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【115】お出かけ計画、始動!





 騒動は何も起きておらず、国の機能は安定。

 ジョージが整えてくれたお庭でお茶会なんかもできちゃう。


「これぞ平和!」


 カップ片手に、私はクワッと目を見開いた。その拍子に、私の足元で伏せをしていた銀色の毛玉がビクッと震える。


「どうしたのだ、急に叫んで」

「いや~、平和だな~と思って」

「平和だとシャノンは叫びたくなるのか」

「口に出して実感してるんだよ、リュカオン」


 怪訝そうな顔になったリュカオンの口にクッキーを放り込む。

 むぐむぐと口を動かして黙り込むリュカオン。


「うんうん、平和で姫が元気なのがなによりだよ。俺ももう暫く働きたくないな~」


 私の対面に座り、伸びをするのはここ最近働き詰めだったフィズだ。

 最近は騒動に次ぐ騒動だったから、ずっと忙しかったもんね。寝る間も惜しんでどころか、ほとんど寝てなかったんじゃないかと思う。それでも全く体調を崩した様子がなかったのは、やっぱりフィズのフィジカルの強さがとんでもないからだろう。

 もう一生分くらい働いたと思われるけど、フィズの斜め後ろに控えているアダムは「まだ働いてもらうけどな」って顔でフィズを見ている。


「――あ、そうだ姫、新婚旅行に行かない?」


 新婚旅行ですと?


「唐突だね」

「そう? 俺としてはずっと考えてたんだけどね。姫をずっと王城の敷地内に閉じ込めているのも申し訳ないし、遠出して遊びにいかない?」


 ニコリと笑って小首を傾げるフィズ。


「……私に遠出はまだ早いかな。護衛の騎士さんとかにもいっぱい迷惑かけちゃうだろうし……」

「姫は気にしいだね。でもたしかに、いきなり遠出よりはもう少し近場で外出をして慣らしてからの方がいいかもね。でも、もし気が変わったらいつでも言ってね?」

「うん、ありがとうフィズ」

「いいえ」


 フィズは微笑むと、「あーん」と、私の口元にフィナンシェを差し出してきた。それにパクリとかぶりつく。


「あはは、かわい~」


 餌付けか。






 近場の外出で慣らしてからとフィズは言っていたけど、まあ外に出ることなんてないだろうと思っていた。

 しかし、その機会は思ったよりも早くやってきた。


「――え? おじ様が街に?」

「はい、久々に街に出てみようと思うんですけど、一緒に行ってくれませんか?」


 対面のソファーに腰掛けたおじ様が柔和な微笑みを浮かべて首を傾げる。


「またどうして急に?」

「いえ、最近シャノンちゃんが街で流行のスイーツなどを持ってきてくれるでしょう? 一度現地に行って食べてみたくなりまして」

「へぇ」

「ですが知っての通り、僕は引きこもりなので一人で出かけるのは心許なく……。なので、シャノンちゃんと神獣様がついてきてくれたら安心なのですが、どうでしょうか? 護衛はこちらの方から十分な人数を出しますのでご心配なく」

「ええと……フィズと相談してみますね?」


 とりあえず一旦持ち帰ろう。


「ええ、そうしてください」

「でもおじ様、私も相当な箱入りなので、一緒に行ってもあんまり頼りにはならないかもですよ?」

「もちろん分かっていますよ」


 もちろん分かってるんだ……。自分で言ったことだけど、それはそれでどうなんだろう……?

 微妙な気持ちだ。

 変な顔になっていたであろう私を見て、おじ様がクスクスと笑う。


「せっかく遊びに行くなら頼りになるよりも一緒に行って楽しい人と行った方がいいでしょう?」

「……おじ様、悪い大人ですね」


 下げて上げるテクニックなんか使っちゃって。


「ふふふ。シャノンちゃんとお出かけできるの、楽しみにしていますよ」

「……はい」


 そんな楽しみそうな顔をするのは、反則だと思う。





 おじ様とのお茶会が終わり神聖図書館の玄関から出ようとすると、サッと何者かが私の横に現れた。

 私がそれにビクッとしてバランスを崩すと、リュカオンが動いて受け止めてくれる。

 モフ毛で私を受け止めてくれたリュカオンは、以前もおじ様の後ろにいた人が着ていたのと同じ黒ローブを着た人を見上げた。フードを深く被っているせいで口元しか見えないため、前におじ様の護衛をしていた人と同一人物かどうかは分からない。体格からして男の人だっていうのは分かるんだけど。


「ミスティ教の者か」


 リュカオンは気付いていたのか、全く驚いた様子はなかった。 

 ちなみに、おじ様は使い終わった食器を片付けに行っているため、この場にはいない。


「なんの用だ?」


 リュカオンが問いかけると、黒ローブさんが口を開く。


「教皇猊下は、滅多にご自分の希望を口にされません。それに、ご自分から街に行きたいとおっしゃられたことなど、記録に残っている限りでも数える程です。ですから我々は、猊下のご希望を叶えて差し上げたい」

「ほう」


 そこで、黒ローブさんは私達の前に跪いた。


「なので、神獣様と皇妃様にお願いするのは大変恐縮ですが、どうか猊下と一緒に外出をしていただけないでしょうか。猊下の外出なので、ミスティ教の中でも精鋭を秘密裏に護衛につけますし、もちろんお二方もお守りさせていただきます。なのでどうか、どうか前向きにご検討ください」

「……分かりました」


 おじ様、愛されてるなぁ。

 ミスティ教の中の精鋭って、とってもすごい人達なんじゃないの……?


 黒ローブさんはそれだけ言うと、おじ様が来る前に姿を消した。

 もしかして、これを私達に伝えるためだけに来たのかな? しかも、おじ様には内緒っぽい。

 愛が強火だ……!


 だけど、まあ、おじ様が周りの人達に愛されてるのはいいことだね。うんうん。

 一人で頷いていると、おじ様が私達を見送りに来てくれた。


「あれ? 二人とも、どうしました?」

「いえ、なんでもないですよ。お出かけの件、フィズと相談してまた来ますね」

「はいっ!」


 パァッと笑顔になったおじ様は、ブンブンと手を振って私達を見送ってくれた。

 あんなに元気なおじ様、初めて見た。






 おじ様のところから帰ってきた私達は、その足でフィズのもとへと向かう。


「ん? どうしたの姫? かわいく走っちゃって。転ばないように気をつけてね?」

「は~い」


 私の走りをきちんと走りだと認識できるとは、中々やるね。私が走っても早歩きくらいにしか認識されないから。

 椅子に座っているフィズのすぐ隣に行くと、さらりと頭を撫でられる。


「どうしたの姫? お出かけでもする気になった? な~んて……」

「うん」

「へ?」


 私の返答が予想外だったのか、目を見開くフィズ。


「おじ様がね、私と一緒に街に行きたいって」

「おじ様……ああ、姫の相談役的な人ね……俺とじゃないのか……」


 目に見えてガッカリするフィズ。


「ただまあ、姫の行動範囲が広がるのはいいことだね。お出かけはいつ行く予定なの?」

「フィズの許可が出たら三日後に行こうって言ってた」

「三日後か……絶妙に俺が割り込めない日程を出してきたもんだね。この前の騒動で尽力したから、姫の初めてのお出かけは譲れってことかな……」


 ブツブツと何かを呟くフィズ。


「どうしたの? ダメ? ダメなら行かない」

「ううん、ダメなことなんて何もないよ。姫の初めてのお出かけに付き添えなくて悔しいってだけの話。三日後じゃあ、スケジュールの関係で俺がその前に姫と出かけるのも難しいしね。ただ、姫の『おじ様』にはこの前の騒動でお世話になったから、今回は譲ることにするよ」

「!」


 フィズを見上げると、パチンとウインクをされた。

 フィズは、多分私のお茶飲み友達であるおじ様の正体に薄々勘付いているのだろう。この後に護衛はおじ様が用意してくれるという話をした時も、「そっか、それなら安心だね」と納得していたし。

 過保護なところのあるフィズだ、生半可な護衛がつくと思っていたらそんな言葉は出てこないと思う。


「ただしその代わり、今度俺ともお出かけしようね」

「うんっ」





 フィズとも出かける約束をした私は離宮に戻り、セレス達使用人に今度出かけることを話した。


「し、シャノン様が外出を……!?」


 驚愕の顔をするラナとアリア。以前私と一緒に故郷まで行ったセレスは、二人よりは落ち着いているけど、驚きは隠しきれていない。


「うん、街に行くんだけど、どんな洋服を着ていけばいいかな?」


 自分で選ぶよりは三人に選んでもらった方がいい気がする。


「それはやっぱりシャノン様のかわいらしさを際立たせるかわいらしいワンピースなどが……いえ、待ってください。ラナさん、アリアさん……」


 途中で言葉を止めたセレスが二人を見る。すると、二人も神妙な面持ちでセレスを見返し、コクリと頷いた。


「ええ、たとえボロ布をお召しになっていても最上級にかわいらしい私達のシャノン様です。その魅力を引き立てるのはかえって御身を危険に晒すことに繋がりかねませんね……」

「しかしラナ、シャノン様に冴えない格好をさせるというのは中々心苦しいものがあります。侍女としての沽券にも関わりかねませんし」

「いいえ、アリア、まずはシャノン様の安全を第一に考えるべきでしょう」


 真面目な顔で話し合う侍女達。


「ただ、あまりにも冴えない格好では同行される方にもシャノン様にも恥をかかせることになってしまいます。私達がやるべきは、シャノン様の魅力を隠しつつ、街を歩いていても恥ずかしくない服を選ぶことではないでしょうか」

「セレスさん……そうですね!」


 話はまとまったらしく、アリアが勢いよくこちらを向いた。


「シャノン様、当日までにお忍びにぴったりな服装をお選びしますので、少々お待ちください」

「う、うん。あの、みんな、あんまり気負わなくていいからね……?」


 私の言葉が届いたのか否かは分からないけど、三人は早足で衣装部屋へと向かって行った。

 もしかして結構な無茶ぶりをしちゃったのかなぁと心配になりつつ、私は去って行く三人の背中を見送る。

 そして、そんな私の隣ではリュカオンが何やらボソリと呟いていた。



「……周りの者に愛されるのは、血筋かのう……」











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<書籍2巻は2024/12/6発売です!>
お飾りの皇妃書影
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