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【118】クイズ大会荒しのシャル






 クイズ大会の会場である広場は、さすがに人が多かった。


「ぺひょっ」

「おっと」


 押しつぶされそうになる私を、おじ様が抱き上げてくれる。おかげで息がしやすくなった。特設ステージの上も見やすいし。

 おじ様は細身だけど、意外にもしっかりとした抱っこだ。


「おじ様ありがとうございます」

「ふふ、どういたしまして」


 最初はどうなることかと思ったけど、やっぱりおじ様は頼りになるね。


 そうこうしていると、ステージの上に人が現れた。眼鏡をかけた女の人だ。多分、司会の人だろう。

 司会の女性は拡声器を手にとると、スゥッと息を吸う。


『え~、皆様、本日はお集まりいただきありがとうございます! では、これより月一のクイズ大会を始めさせてさせていただきます!!』


 ウオオオオオオオオオ!!!


 お姉さんが言い終わった瞬間、周囲から歓声が上がる。なるほどなるほど、催し物はこうやって盛り上げるものなのか。


「おー!」


 周囲から一拍遅れたが、私も天に向かって拳を突き上げた。周りの人がみんなこの動作をしていたから、まねっこだ。


「グッ……! 無邪気なシャノンちゃんかわいい……!」


 真横にいるおじ様がなんか唸ってる。

 あ、私を抱っこしてるから「おー」ができないのか。それは申し訳ない。

 でもここで抱っこを止められたらはぐれる自信しかない……よし。

 

「シャノンちゃん?」


 首を傾げるおじ様のすぐそばで、私は掲げていた右腕に続き左腕も頭上に突き上げる。

 ……なんか、バンザイの格好みたいになっちゃったな……。


「シャノンちゃん、何をしてるんですか?」

「おじ様の分まで、『おー』をしてます」


 そう答えると、おじ様が黙り込んだ。あれ?

 しかし、静かになったおじ様の代わりにリュカオンがボソリと口を開く。


「……シャノン、お前はどうしてそんなにかわいいのだ」

「え、どうしたの唐突に」


 何がリュカオンの琴線に触れたんだろう。いや、嬉しいけど。

 首を傾げつつ、上げていた両腕をゆっくりと下ろす。このかん、おじ様は俯いてプルプルと震えていた。


「お、おじ様? 具合悪いです?」

「いえ、なんでもないです。問題ありません。大丈夫です」

「そ、そうですか」


 それならいいんだけど。

 おじ様とそんなやり取りをしていると、私達の周囲がにわかに騒がしくなった。


「ええ子や……!」

「う、かわいい。俺も子どもほしいな……」

「というか、綺麗な顔が二つ並んでると破壊力がすごいな」


 そして、近くにいた男の人がおじ様の肩にポンッと手を置いた。


「おい兄ちゃん、絶対にその子を一人にすんなよ。そんな純粋でポヤポヤしてんの、すぐにどっか行っちまうぞ」

「はい、肝に銘じておきます」


 私を抱くおじ様の手に、ギュッと力が入る。


「いいか、嬢ちゃんも絶対に兄ちゃんから離れんなよ?」

「はい、離れません!」


 私はおじ様の首に手を回し、ギュッと抱きついた。そしておじ様に話しかけてきたお兄さんを見上げてコクリと一つ頷く。


「か、かわっ……! ――コホン、いい子だな嬢ちゃん」

「ありがとうございます」

「じゃあ、その兄ちゃんとはぐれないようにクイズ大会を楽しむんだぞ」

「は~い」


 それだけ言うと、お兄さんは踵を返してどこかに歩いて行った。

 ……知らない人にも心配されるとは……もしかして、実年齢よりも大分幼いと思われてる……? まるっきり小さい子に対するような話し方だったけど。

 ……まあいっか。






『――それでは、早速第一問を始めさせていただきます!』


 司会のお姉さんの声で、場がさらに盛り上がる。


『最初の五問は回答をマルかバツかで選んでいただきます。皆様から向かって右側のエリアがマル、左側のエリアがバツとなります』


 地面を見てみると、この広場を分断するように黒い線が引かれていた。


『間違えた方はその場で脱落となりますので、速やかに会場外に捌けてください。しっかりと見てますから不正はダメですよ~』


 おどけたように言うお姉さん。

 それでさらに会場の熱気が上がる。こんな賑やかな場に来たことなかったから、私もどんどん楽しくなってきた。


『それでは第一問、『織物の出荷量第一位はリーリフ地方である。』マルかバツか。さあ皆様! ご自分が正解だと思った方へと移動してください!!』


 司会のお姉さんの合図と同時に、ゾロゾロと人が移動し始める。


「おお、思ったよりもちゃんとした問題が出るんだね」

「ですねぇ。さてシャノンちゃん、どちらに移動しますか?」

「マルで!」

「了解です」


 すると、おじ様はステージに向かって右側のエリアへと足を向けた。


「そういえば、私を抱っこしてるとおじ様は強制的に私と同じ選択肢になっちゃいますよね? 下りますか?」

「こんな人混みでシャノンちゃんを下ろすなんてとんでもない! いいんですよ、僕はシャノンちゃんの足で。だって、僕が参加したらなんだかズルをしているみたいな気分になりません?」

「たしかに……」


 教皇で、とんでもない蔵書数を誇る神聖図書館の主だし、おじ様に知らないことなんてなさそうだ。この問題だって、おじ様からしてみれば今の天気を聞かれるくらい簡単なんだろう。


「それに、どうせ答えはシャノンちゃんと同じになるでしょう?」


 茶目っ気たっぷりにウインクをしてみせるおじ様。


「……私はおじ様ほど知識豊富ではないので、分からないですよ?」

「ふふ大丈夫ですよ、シャノンちゃんなら」


 そう言って私の頭を撫でるおじ様。


「……がんばります」

「はい、がんばってください。お、そろそろ正解発表ですかね」


 参加者の回答が出揃ったようだ。広場を左右に分ける真ん中の線の上だけ、割れたように人がいない。

 もう動く人がいないことを確認すると、司会のお姉さんが拡声器を手にした。


『回答は出揃いましたね~? それでは、正解発表です! 正解は――マル! マルを選んだ方が正解です!!』

「お、当たりですね」

「やった~」


 パチパチと手を叩いて喜ぶ。

 そりゃあ皇妃様ですからね、この国のことはちゃんと勉強してますよ。それに、リーリフ地方はセレスの故郷でもあるので、外すわけにはいかない。


 今の問題で参加者の三分の一くらいの人が脱落したようだ。バツ側を選んでいた人達がゾロゾロと、会場を囲うギャラリー側に捌けていく。


『それでは、第二問――』



 それからの四問も、私は難なく正解していった。

 最後の一問は難しかったけど、問題なくクリアできた。よしよし。

 今のところ残っているのは、私も含めて五人だ。大分減ったね。


『以上で予選の五問は終了となり、残った方々にはこのステージ上で決勝戦を行っていただきます。それでは最終問題を正解した皆様、壇上にお上がりください!』

「それじゃあ行こうかシャノンちゃん」

「はい」


 おじ様が私を抱っこしたままステージに近付いていく。すると、司会のお姉さんが私達に気付いた。


「あ、最後まで残られた方ですね。ええと、ここからは基本的に一人ずつの対戦になるのですが、お二人は別々で出られますか?」

「あ、僕は保護者なので出場は遠慮しておきます。出場するのはこの子だけで」

「そうですか。……ええと、決勝の問題は結構難しいんですけど、大丈夫ですか?」


 お姉さんが心配そうにおじ様の顔を窺い見る。予選の問題はおじ様が解いたと思ったんだろう。そう思うのも無理はないけど。


「心配はいりませんよ。ここまでの問題はきちんとこの子が答えましたから。それとも、もしかして年齢制限がありましたか?」

「いえ、それはありませんが……」

「では大丈夫ですね。いってらっしゃい」

「は~い」


 おじ様が地面に私を下ろしてくれた。


「お願いします」


 司会のお姉さんに向けてペコリと頭を下げる。


「んんっ……! かわいい……!」

「ん? 何か言いましたか?」

「いいえ? 何も」


 すまし顔になったお姉さんが、私を決勝進出者用の席に案内してくれる。

 案内された席の机の上にはボタンが置いてあった。どうやら、このボタンを押せば音が鳴ると同時に付属の札が上がるらしい。

 そして、それぞれの机には一から順に番号が振られていた。私は最後にステージ上に上がったので、五番の机だ。


「ほうほう」


 席に着き、まじまじとボタンを眺める。

 すると、ステージのすぐ前まで戻ってきたギャラリーがにわかにざわつき始めた。


「おい、なんか一人小さい子いるぞ。大丈夫か?」

「あ、あれさっき兄貴に抱っこされてた子じゃん」

「なんかかわいい子だな」

「決勝の問題ってめっちゃむずいけど答えられんのか?」


 ……すごい心配されてるのを感じる。


 私が全く答えられなくて気まずい思いをすると思われてるんだろう。心外だ。


『――それでは、決勝戦を始めさせていただきます。決勝は早押しクイズです。ルールは簡単、ボタンをいち早く押した人が回答権を得ることができます。問題は全十問で、最終問題終了時に一番多く正解していた人の勝ちとなります。お手つきをした人は、他の誰かが一度回答をするまで答えることはできません。――ルールの確認はよろしいでしょうか』

「はーい」


 手を上げて答える。

 すると、司会のお姉さんを含め、みんなが生温かい瞳になった。


『はい、いい子のお返事が聞こえてきたので、早速問題を始めさせていただきます。皆様、準備はよろしいでしょうか』


 お姉さんがこちらを見る。


「はーい」

「大丈夫です」


 それぞれが頷いたり、返事をしたのを確認すると、お姉さんは手元の資料に視線を落とした。


『では第一問、7635492+3329856は――』


 ピコン!


「おお、鳴った」


 おもしろい。連打したいけど、怒られそうだよね。


『はい、それでは五番の方、お答えください!』


 あ、そうだそうだ、答えだよね。


「10965348」

『――せ、正解です!!』

「やったぁ」


 これでも計算は得意なんだよね。

 あれ? なんか会場がシンとしてる。


「いやいや、計算速すぎだろ」

「おい、もしかしてあの子、めっちゃ頭いいんじゃないか?」

「あんなちっちゃくてかわいい上に賢いなんて……」


 なんかザワザワしてるね。ただ、最前列のおじ様とリュカオンのドヤ顔を見るに悪い内容ではないんだろう。


『逆三角形型に配置された三つの点が人の顔のように見える現しょ――』

「シミュラクラ現象」


『国内にあるミスティ教の教会の数は?』

「百九十七堂」


 それからも私は、順調に正解を積み重ねていった。

 正解する度に、最前列を陣取っているおじ様とリュカオンが嬉しそうな顔をしてくれるので、ますますやる気が出る。


 そして、問題は六問目に差し掛かった。

 よし、あと一問とれば過半数だ。


『では、第六問です。デルフィー王国の第三代国王の名前は?』


 ピコンッ!


『はい ! 五番の方……ではなく、三番の方ですね』


 上がった札は、私のものではなかった。


『失礼いたしました。それでは三番の方、お答えをどうぞ!』

「ルーイヒ・デルフィー」

『正解です!』


 押し負けちゃった。

 でもデルフィー王国の第三代国王ってあんまり目立った功績がもないし、歴史の授業でも結構サラッと流されるから、今のは結構な難問だ。

 だけど、あの子押すの早かったな……。

 チラリと三番の席を覗き見る。外套のフードを深く被っているから顔はよく見えないけど、どうやら女の子みたいだ。多分私よりは年上だけど、そこまで歳は離れてはなさそう。


『今のは難問でしたが、さすが前回大会の優勝者ですね!』


 司会のお姉さんが言う。

 あ、そういえば屋台のおじさんが最近すごく強い子が現れたって言ってたな。たぶん、それがあの子だろう。

 今の問題は、私でも思い出すのに少し時間がかかっちゃったし。


 よしっ、次からは気合いを入れて問題を聞くぞ……!

 そう意気込み、私はボタンに手をかけた――






 ――結果、私は十問中七問正解で優勝した。


『おめでとうございます!』

「ありがとうございます」


 司会のお姉さんから、優勝賞品であるカフェ・カリーノのタダ券が手渡される。やった~!


『にしても、五番さんはお強かったですね。もしよろしければ、名前とご年齢を伺っても?』

「えっと、はい……シャル、十四歳です」


 念のため、私は以前も使った偽名を名乗っておいた。

 私が十四と口にした瞬間、会場がざわつき始める。


「俺が十四の頃ってどんなんだったっけなぁ。頭空っぽでその辺を駆けずり回ってた気がする」

「十四で優勝って、史上最年少じゃね?」

「十四!? 嘘だろ!? どう頑張っても十二歳だろ」


 誰だ、どう頑張っても十二歳って言ったの。


『それでは皆様、優勝したシャルさんと、健闘した皆様に大きな拍手をお願いします!!』


 ワアアアアアアアアア!!


 お姉さんのアナウンスで、歓声と共に大きな拍手が沸き起こる。


『会場の皆様、本日はご参加いただきありがとうございました! 次回もお待ちしております!!』







 クイズ大会がお開きになると、会場である広場からは徐々に人が捌けていく。


「シャノンちゃんお疲れ様です」

「シャノン頑張ったな」

「えへへ、二人ともありがとう」


 おじ様のところに戻ると、当たり前のように抱き上げられた。


「じゃあ、カフェに向かいましょうか」

「はい!」


 そして、私を抱っこしたおじ様が歩き出す。


「――しかし、シャノンから三問もとれる者がいるとは思わなかったな」

「たしかに、あれは少し驚きましたね」


 リュカオンの言葉におじ様が同意する。私が落とした三問は、全て前回の優勝者であるあの女の子が答えていたからね。

 ……二人とも、私のことを買いかぶりすぎだと思うけどな……。


「まあ何にせよ、シャノンちゃんの優勝はおめでたいですね!」

「そうだな」


 それから私達は予定通りカフェに行き、おいしいケーキとお茶をお腹いっぱい堪能した。


 そして、カフェからの帰り道、おじ様がボソリと呟く。


「――どこの席も、突如クイズ大会に現れた小さな優勝者の話題で持ちきりでしたね」

「いたたまれない……!」

「ふふ、あれだけ活躍したら話題にもなりますよ」


 おじ様がよしよしと頭を撫でてくれ、リュカオンも鼻先で私の頬をスリスリしてくれた。


「シャノンちゃん、今日は楽しかったですか?」

「はいっ! とっても!!」




 ――こうして、私の初めてのお出かけは無事に幕を閉じたのだった。









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<書籍2巻は2024/12/6発売です!>
お飾りの皇妃書影
ぜひお手に取っていただけると嬉しいです!

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