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【119】皇妃様、使用人達の愛が重たい




 おじ様と別れ、私達は離宮に戻ってきた。リュカオンも既に元の姿に戻っている。


「ただいま~!」

「シャノン様! お帰りなさいませ!」

「お疲れではないですか?」

「初めての街歩きは楽しかったですか?」

「おおう……」


 意気揚々と玄関をくぐると、待ち構えていた侍女達に出迎えられた。あまりの勢いに思わず気圧される。


「とりあえず、ご無事で戻られてよかったです~!」

「ありがとう」


 ぎゅむぎゅむと三人に抱きしめられる。

 その温もりで家に帰ってきたんだと安心すると同時に、早く話がしたくてたまらなくなった。


「あのね、あのね、今日初めて市場に行ったんだけどね……あ、その前にみんなにお土産買ってきたの。配らなきゃ」


 持っていた紙袋からごそごそとみんなへのお土産を取り出す。


「うふふ、シャノン様、そんなに急がなくても私達は逃げませんよ」


 アリアがそう言って笑うけど、私は早く渡したくて仕方がないのだ。

 クッキーの入ったオシャレな箱を三人にそれぞれ一つずつ手渡す。


「私からのお土産だよ。みんな、いつもありがとね」

「「「シャノン様……!」」」


 涙ぐむ侍女ズ。

 すると、セレスがギュッとクッキーの箱を抱きしめた。


「私、もったいなくて食べられません……! 今夜はこれを眺めながらお茶をしようと思います……!!」

「……お茶と一緒に食べたら?」


 すると、セレスに続き、ラナも大真面目な顔で口を開く。


「セレスに同感です。誰にも奪われたくないので早く金庫にしまわなくては」

「いやいや、誰も奪わないと思うよ?」


 そんなリスクをとるよりは自分で買いに行った方が早いだろうし。

 セレス、ラナとくれば最後はアリアだ。アリアは真剣な顔でクッキーの箱を眺め、ぽつりと呟いた。


「食べ物の永久保存ってどうしたらいいんでしょう……」

「保存しないで食べてね?」


 小さい声で突っ込みを入れてたけど、興奮状態の三人には届いていないだろう。ただ、こんなに喜んでくれるとあげた私としても嬉しくなるね。

 まあ、なんだかんだ言っても腐らないうちには食べてくれるでしょ。


 侍女達のこんな反応を見ると、他の人達のリアクションも早く見たくなってきた。


「他のみんなにも渡しに行く!!」

「まあ、いいですね」

「きっと皆喜びますよ」

「ええ、私達だけシャノン様からお土産をもらったと知れれば恨まれてしまいますし」


 クッキーの箱を手にした侍女ズは、ご機嫌で私のことを見送ってくれた。



 侍女ズと別れて廊下を歩いていると、ルークに遭遇する。


「あ、シャノン様、お帰りなさい。街は楽しかったですか?」

「うん、とっても楽しかった!! あのね、市場も行ったし、クイズ大会で優勝してカフェにも行ったの!」


 興奮のあまり、ぴょんこぴょんこと跳ねながらルークに話す。


「それは濃い一日でしたねぇ。シャノン様が楽しめたようで僕も嬉しいです。……皇都のクイズ大会って出場者は猛者揃いだから、そんな簡単に優勝できるもんじゃないんだけどな……。僕の主すご~い」

「?」


 ルークが最後にボソリと何かを言ってたけど、声が小さくて聞き取れなかった。

 首を傾げて見上げると、ルークは微笑んで首を振った。


「いえ、なんでもありません。シャノン様、体調は大丈夫ですか? おでこを失礼しても?」

「いいよ」


 そう言って前髪をかき上げると、ルークの手が私のおでこに当てられた。


「まだ熱は出てませんね。どこか調子の悪いところはないですか?」

「ないよ」

「それはよかった。でも今日はお疲れでしょうから、ゆっくり体を休めてくださいね」

「うん。ありがとうルーク」 


 さすが専属のお医者さんだ。私の体調管理に余念がない。


「ルーク、ルークにもお土産あげる。手ぇ出して」

「え?」


 おずおずと手を差し出すルーク。その上に、クッキーの箱をポンッと置いた。


「カフェで買ってきたクッキー。おいしく食べられるうちに食べてね」

「シャノン様…… ! ありがとうございます!!」


 感激したようにパァッと笑顔になるルーク。


「大事にします!!」

「んん? うん、大事に食べてね?」


 そう言うと、ニコッと笑みが返ってきた。

 ……ギリギリまで保管されそうな予感がするのは、気のせいかな……?



 それからも、オーウェンやオルガ、ノクス達にお土産を渡して歩いた。みんな大げさなくらい喜んでくれて、シャノンちゃんは大満足だ。

 廊下を歩いてると、後ろからリュカオンがスリッと頬ずりしてきた。


「シャノンご機嫌だな」

「うん。お土産配るの楽しい」

「よかったな」

「うん」


 リュカオンは最近、ますますパパが強くなってきた。

 軽くなってきた紙袋を片手に廊下を歩いていると、前から見知った顔が早足で近付いてくる。


「――あ、シャノン様!」


 正面から歩いてきたのは、クラレンスだ。

 今日はいつもと違い私服だった。騎士服じゃないと雰囲気が違うね。

 そういえば、クラレンスも今日はお休みだったっけ。


「クラレンスも街に行ってたの?」

「はい」


 ニッコリと笑って答えるクラレンス。

 ……私の隣の神獣さんが半目で溜息吐いてるんですけど。まあいいや。


「クラレンスにもお土産買ってきたから、よかったら食べてね」

「え? 僕の分もあるんですか?」


 まさか自分の分もあるとは思ってなかったのか、クラレンスがパチクリと目を見開く。


「もちろんだよ?」


 まさか、新入りだからってクラレンスだけを仲間外れにすると思われてたんだろうか。心外だ。


「むぅ、私そんな心狭くないよ? クラレンスだってもう離宮の一員なんだから、お土産くらい買ってくるに決まってるじゃん」

「……あ、ありがとうございますシャノン様。嬉しいです……」


 はい、とクッキーの箱を手渡すと、クラレンスも他のみんなと同じく、大事そうに懐に抱え込んだ。


「これね、今皇都で人気のカフェで買ってきたの。きっとおいしいよ」

「シャノン、わざわざ言わずとも、そやつはどこで土産を買ったか知っておるぞ」

「え?」


 なんだって?

 どういうことかとリュカオンに尋ねる前に、クラレンスが口を開いた。


「わ、言わないでくださいよ神獣様。せっかくバレてなかったんですから」

「ふん」


 クラレンスの抗議に、プイッとそっぽを向くリュカオン。あ、かわいい――じゃなくて!


「クラレンス、もしかしてついてきてたの?」

「街に着いてから出るまで、こっそりと護衛しておったぞ」

「え、全然気付かなかった」

「シャノンは鈍感だからな。まあ、シャノンに気付かれるくらいの隠密行動しか出来ぬならこやつはクビにした方がいいが」

「そんなにかな……?」


 さすがにそこまでではないよね? とクラレンスを仰ぎ見たけど、可哀想な子を見るような、生温かい視線を向けられるのみだった。

 そこまで鈍感かなぁ……?


「わぁ、シャノン様が首を傾げてる。かわいいですね」

「そなた……シャノンのことを小動物か何かだと思ってるだろ……」

「まさかまさか。敬愛すべき主だと思ってますよ」


 ふふ、と笑うクラレンス。いつも飄々とした態度だからいまいち本気か冗談か分からないんだよね。


「でも、クラレンスはお休みなのにどうして護衛なんてしてたの? 大丈夫だよって言ったのに」

「ええ? こんな妖精みたいにかわいくて地位もお金もある主の初の外出ですよ? 心配すぎていてもたってもいられないですよ。僕としては休みなんていらないから護衛として連れて行ってほしかったんですけどね。仕方ないので勝手に護衛してました。ふふ、滅私奉公楽しいです」

「おおう……重たい忠誠心……」


 そういえば、クラレンスは誰かに仕えたい願望が強めっておじ様が言ってたっけ。意外にも尽くしたいタイプなんだね。


「オーウェン達もこっそり護衛に行こうか葛藤してたんですけど、結果的にはシャノン様の来るなって命令を優先して離宮で待機してましたよ」

「来るなとまでは言ってないけどね」


 みんなに迷惑かけたくなかったし、おじ様が精鋭を用意したって言うからお言葉に甘えただけだ。


「その点僕はお休みでしたし、シャノン様からは『休みの日は好きにしていいよ』って言われていたので心置きなく護衛に行きました。僕のいないところで主が害されるなんて耐えられませんし」

「そういうつもりで言ったんじゃないんだけどねぇ」

「こやつの忠誠心はいささか粘着質だのう」


 あ、リュカオンがちょっと引いてる。耳もちょっとぺしょんとしちゃった。撫でてあげよ。

 よしよしと狼さんの頭を撫であげた私は、あることに気付いて顔を上げた。


「――あ、でも、こっそりついてきてたなら私がお土産を買ったのも知ってたんじゃないの?」

「シャノン様がカフェから紙袋を持って出てきたのは見ていましたが、そこにまさか自分の分のお土産もあるとは思っていませんでした。なのでとても嬉しいです。ふふ、ありがたくいただきますね」

「うん」

「……ところで、陛下の分のお土産もあるんですよね?」

「もっちろん! みんなには申し訳ないけど、フィズにはちょっとだけいいやつを買ってきちゃった」

「それはよかった! なにも申し訳ないことなんてないですよ。陛下にもお土産があって安心しました」


 そう言って胸を撫で下ろすクラレンス。

 今日はもうそこそこ遅い時間だし、フィズへのお土産は明日渡しに行こうと思う。


「僕達だけがもらえて自分がもらえないとなると、陛下は間違いなく拗ねますからね。八つ当たりされるのはごめんです。おっかないし」

「ほんとにクラレンスはフィズのことが苦手だね」

「苦手というより、怖いんですよ。自分よりも遙かに強いものを恐れる、生き物としての本能みたいなものです」

「へぇ~」


 勘が鋭すぎるのも困りものだね。 


「あ、そういえばとんでもなくかわいい子がクイズ大会の優勝をかっさらってたって街で話題になってましたよ。さすがシャノン様ですね。僕も誇らしいです」

「そんなに話題になってた?」


 私が尋ねると、クラレンスはさもありなんとばかりに頷いた。


「それはもう。シャノン様はあっさり優勝してたので自覚ないでしょうけど、あのクイズ大会ってそんな簡単に勝てるものじゃないらしいですよ。わざわざあの大会用に勉強をしていく人もいるとか」

「そうなんだ」


 確かに、予想よりも大分難しかったね。


「そうなんですよ。あっちこっちで主が褒められてるのを聞くのは気分がよかったです。ドヤ顔が止まりませんでしたよ」

「そっか」


 クラレンスも楽しいおでかけになったみたいでよかった。



「――シャノン様、お食事の用意が調いましたよ」


 クラレンスと話していると、セレスが私のことを呼びに来てくれた。


「は~い、今行くね~!」


 お腹も空いたので、私は食堂へと足早に向かった。

 そして食堂の扉を開いた私を待っていたのは――


「あれ? なんかいつもよりも豪華だね」


 テーブルの上には、色とりどりの野菜や果物。それぞれ花や蝶の形になっていたり、繊細な細工が施されている。

 そして、メインのお肉には『祝・シャノン様初お出かけ』というポップな文字が書かれた旗が刺さっていた。


 美しい料理に見惚れていると、オルガがぬっと現れた。


「今日はシャノン様のお出かけ記念日なので、腕によりをかけました! 食べながら俺達にお土産話を聞かせてください」

「オルガ……! ありがとう! あのね、聞いてほしいことがいっぱいあるの」

「はい、たくさん聞かせてください」


 ニカッと笑うオルガ。

 その間に、セレスがサッと近寄ってきて私の手を拭ってくれた。私の侍女さん、有能すぎる……!


 それからは、せっかくなので使用人のみんなとも一緒にご飯を食べることにした。恐縮されたけど、私とリュカオンだけ食事をする中で話をするのもなんか気まずいからね。


 みんなは私のお土産話に楽しそうに耳を傾けてくれて、いつもよりも賑やかで楽しい夕飯になった。



「――ふふ、私ってば愛されてるなぁ」

「いささか愛が重い気がするけどな……」


 私の呟きに苦笑いをするリュカオン。


 だけど、夕食の間も機嫌よさげに尻尾を揺らしてたところ、私は見逃してないよ?


 晩餐会も含めて、楽しい一日だったなぁ。


 ――今日は、よく眠れそうだ。









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<書籍2巻は2024/12/6発売です!>
お飾りの皇妃書影
ぜひお手に取っていただけると嬉しいです!

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