【13】どなたか! 身元のあやしい子どもの下で働きたい方はいませんか!?
王城から帰ってきた私はヘトヘトだったけど、使用人がいないので食事は出てこない。
「また果物か~」
果物好きだけど、ちょっとはしょっぱいものとかも食べたい。
そう言うとリュカオンは少し考え込み、顔を上げた。
「はぁ、少し調理場の外で待っていろ。いいか? 絶対に中を覗くなよ?」
「どこかの昔話みたいなこと言うねリュカオン。分かった、絶対に覗かない」
「……」
胡乱な目で私を見るリュカオン。完全に信用されてない。
そしてリュカオンは調理場に入り、調理場の扉を閉めた。
「あ」
リュカオンの後に続いて私も流れるように調理場の中に入ろうとしたけど、結界に阻まれた。私が入れないようにリュカオンが展開したんだろう。
流石リュカオン、この短期間で私のことを完全に理解してるね。
暫く一人で待っていると、結界が解かれて中からリュカオンが出てきた。
「食事ができたぞ」
「え?」
中に入ると、そこにはホカホカと湯気を立てるスープ、パン、そしてメインの肉料理が用意されていた。
「すごい……! これリュカオンが作ったの?」
「ああ」
「どうやって?」
「それは……秘密だ」
パチンとリュカオンが片目を瞑る。あらかわいい。
リュカオンのかわいさに免じて追及するのは止めておいてあげよう。
狼のリュカオンに細かい作業ができるとは思わないけど、魔法とかを使ったのかな……? 魔法だけで繊細な作業をするのはかなり難易度が高いと思うけど、まあリュカオンは神獣だしね。そんなこともできるのかもしれない。
私はテーブルまで料理を運び、リュカオンにお礼を言ってさっそくパンを一口食べた。
「おいしい! ……すごい、あの白い粉からほんとにパンができるんだね。どんな魔法使ったらただの粉からパンができるの?」
そう聞くと、リュカオンは少し呆れたような顔になった。
「白い粉……そういえば、シャノンは一応姫だったな」
うんうん、シャノンはお姫様ですよ。
その日は、リュカオンが作ってくれたごはんを食べてゆっくり休んだ。
リュカオンのごはんは、とても温かい味がした。
***
昨日は帰ってきてからしっかりと休み、今日から本格的に使用人探しに取り組むことになった。
「やっぱり、この宮殿の外に出る時は私が皇妃だってことは隠そうと思う。動きにくいし、どうせ信じてもらえないし」
「それがいいな。念のため出かける時は瞳や髪の色も変えてやろう」
「ありがとう。リュカオンはどうする?」
「我の姿も何人かには見られているからな、我も変装することにする。そうだな、小さくなって犬に擬態するか」
犬……リュカオンとか犬と間違えられたらかなり怒りそうなタイプに見えるけど、意外と気にしないんだ。自分から変化する分にはいいのかな……?
ツッコんだらめんどくさそうだから何も言わないでおこう。
『侍女、料理人、その他もろもろの使用人募集。お給料:要相談 休み:要相談(なるべくご希望に沿えるようにします)』、昨日紙に書いたのがこれだ。
「う~ん、でもこれじゃあちょっと引きが弱いよね」
何か付け足すか。
『とてもアットホームな職場です。雇い主もとても優しいです』、私はそう書き加えた。
「……胡散臭いな。わざわざこれをアピールしてくるってことは、実際は厳しい職場なんじゃないかと勘繰られるんじゃないか?」
「やっぱり? 私も自分ならこれをわざわざ書くところにはいきたくないなって思っちゃった」
これは止めよう。
じゃあやっぱり正直なことを書いた方がいいのかな。
私はサラサラとペンを動かす。
『どなたか! 身元のあやしい子どもの下で働いてもいいよって方!! いらっしゃいませんか!?』
「……」
「……」
現状をそのまま書いたら胡散臭さがさらに増しちゃった。不思議。でもこの文言じゃあ絶対に人が来ないのは私でも分かる。
「とりあえず、最初に書いたのだけその辺に張り出してみようか」
「……そうだな」
魔法紙に募集条件だけを書き写していく。あと、応募したい人は面談をしたいので都合のいい日時と場所を書いて紙を飛ばすように書いておいた。
この魔法紙は丸めて投げると、自動で指定した場所に紙が戻ってくるような魔法がかけられているのだ。もちろん、その場所にはこの離宮を指定しておく。
何枚か同じものを書いた紙を用意すれば準備は完了だ。
そして自分で着られるレベルの服に着替える。あとは髪と瞳の色を変えるだけだけど―――。
「上手く埋没できる色って何色かな。茶色らへん?」
「だろうな。ほれ」
リュカオンが魔法で私の色を変えてくれる。
鏡を見ると、薄茶色の髪にブラウンの瞳になっていた。わぁ、色が変わっただけなのに別人みたい。
私は鏡を見ながら、背中の中頃まである髪の毛を一房持ち上げる。
ちなみに髪の毛は特に結んだりとセットはしていない。ただ櫛でとかしただけでサラリと背中に流している。なぜなら自分では髪の毛を結べないからだ。結び方も分からない。
鏡から目を離すとリュカオンの色も変わり、犬のように体の背中半分くらいがクリーム色でお腹の方が白くなっていた。器用だね。
だけど、大きさはそのままだ。
「あれ? 小さくはならないの?」
「……シャノンお前、最初から最後まで自分の足で歩いて体力がもつと思うのか?」
「思いません」
私は即答した。
「途中までリュカオンが乗せていってくれるの?」
「ああ」
「ありがとう。リュカオン好き」
ギュッとリュカオンの首に抱きつく。あ、ふわふわ。
色は変わっても毛の質は変わっていなかった。いいね。
「ほら乗れ」
「いいの? まだ室内だよ?」
「その室内を歩くだけで疲れるのは誰だ?」
「私です」
私はまたもや即答した。
だって離宮広いんだもん。
自分の体力のなさを分かっている私は遠慮なくリュカオンの背中に乗せてもらった。
「忘れ物はないか?」
「うん、大丈夫」
斜めに掛けている鞄の中を確認すると、必要なものは全て揃っていた。
「上着もちゃんと着るのだぞ」
「は~い」
冬物のワンピースの上に上着を羽織る。ワンピースの生地が分厚いからって昨日は外套を羽織らなかったんだけど結構寒かったからね。天気もよかったし雪も降ってなかったからなんとかなったけど。
というかリュカオン、どんどん過保護というか所帯じみてきてるね。私は安心するけど。
そして、私達は快適な生活を手に入れるべく、離宮を後にした。





