でリュカオンに謝ると、リュカオンも視線で「気にするな」と返してくれた。
そして、遮音結界を張ったことに安心したのか逃げられないと思ったのか、侍女さんは仕事を辞めることになった経緯を話し始めた―――





