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【109】招待のお手紙をいただきました!







 リュカオンとセレスと戯れること丸一日。


「ただいま、戻りました……」

「!」


 何食わぬ顔でノクスが帰ってきた。


「ノクス! お帰り!!」


 てててっとノクスのもとに駆け寄る。


「ノクス大丈夫? 特に変わりはなかった?」

「はい、特に変わりはないです……。でも、どうして今日に限ってそんなこと……いつもは聞かないのに……。もしかしてシャノン様、街に行ってみたいんですか……?」


 え、別にそういうわけじゃないけど。

 どうやら、ノクスは私の言動を街に行きたいからだと解釈したらしい。全然違うけどね。だからセレスもハッとした顔しなくていいんだよ。


「シャノン様、もしかして今までずっとお出かけしたかったのですか……? でも、お立場的に難しいと思い我慢を……」

「いや、別にそういうわけじゃ……」

「シャノン様ってばなんていい子なんでしょう……! 私、感激しました……!」


 セレスにムギュッと抱きしめられる。

 ……まあ、そう思われてても別に損はないか……。

 誤解を解くことは諦め、私はセレスの温もりを享受することにした。


 平和だなぁ。


 今日は何も起こらなかったし、このまま平穏な日々が続くといいな……。


 セレスの腕の中でフラグにしかならないことをのほほんと考えていると、鳴き声とともに毛玉が部屋に飛び込んできた。


「キュッ! キュキュッ!!」


 シュタッと着地をした狐は、眦をつり上げた顔をこちらに向けた後、ノクスを見上げる。


「キュ~ン……」


 耳をペタンと折り甘えた声を出す姿は、到底一瞬前と同一狐とは思えない。

 大方、どうして自分のところに一番に顔を出してくれなかったんだと訴えているのだろう。そして、その原因はほぼ間違いなく私のせいだと思っているに違いない。まあ、その通りではあるんだけどね。

 私が心配してたから、ノクスは真っ先に私のところに顔を出してくれたんだろうし。

 にしても嫉妬深い狐だ。いつからこんな子になっちゃったのかしら。

 あまりの対応の差にシャノンちゃんむかぷんだし、そろそろお灸を据えてやらないとだね……!


「狐!」

「キュ?」


 なんだ? とこちらを見上げる狐の脇に手を差し込んで持ち上げ―――


「……」


 ―――下ろした。


「おもたい……」

「キュッ!?」


 狐ギョッとして耳をピンと立てる。

 そして、クワッと目を見開く、私に猛抗議をしてきた。


「キュッ! キュキュ!! キュウ~!!!」


 一生懸命鳴く狐は、自分が重いんじゃなくて私が非力なだけだと訴えたいんだろう。


「キュッ!」

「うわっ」


 一頻り鳴き終えた狐が、私の胸元めがけてジャンプをする。その衝撃で後ろに倒れたけど、例によってリュカオンが受け止めてくれた。

 伏せをしたリュカオンの胴体に私が仰向けになる形で体重を預け、さらに私のおなかの上に狐が乗っている。

 ほら抱っこできただろ、とでも言いたげにフンと鼻で息を吐く狐。シャノンちゃん、これは抱っことは言えないと思うけどね。

 どうやら私の重いという発言が腹に据えかねた毛玉ちゃんは、仰向けになっている私の上で、私の首を囲うようにそのまま丸まった。

 う~ん、重たい……でもモフモフだ。ふわふわしてて柔らかくてあったかい。


「シャノン様……」


 ノクスが私を心配した様子で狐に手を伸ばしたけど、それを制す。


「ノクス、もうちょっとだけモフモフを堪能したいから少しだけ待って」

「……はい……」


 そう言うと、ノクスは手を引っ込めた。

 後ろにはリュカオン、前には狐でモフモフサンドだ。幸せ……。


 毛玉達による温もりを堪能してた私だけど、すぐに狐の重さに耐えかねてノクスに助けを求める羽目になった。







 ◇◆◇





 それから数日間は、何事もなく経過した。


「シャノン様、シャノン様に王城の騎士団の方からお手紙が届いてますよ」

「ありがとうセレス。なんのお手紙だろう?」


 騎士団から私に直接手紙が来るのは何気に初めてのことかもしれない。

 首を傾げつつも、私は手紙を開けていく。


「……これは、訓練へのご招待……かな?」

「何の手紙だったんだ?」


 リュカオンが私の肩に顎を乗せ、手紙を覗き込む。


「明日、騎士団のほぼ全員が集まる大規模な訓練があるから、是非私にも見に来てほしいってお手紙だったよ。皇妃様が来ると騎士達の士気が上がるからだって」

「明日か。随分急だのう」

「まあ、私公務とかないから出かけないし、常に暇だからね」


 前日のお誘いでも何ら問題ない。むしろ誘ってくれてありがたいくらいだ。

 

「もし無理そうだったら大丈夫って書いてあるし、向こうも私を誘うことは急に決まったのかもね」

「ふむ……」


 私、お恥ずかしながら皇妃としてそこまでみんなの前に顔は出してないから、もしかしたら直前まで忘れられてたのかもしれないし。

 もしそうだったら私も向こうも気まずいから、できたらその辺は突っ込まないでおきたい。


「よし、そうと決まったら明日の洋服を決めようか! ちょっとおめかしして行った方がいいよね」

「そうだな」


 訓練を見に行くんだし、やっぱりちょっとかっこいい感じの格好をした方がいいよね。


 リュカオンと一緒にクローゼットを漁る。


「シャノン、これなんてどうだ?」


 リュカオンが鼻先で指したのは、どこか制服っぽい雰囲気のあるデザインの、水色のドレスだった。ドレスと同じ色の短めのケープがセットでついており、そのケープには飾緒がついているのがとってもかっこいい。


「さすがリュカオン! これにしよう!」

「うむ」


 どこか嬉しそうに返事をするリュカオン。選んだドレスが採用されたのが嬉しかったんだろう。






 翌日、私はリュカオンが選んでくれたドレスを身に纏って玄関の前に立っていた。


「じゃあセレス、行ってくるね」

「はいシャノン様、お気をつけてください。訓練で剣が飛んでくるかもしれませんし、勢いで小石などが飛んでくるかもしれませんから、十分距離をとってくださいね。あと砂埃も心配です砂が目に入ってこの綺麗な紫色の瞳を傷付けたらと思うと―――」


 セレス、過保護だ。


「―――ハッ! 私としたことが、そろそろ出ないといけない時間ですね。申し訳ありません」

「ううん、セレスが心配してくれるのは嬉しいから」

「し、シャノン様……!」


 手を組んで瞳をうるうるさせるセレス。なにやら感動しているようだ。


「じゃあ行ってくるね~」


 セレスに手を振り離宮を出発する。


 リュカオンに乗れば、すぐに王城に到着した。

 今日は長丁場になるかもしれないから、今のうちになるべく体力を温存しておくのだ。



 王城の廊下を歩いていると、前方からのっしのっしと大柄な人達が歩いて来た。みんな騎士服を纏っているので、今日の訓練に参加する予定の騎士だろう。


「お! オーウェン! 久しぶりだな!」


 前方から歩いてきた三人の騎士のうち、先頭を歩いていた人が片手を上げてオーウェンに声をかけた。知り合いかな?

 前に王城の騎士とうちの騎士で手合わせをした時に知り合ったのかもしれない。


「ああ、お久しぶりです」


 とてもフレンドリーな相手の対応とは対照的に、オーウェンの反応はクールだった。そんなオーウェンの肩を先頭の騎士さんがバンバンと叩く。


「なんだその反応、水くさいな! そうだオーウェン、うちの団長に挨拶してけよ!!」

「いえ、それは後ほど……」

「こういうのは早い方がいいだろ! なぁお前ら」

「ああ」

「だな」


 先頭の騎士の言葉に賛同する他二人。それにコクリと頷くと、先頭の騎士さんはグイグイとオーウェンを引っ張り始めた。


「ほら、行くぞ!」

「いや、俺は護衛中なので……」


 自分よりも年上の相手だからか強く出られず、やんわりと抵抗をするオーウェン。


「―――あれ? 先輩何してるんですか?」

 

 そこで、柔らかな声が場に割って入ってきた。その声と共に現れたのは、爽やか系騎士のクラレンスだ。


「おうクラレンス、いや、アーロン団長のところにオーウェンを連れていってやろうと思ってな」

「そうですか。ではオーウェンさん、オーウェンさんがいない間は僕が皇妃様の護衛をしますよ。こうなった先輩は聞かないですから、すぐに行ってくることをお勧めします」


 クラレンスの言葉を聞いたオーウェンが、チラリとこちらを見る。


「オーウェン行ってきていいよ」


 背中を押すようにオーウェンの腰をポンと叩く。


「……すぐに戻ります」


 オーウェンは一瞬悩んだ後、騎士さん達について行った。



 四人が去り、私とリュカオン、そして代わりを申し出てくれたクラレンスが残される。


「……我らは見事なまでにスルーだったな」

「ね」


 ポツリとこぼしたリュカオンの呟きに同意する。彼らは、まるで私達が見えていないかのような振る舞いだった。私はともかく、リュカオンは結構存在感があると思うんだけどね。


 服装どころか存在にも触れられなかった……シャノンちゃんびっくりだ。それだけオーウェンと久々に会えたことに舞い上がってたんだろうけど。


「先輩は悪い人ではないんですが、少々脳筋の気があるので、周りが見えなくなってたんだと思います。後で団長に言って注意してもらいますね」

「え、そこまではしなくていいよ」


 なんとなく大事になりそうだし。別に、知り合いでもない騎士に挨拶をされないくらいで目くじらを立てる私でもない。


「左様ですか」

「うん」


 コクリと頷いて答える。




 それから、クラレンスを引き連れて王城の廊下を歩いたけど、今日はなんだか周りの視線が気になった。


「……なんでこんなに見られてるんだろう」

「おめかしされた皇妃様があまりにもかわいらしいからつい見てしまうんですよ。それに、普段はあまり城にはいない騎士も集まってますから」

「まあ、初見でこんな愛らしい生物がてこてこ歩いていたら、つい視線を向けてしまうのも無理はないだろう。特に今日のシャノンは一層かわいらしいし、騎士ならば守りたくなるのも自然な感情だな。我もこのかわいいのが慣れないヒールで転びやしないか先程からずっとヒヤヒヤしておる」


 リュカオン、親バカ全開だぁ。

 クラレンスもびっくりしちゃってるよ。

 リュカオンが選んだドレスだし、嬉しかったんだろうなぁ。なんだかんだ、今朝一番褒めてくれたのはリュカオンだったし。


 にしてもなるほど、私は物珍しいのか。

 王城内をうろちょろすることはあるから王城に常駐している人は私の姿を見ることもあるけど、そうじゃない人はそりゃあ珍しいよね。私が公の場に顔を出したのは和平記念式典が最後だし。


「それにしても、神獣様がおっしゃる通り今日のお召し物は本当にお似合いですね」

「えへへ、ありがとう」


 褒められちゃった。嬉しい。

 出かける前に離宮のみんなから散々褒められたけど、身内以外から褒められるのもいいものだ。もしかしたら褒めて褒めてオーラが出てたのかもしれないけど、そこは結果オーライだ。


 でも、あちこちからチラチラ見られるからちょっと落ち着かないな。こんなあからさまに注目を浴びることなんてないから、ちょっとそわそわしちゃう。

 そんな私の様子に気付いたのだろう、クラレンスがある提案をする。


「まだ訓練の開始まで時間がありますし、今日は人が多くて落ち着かないでしょうから場所を移動しましょうか。騎士団の第二室内訓練場なら、今の時間は使わないので誰もいないはずです。少しは落ち着けると思いますが……」

「じゃあそこに移動しよっか」

「はい」


 クラレンスと話したいこともあるから、ちょうどいい機会だ。



 リュカオンがしっかりとついてきていることを確認し、私はクラレンスの後に続いて第二訓練場に移動した。












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