【112】過保護者フィルター通過しました!
クラレンスの真意を確かめるため、私達はおじ様を頼ることにした。
「……え~っと、皇妃様? なんですかこれ」
クラレンスが困惑気味の声を上げる。
それもそうだろう、クラレンスは今、目隠しをされた上に後ろ手で拘束されているのだ。何の説明もなくこんなことをされたらさすがのクラレンスでも動揺しないわけがない。
これからクラレンスを連れておじ様のいる神聖図書館に行こうと思ってるのだが、おじ様の姿や移動先の場所を見られるわけにはいかないので仕方なく目隠しをしたのだ。念のための催眠術対策でもある。手の拘束はフィズが勝手にやった。「神獣様がいるから大丈夫だろうけど俺はついていけないから、一応、ね」とのことらしい。
ちなみに、クラレンスを連れて行くことに関してはおじ様は了承済みだ。
「皇妃様はこういうプレイがお好きなんですね」
ちょっと恍惚としているクラレンスが放った言葉に私はコテンと首を傾げる。
ぷれい……とは?
「僕でよければいつでも付き合いま―――」
「おい小僧、それ以上シャノンに余計なことを聞かせたら、どうなるか分かるな?」
「黙ります」
ブオンと風が吹いたかと思えば、いつの間にかリュカオンがクラレンスの首に自分の爪を突きつけていた。目にもとまらぬスピードで移動したんだろう。
「リュカオン急にどうしたの」
「うちのかわいい子の耳を腐らせようとしたから黙らせたまでだ」
「ふ~ん」
クラレンスがなんか余計なことを言おうとしてたのかな。じゃなきゃ温和なリュカオンがこんなことするわけないし。
まあ十割クラレンスが悪いんだと思う。
「リュカオン、そろそろ出発するから怒りを収めてくださいな」
「なに、怒ってなどおらぬ。戯れていただけだ」
スッと前足を下ろして爪をしまうリュカオン。
「ガチ切れだったくせに……」
クラレンスが何やらボソリと呟いていたけど、よく聞こえなかった。リュカオンも素知らぬ顔でそっぽ向いてるから、大したことではないんだろう。
「じゃあ飛ぶぞ」
「は~い」
そして、私達は神聖図書館へと転移した。
「あ、シャノンちゃんいらっしゃい」
「おじ様! ……と、どなたです?」
おじ様を挟むようにフードを被った人が二人立っている。というか、なんならおじ様も白いローブのフードを深めに被って顔を隠している。
「すみません、僕は別にいいって言ったんですけど、護衛をつけるって聞かなくて……」
そう言っておじ様が黒いローブを着た隣の二人を見遣る。すると、片方の人がボソリと口を開いた。
「どうぞ、我々のことは空気だとお思いください」
「あ、はい」
それだけ言うと、黒ローブの人はピタリと口を閉じてしまった。
そりゃあ、教皇様に他国からの間者を会わせようっていうんだから教会側としては黙ってられないか。
ちょこっと確認してもらうつもりが、思ったよりも大事になっちゃったなぁ……。
「おじ様ごめんなさい。迷惑かけて……」
「ん? シャノンちゃんからの頼み事で迷惑なことなんてありませんよ。こんな老いぼれでよければいつでも頼ってくださいね」
全く老いてなんかいない美形がなんか言ってる。
「それで、この軽薄そうな拘束男を視ればいいんですね?」
「わー、おそらくめちゃくちゃ偉い人に貶されてるー」
目隠しをされているクラレンスでも、おじ様が偉い人だというのは察せられたようだ。
私のクラレンスに対する第一印象は爽やか騎士だったけど、おじ様から見た第一印象は軽薄そうな拘束男。クラレンスがどれだけ頑張って猫を被っていたか分かるね。
「それで、どうなのだこの男は」
リュカオンがおじ様に聞く。
「ん? 特に問題ありませんよ。能力はあるようですし、このまま使ったらいいと思います」
いつの間に魔法を使ってたんだろう。全然気付かなかった。
おじ様レベルになると魔法の精度も桁違いなのか……。
尊敬の眼差しでおじ様を見上げる。
「あれ? シャノンちゃんがなにやらキラキラした瞳でこちらを見ていますね。かわいい。何かおねだりですか? いいですよ、すぐに手配しますね」
「まだ何も言ってない……」
「おいあまりシャノンを甘やかすな。あと今の目はおねだりじゃなくて憧れの眼差しに決まっているだろう」
おお、リュカオンの保護者レベルが上がってる。眼差しの種類まで分かるようになっちゃってるよ。
「リュカオン正解」
「クッ……さすがに神獣様には勝てませんか……」
「ふん」
「リュカオンそんなことでドヤらないの」
ミスティ教の信者さんの前ですよ。
黒ローブの二人は訓練されているのか、信仰の対象であるリュカオンが親バカを炸裂させていても微動だにしないけど。
「―――えっと、皆さん僕のこと忘れてません? 目隠しのまま放置されるのも辛いんですが」
「あ、そういえばいましたね」
「ずっといますよー」
拗ねたように唇を尖らせるクラレンス。
「行動がいちいち胡散臭い男だのう」
「まあ胡散臭くはありますけど、このまま雇い入れても問題ないと思いますよ」
半目のリュカオンにおじ様が言った。
「ほう、こやつは本当に信用に値すると?」
「信用するかどうかはこれからの彼の行動を見て判断するのがいいとは思いますが、少なくとも、まだあちらと繋がっているという可能性はありませんね。それに、こう見えて意外と従僕体質なので誰かに仕えたい願望が強めです。これまでは主に恵まれなかったようですが、シャノンちゃんならば申し分ないでしょう。彼もシャノンちゃんのひたむきさに感化されたようですし、シャノンちゃんの下なら従順に働きますよ。皇帝に対してはビビりまくっているので、彼の下につけたら逃げ出してサボりまくるでしょうけど」
「ちょ、ちょちょちょ! なに人の内心を暴露しまくってくれてんの!!!」
耳をほんのりと赤く染めたクラレンスが抗議するけど、拘束されているため手は出せない。
「はっはっは、いい気味だな小僧。普段スカしているからこういう時に恥ずかしくなるのだ」
リュカオンが悪い顔してる……。
今回の騒動では私達も振り回されたし、ちょっとイラッとしてたりしたのかな。
「そう意地悪をするものではないですよ神獣様。彼は多少捻くれていますが、シャノンちゃんがあまりにもかわいいすぎて本当は妖精なのではないかと半ば本気で思っている純粋な青年でもあるんですから」
「マジで止めてくださいよ……」
ますます耳を赤くするクラレンス。
クラレンス、いい子……!!
「しょうがない、クラレンスはうちで雇ってあげよう」
むふんと胸を張る。
「なんて分かりやすい。うちの子はチョロすぎるな……」
リュカオン聞こえてるよ。
そして、おじ様がニコニコ顔でクラレンスに話しかけた。
「よかったですねぇ、恥を晒したおかげでシャノンちゃんが雇ってくれる気になったようですよ?」
「恥を晒されたの間違いじゃないですかね」
「細かいことは気にしないのが長生きするコツですよ。あ、大丈夫だとは思いますが、万が一の時のためにちょっと魔法を仕掛けさせてもらいました。もし君がシャノンちゃんに危害を加えようとしたらその瞬間に僕が君を殺しに行きますので、変な気は起こさない方が身のためですよ」
「……心配性の上に過保護ですね。そんなことする気はないって分かってるくせに」
「ふふふ、ですから、念のためですよ」
今、おじ様が笑顔で物騒なことを言ってた気がするけど気のせいかな……?
聞き間違いかと思ったけど、そう思うにはハッキリ聞こえすぎた。……記憶から消しとこ……。
遠い目をしていると、おじ様がしゃがんで私と目を合わせた。
「シャノンちゃん、これで安心できました?」
「しすぎなくらい安心できました」
さすがおじ様だ。
今日はクラレンスもいるので長居するわけにもいかず、おじ様にお礼を言って私達は王城に戻った。そして、クラレンスの目隠しと拘束を解いてあげた後、フィズの執務室へと向かう。
「―――あ、お帰り姫。どうだった?」
腰を折って出迎えてくれるフィズ。
「大丈夫だって。あと、クラレンスが何かしようとしたらすぐにおじ様が駆けつけてくれるって」
「そう、それなら安心だね。あ、そこの君、もしこの純粋な姫を裏切るようなことがあれば俺も冷静ではいられないからね?」
ニッコリと微笑むフィズ。
「……僕は今日、何回脅されればいいんでしょうねぇ」
「シャノンは方々から愛されておるからな」
どこか遠くを見るクラレンスに、リュカオンが当たり前だろうと言わんばかりの顔で声をかけていた。
そして、離宮に戻る私達。
「ただいま~」
玄関をくぐると、ちょうどそこにいたセレスが出迎えてくれた。
「おかえりなさいシャノン様。あら? そちらの騎士様はいがかされましたか?」
セレスの意識はもちろん、見慣れぬ同行者へと向く。
「これクラレンス。元スパイだけどこちらに寝返って今日からうちで働くことになった」
「はい????」
未だかつてない程の疑問符を頭上に浮かべるセレス。
「情報量が多すぎて状況が飲み込めないのですが、そのような方をシャノン様のお側に置いても大丈夫なのですか?」
「信頼できる人にお墨付きをもらったから大丈夫。あとフィズもいいって」
「まあ、それならば大丈夫ですね。シャノン様の周りの方々は強火過保護者様ばかりですから、神獣様も含め、皆様が是とするならば私に異議はございません」
強火過保護者……フィズもリュカオンもそう思われてたのか。あと、明確に言ったことはないけど、なんとなく存在を察しているであろうおじ様のこともそう思ってるんだろう。
…………割とセレスも大概だと思うけどなぁ……。
大人なシャノンちゃんは頭に浮かんだ考えを口には出さず、そのままクラレンスを部屋に案内した。





