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【120】ついにモフモフとご対面!




 お出かけから帰ってきた翌日、私はお土産を持ってフィズの元にやってきていた。

 コンコンとノックをしてフィズの執務室に入る。


「フィズ――……なにしてるの?」


 扉を開いて中に入ると、フィズがニコーッと笑って、両手を広げていた。


「待ってたよ姫~。お出かけは楽しかった?」

「うん、とっても楽しかった! あ、フィズにお土産があるの! もらってくれる?」

「え? 俺にもお土産買ってきてくれたの? 嬉しいな~」


 相好を崩して私の前にしゃがむフィズに、傍らにいたアダムが冷ややかな視線を向ける。


「シャノン様がお土産を持って来るのを今か今かと待ち構えてたくせに……」

「語弊があるよアダム。俺が待ってたのはお土産じゃなくて姫だから。さあ姫、お話を俺に聞かせてくれる?」

「うん!」


 フィズと一緒にソファーに移動し、お茶を飲みながら昨日の話をする。

 話したいことが多すぎてたどたどしくなってしまった私の話に、フィズは相づちを打ちながらしっかりと耳を傾けてくれた。


「姫が楽しめたようでよかったよ。今度は俺と一緒に行こうね」

「うん。あ、フィズ、お土産もらってくれる? そのカフェで買ったお菓子の詰め合わせ。あんまり高いものじゃないけど……」

「何を言ってるの。姫が俺のことを考えて選んでくれたってだけで、これには宝石や金塊以上の価値があるよ」


 大真面目な顔でそういったフィズは、丁重な手つきでお菓子の箱を受け取ってくれる。


「それは大げさだと思うけど」

「ううん、気持ちが嬉しいんだよ。立場上、若者が行くような流行の場所にはなかなか行けないしね。巷ではこんなものが人気なんだって勉強になるよ」

「そっかぁ」

「うん」


 そんなに大したものじゃないんだけど、ここまで喜んでくれるとこっちも嬉しい。


「こんなに素敵なお土産を買ってきてくれた姫にお礼がしたいんだけど、何かほしいものはある? 俺にしてほしいことでもいいけど」

「う~ん」


 ほしいもの……は、特にないかな。じゃあ、フィズにしてほしいことかぁ、う~ん。


「ふふ、頭を悩ませる姫もかわいいね」

「お前、シャノンならなんでもいいんだろう。まあ、うちの子がかわいいのは事実でしかないが」


 私が考えている間、フィズとリュカオンが仲良くおしゃべりをしている声が聞こえる。

 フィズにしてほしいこと……してほしいこと――


「――あ、一つあった!」

「なんだい?」

「あのね……」


 私がフィズにお願いしたいのは、少し前にも話題に出たあれだ。

 そして、私のおねだりを聞いたフィズは、ニッコリと微笑む。


「なんだ、それならお安い御用だよ」




◇◆◇





 私達は、城の裏手にある森に移動した。


「基本的に、普段は好きにさせてるんだよね。でかいから、ずっと城の中にいるのは窮屈だろうし」

「そうなんだ。急に行って会えるの?」

「呼べば来るよ。グレイス~」


 青々と茂った緑に向かってフィズが呼びかける。おそらく、グレイスというのが名前なんだろう。

 少しの間待っていると、茂みがガサガサと揺れた。 

 そして、その中からフサフサの生物がひょっこりと顔を見せる。


「グルゥ?」


 頭の上に葉っぱを乗せて現れたのは、白い虎だ。まん丸のお目々がこちらを見詰めてくる。


「グレイス、おいで」


 フィズが呼ぶと、グレイスがのっそのっそとこちらに歩いてくる。そしてグレイスが茂みから出たことで、葉に隠されていた全貌が見えた。

 白くてモフモフした毛には、黒いしましまが入っており、大きくて少しむちっとした足とフサフサの尻尾がとってもかわいらしい。


 そう、私がフィズに頼んだのは、フィズと契約している聖獣である白虎と戯れたいということだ。


 私を見てこいつは誰だ? という顔をして、こちらとは距離をとりながらフィズに近付くグレイス。


「警戒されてる?」

「警戒? シャノン(この無害な生物)をか?」


 訝しげにグレイスを見るリュカオン。私を警戒していることに対して心底疑問に思っているようだ。


「あはは、グレイスは少し人見知りなんだ。グレイス、この子が君に触ってみたいって言うんだけど、いいかな?」

「グルゥ?」

「そ、君の極上の毛並みにどうしても触りたいんだって。どうかな?」


 グレイスを説得しているらしいフィズ。だけど、グレイスは眉をひそめて険しい顔をしている。


「あの、フィズ、無理にとは――」


 グレイスが嫌なら無理をしなくていいと伝えようとした時、目の前の巨体がゴロンと地面に寝そべった。そして、お腹を見せるように仰向けになるグレイス。


「ん?」


 急にお腹を出したグレイスを疑問に思っていると、グレイスの方も「ん? 触らないの?」みたいな顔でこちらを見返してくる。


「フィズ、これはどういう意味?」

「触ってもいいよって。ごめんね、グレイスは少しツンデレというか、天邪鬼なんだ。エサ的な意味ではなく小動物も大好きだから、姫のことも気に入ったはずだよ。こうしてお腹も見せてるし」

「グルゥ?」


 フィズと話していると、グレイスが訝しげに鳴く。


「ほら、まだ触らないのかだって」

「う、うん」


 今の鳴き声は、私にもフィズの言ったような意味に聞こえた。


「じゃあ、失礼して……」


 グレイスの前にしゃがみこみ、そのモフ毛におそるおそる手を伸ばす。まずは背中だ。お腹を触られるのは嫌って子もいるからね。

 グレイスは見た目よりも毛深く、もっさりと手が埋まってしまう。


「おぉぉ……! フワフワ、あったかい……!」

「グルル」

「お腹も触っていいって」

「え!?」


 なんて大サービス。嬉しい。


「じゃあ失礼して……」


 フワフワな腹毛をさらりと撫で、グレイスの様子を窺う。目を瞑ってされるがままになっているから、まだいけそうだ。

 次は、思い切ってワシャワシャと撫でてみた。

 わぁ、お腹の毛はやっぱり柔らかいなぁ……!

 調子に乗った私は、そのままお腹の毛を大胆に撫で続ける。すると、グレイスはうっとりとした様子で体から力を抜いた。完全に脱力したグレイスを見て、私は謎の達成感を覚える。

 おお……、私の撫で撫で、気持ちよかったのかな……。


 私が一度手を止めると、グレイスはもっと撫でろと言うように尻尾をパシンと地面に打ち付ける。


「私の撫で撫で、お気に召しましたか?」

「ギャウッ」


 悪くないとでも言うように鳴くグレイス。


「ふふふ、もっと撫でさせていただきます」

「グルルル」

「あはは、姫にこんな横柄な態度ができるのなんてグレイスくらいかもね」


 ガッシガッシと撫でれば、グレイスがみょい~んと伸びをする。かわいい!

 リラックスをしてくれている様子のグレイスに、さらに調子に乗った私は、グレイスのお腹に顔を埋める。そして、思い切って抱きついてみた。


「うわぁ~、すごい、かわいい。もっふもふ」

「あはは、姫の語彙力が死んでる。そんなに喜んでもらえたならよかったよ」

「うん、フィズありがとう」

「どういたしまして。……ただ、ちょ~っとこっちにも目を向けてみてくれると嬉しいな」

「ん?」


 フィズに言われたので、グレイスのお腹から顔を離し、そちらを見た――


「――あ」


 そこで、私は自分の過ちに気がつく。

 困ったように笑うフィズの隣には、怒りの狼さんが鎮座していた。


「シャノン、この浮気者……」


 内心に呼応してリュカオンの尻尾が荒ぶっている。それはもう、バッサバサ動いていた。ああ、そんなに乱暴にしたら毛並みが荒れちゃうよ……。


「リュ、リュカオン……」

「我よりもその若い毛玉がいいのか」

「そ、そんなことないよ。リュカオンが一番!」

「え~、姫、俺は?」

「フィズ、今はお口チャック!!」


 余計な茶々を入れるフィズを静かにさせ、私はリュカオンのもとに駆け寄る。


「我の毛にはもう飽きたか」

「飽きてないよ! リュカオンが一番好き! 大好き!!」


 リュカオンにむぎゅっと抱きつき、好き好き攻撃をしまくる。

 むぎゅむぎゅスリスリしていると、次第にリュカオンの尻尾が落ち着いてきた。バッサバサと荒ぶっていたのが、パタパタと僅かに揺れるまでになる。

 そんな私とリュカオンをフィズとグレイスの契約者コンビが見守る。


「ギャウ?」

「ん~、神獣様が嫉妬しちゃったみたいだから、姫の撫で撫ではここまでだね~」

「グルルルル」

「えぇ? まだ撫でられ足りないの? お前そんなに甘えん坊さんだったっけ」

「グルル」

「仕方ないな~、俺で我慢してくれる?」


 そうしてグレイスの首回りをワッシワッシと撫でてあげるフィズ。

 あ~、グレイスのモフモフもまた捨てがたかったな~。名残惜しいけど、リュカオンを悲しませたいわけではないので今日のところは諦める。


「リュカオンが一番だよ。トップオブザもふもふ。モフモフ界のパイオニア」


 そう言ってリュカオンの頬にちゅっちゅっとキスをすると、リュカオンの尻尾がピタリと止まった。


「……このたらしめ」

「あ、ご機嫌直った?」

「直った。シャノンにここまでされてへそを曲げていられる奴はおらぬよ。……ふむ、我も大人気おとなげなかったな。すまぬ。そこの若いのもすまなかったな」

「グルルゥ」


 リュカオンが謝ると、グレイスは「いえいえ、そんな。謝ることないですよ」とでも言わんばかりに首を振っていた。その妙に人間らしい仕草に笑いを誘われる。


 それから少しだけグレイスの頭を撫でた後、私達は帰路についた。




 よし、今日はリュカオンそっちのけでグレイスと戯れちゃったお詫びに、いっぱいブラッシングをしてあげよう。

 のんきにそんなことを考えていた私は、忘れていたのだ。離宮にいる、もう一匹のモフモフに。



「――キュッ? キュキュッ!?」

「おうおう、どうしたの狐」


 離宮に帰ってきた途端、狐が飛びついてきて私の匂いを嗅ぎ始めた。スンスンと鼻息が当たるのがくすぐったい。


「ふふ、狐くすぐったいよ」

「……キュッ! ギューギュー!!」

「え? なんで怒ってるの?」


 急にご機嫌斜めになった狐に困惑していると、リュカオンが通訳をしてくれた。


「知らない毛玉の匂いがする! と言っておるな。服に我のものでも狐のものでもない抜け毛がついてることも指摘しておるぞ」

「なんか嫉妬深い彼女みたいだね」


 それで嫉妬をされるほど狐に好かれているとは思わなかった。いや、これは縄張り意識みたいなものなのかな? 

 ……分からない。

 とにかく、興奮状態の狐を宥めよう。


「どうどう、狐さんとにかく落ち着いてくださいな。落ち着いてくれたらシャノンちゃんのブラッシングスペシャルをしてあげましょう」

「キュ? ……キュキュッ!」


 これは、もう一声! と言ってる気配がする。


「もみほぐしも追加でどうですか?」

「キュ~……キュッ!」


 コクンと頷く狐。どうやら納得をしてくれたようだ。



 この日はお風呂に入った後、リュカオンと狐のブラッシングをして気が済むまでワッシャワッシャと撫でてあげた。


 そして、撫でているうちに私のベッドの上で狐がうとうととし始める。


「あれ? 狐おねむ? 自分の部屋に帰る?」

「キュ~……」


 もう動けねぇ、とばかりに私のベッドの上で伸びる狐。ここまで私に甘えてくるのは珍しい。


「今日はここで寝る?」

「キュッ」


 問いかけると、狐は寝そべったままコクリと頷いた。

 かわいい!

 ハッ、狐がここで寝るってことは、夢のあれができるのでは……!?


 私はいそいそと狐の隣に潜り込み、狐がいるのとは反対側のシーツをペチペチと叩いてリュカオンを呼んだ。

 リュカオンは特に抵抗もなく、私の隣に寝そべってくれる。まあ、リュカオンと一緒に寝るのはいつものことだしね。


「ふふふ、モフモフサンドイッチの完成」


 右に狐、左にリュカオンという完璧な布陣だ。


「夢が一つ叶っちゃった」

「随分とささやかな夢だのう」


 そう言いつつも、リュカオンはギュッと私の方に寄ってきてくれる。




 どうやら、私は思っていたよりもうちのモフモフさん達に好かれていたようだ。



 








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<書籍2巻は2024/12/6発売です!>
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