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【137】”まうんと”合戦!





 カーテンの隙間からは光が差し込み、外からは鳥の鳴き声が聞こえてくる。


「……朝……」


 そう、絵に描いたように爽やかな朝だ。

 私は起き上がり、寝起きでかすむ目をクシクシと擦る。

 フィズとカードゲームをやってたはずなんだけど、途中から記憶がない。私はいつベッドに入ったんだろう……。

 昨日の記憶を漁っていると、隣のリュカオンがモゾリと動き、ゆっくりと目を開いた。


「おはようリュカオン」

「ああ、おはよう」

「私、昨日どうした? カードゲームをしてるところで記憶が途切れてるんだけど」

「途中で寝落ちしていたぞ。シャノンにはまだ夜更かしは早かったようだな」


 うん、私もそう思う。


「寝落ちしたシャノンをここまで運んで寝かせたのは皇帝だ。後で礼を言っておけよ」

「分かった」


 コクリと頷く。

 自分でベッドに入った記憶がないと思ったら、フィズが運んでくれたらしい。育児かな?

 夜更かしとかいう大人っぽいことをしたと思ったら育児されちゃったよ。

 大人の女性への道はまだまだ長いね。






 支度を調えてリュカオンと一緒に食堂に向かうと、既にフィズがいた。


「あ、おはよう姫。よく眠れた?」

「うん! 昨日途中で寝ちゃってごめん。ベッドまで運んでくれてありがとね」

「どういたしまして。と言っても、感謝されるほどのことでもないけどね。姫は軽いし。スコンと寝ちゃった姫も赤ちゃんみたいでかわいかったよ」

「赤ちゃん……」


 そこまで遡っちゃいましたか。まあ、フィズの負担になってなかったならいいけど。

 フィズと話をしながら席に着いたタイミングで、食堂の扉が開いた。そこから入ってきたのはアリスとノクスだ。

 アリスの頬にはほんのりと赤みが差していて、昨日の事件後と比べると大分顔色がいい。ゆっくり休めたようだ。


「おはようアリス」

「おはようシャノン……って、陛下もいらっしゃいますのね。こちらには住んでらっしゃらないと聞きましたが、食事は一緒に摂られているんですか?」

「普段は一緒じゃないよ。フィズは昨日から泊まってるの」


 すると、アリスがピシッと固まる。


「昨日から……?」

「うん、昨日一緒にカードゲームして夜更かししたの。楽しかった」

「ま、まあ、それはよかったですわね」

「うん、えへへ」


 はにかむ私とは対照的に、アリスは険しい目でフィズの方を向いていた。どうしたんだろう。それに対して、フィズは素知らぬ顔で微笑んでいる。


「……陛下、なぜ昨日から泊まりに来たんですの?」

「襲撃者の残党がもしかしたら襲ってくるかもしれないからね、護衛だよ」

「襲撃者が城の厳重な警備を突破できるとは思えませんが」

「万が一に備えてるんだよ」

「警備であればシャノンと楽しく夜更かしする必要はないかと思いますけれど?」

「姫の希望だからね」

「……わたくしにシャノンとの楽しいお泊まり会を先越されるのが嫌だっただけでは?」

「さあね」


 二人の会話を聞き流しながら、私は朝の紅茶に口をつける。うん、今日もおいしい。

 隣では、リュカオンもカップから紅茶を飲んでいた。器用だよね。

 そしてアールグレイのいい香りを楽しんでいると、オルガが食事を運んできてくれた。


「シャノン様どうぞ」

「ありがとう」


 言葉遣いはたまに雑なところのあるオルガだけど、音が立たない繊細な所作でテーブルにお皿を置いてくれる。

 そして、フィズやアリスの前、そしてアリスの隣の席にもお皿が置かれた。


「?」


 一つ多いお皿にノクスが首を傾げていると、オルガがニカッと笑う。


「これは……?」

「これはお前の分だ」

「……俺の……?」

「ああ、アリス嬢も慣れない環境だし、今日は一緒に食べちまえ。シャノン様、いいですよね?」

「もちろん。アリスが滞在してる間は一緒に食べよう」


 そう言うと、ノクスは遠慮がちにアリスの隣の席に座った。


「よし、じゃあ食べよっか」

「――ちょっと待ってシャノン、あなたそれしか食べないの?」

「ん?」


 アリスが見ているのは私のお皿だった。今日のメニューはサラダ、お魚、スープ、そしてパンとデザートのフルーツだ。

 うん、いつも通りのバランスのいい食事である。


「品目数は十分じゃない? アリスも同じ内容でしょ?」

「ええ、メニューに文句はないわ。問題は量よ!」

「えぇ……?」


 いつも通りの食事なんだけど……。


「いつもそれだけしか食べていないの? まるで小鳥じゃない」


 アリスに言われ、自分の前のお皿に目を向ける。そこには、野菜とお魚がちまっと載っている。アリスの半分の量だ。

 パンも、一つは食べきれないので半分にしてもらっている。


「朝はあんまり食欲湧かなくて。でも昼と夜はもっと食べてるよ!」


 別に食べてないわけじゃないんだぞ、と、ドヤッと胸を張る。


「それでも少な……いえ、食事はおいしく頂くのが一番だものね」

「うんうん、姫は食べられるだけ食べればいいよ。さあ、食事が冷める前にいただこうか」


 そう言うフィズのお皿には、食事が山盛りになっている。これだけ量が多いと、もはや綺麗な盛り付けなんて不可能だね。

 公式な場でもないんだから見栄えは気にしないと、昨日フィズがオルガに伝えたらしい。


「フィズは細いのに結構食べるよね」

「まあね、皇帝業は意外と体力勝負だから」

「普段も遅くまでお仕事してるんだもんね。それなのに昨日も夜遅くまで付き合わせちゃってごめんね?」

「むしろいつもより早く寝たくらいだったよ。目覚めもスッキリさ。姫とゆっくり話すのも楽しかったし」

「そっか、それならよかった」


 私も楽しかった。

 フィズからしたら寝るには早い時間だったのかもしれないけど、私からしたら十分深夜だったし、深夜に起きている背徳感からか、普段と違う感じがしてすごくワクワクした。

 すると、対面からギリィッと歯ぎしりの音が聞こえてきた。歯ぎしりってこんなにハッキリ聞こえるんだね。

 視線を向ければ、そこにはワナワナと震えているアリス。


「疲労に負けて寝なければ……っ! もう少し体力があればシャノンの初めてのお泊まり会は私のものだったのに……!!」


 心の底から悔しそうにするアリス。


「いやいや、そんな一大イベントを俺がポッと出の女の子に譲るわけないでしょ。たとえ昨日君が起きていたとしても結果は変わらなかったよ」


 トドメなのか慰めなのか分からないことを口にするフィズ。だけど、それは火に油を注いだようでアリスはさらに悔しそうにする。


「クッ、何様なのかしら……!」

「姫の旦那様だけど」


 あ、アリスが撃沈した。

 そんなアリスを、ノクスが心なしか気遣わしげな顔で見る。


「……アリス様……さすがに、陛下には敵わないですよ……」

「私もそのくらい分かっているわよ」


 ムクリと顔を上げるアリス。


「ねぇリュカオン、フィズとアリスは毎度毎度どうして言い合いをするんだろうね」

「ふむ、最近の言葉で言うと“まうんと”というやつだろうな。どちらの方がシャノンと仲がよいかを競っているのだ」

「まうんと……さすがリュカオン、最先端の言葉も知ってるんだね」


 私の狼さんは時代にもついていけちゃうのか。



「――まあ、昨日は我も同席していたし、この中で一番シャノンと仲がよいのは我だがな」

「「……」」


 リュカオンの発言に、フィズとアリスは同時に口を閉じた。


「……まあ、それは否定できないね」

「というか、神獣様相手では対抗する気も起きませんわ」


 リュカオンとは文字通り、朝から晩までずっと一緒だからね。夜だってリュカオンを抱き枕にして寝てるし。もはや逆に仲良しという言葉では言い表せないかもしれない。


「ふふん、そうであろう」


 完全に降参状態の二人を見て、リュカオンは満足気に尻尾をパタパタと揺り動かしていた。




 ――あ、リュカオンも今“まうんと”とってるね。








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