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【103】これ? ダウジングだよ




 自宅で療養している人も大勢いるので、あのサシェ一つでは足りない。なので、おじ様のところにあったドライミントで、作れるだけサシェを作った。

 そしてそれをフィズに渡し、体調不良の人達に使ってもらったところ、最初に作ったものに比べると効果は薄かったようだ。全く効かないわけではないけれど、若干体調がよくなったかな……? という程度だそう。

 だけど、そんな人達にも最初に持って行ったサシェを使えば体調は回復した。それはもう、あっけなく。


「おじ様、これはどういうことでしょう……?」


 追加のサシェを使用してみた結果の報告を携え、私は再び神聖図書館にやってきていた。私がわざわざ報告に来なくても、おじ様はもうとっくに知っているかもしれないけどね。

 何回も迷惑じゃないかなぁと心配になるけど、当の本人は「シャノンちゃんがいっぱい来てくれて嬉しいなぁ」とほのぼの笑っている。

 私の前にあるテーブルにお茶を置くと、おじ様は私の目の前のソファーに腰かけた。すると、それまでとは打って変わって真剣な雰囲気になる。


「ふむ、追加のサシェは効かなかったんですね?」

「はい」

「それで、アダム君に持って行ったものを使用したら著効したと」

「そうです」

「なるほど……。もしかしたら、最初の一つとは条件が同じではなかったから効果がなかったのかもしれませんね」

「条件が同じ……? ―――あ!」


 おじ様の言葉に、思い当たることは一つだった。

 おじ様を見上げた私に、おじ様は微笑んで一つ頷く。


「それじゃあ、初めと全く条件を同じにして試してみましょうか」









 おじ様と急遽作り直したサシェは、初めに作ったものと同じように効果を発揮した。


「すごいよ姫!」


 フィズが私を高い高いして褒めてくれる。

 ほとんどおじ様の手柄なんだけど……。そう伝えても、フィズは「姫のお手柄でもあるよ」と私を褒めてくれる。


「―――にしても、こんなものが効くとはな……」


 呟くリュカオンの視線の先にあるのは、ヒイラギ付きのミントのサシェだ。

 リュカオンが前脚でその袋をつつく。


 追加で持って行ったサシェに、ヒイラギの葉は付けていなかった。あれは袋だけでは簡素だからと思って私が勝手につけたものだから、いらないだろうと思って付けなかったのだ。

 だけど、結果的には私がなんとなくヒイラギを付けたことがよかったらしい。本当に偶然だ。

 ヒイラギだけでも効果がなかったことから、ミントとヒイラギを組み合わせることが効果を示す条件だということが分かった。


「姫の思いやりの心のおかげだよ。姫がヒイラギを添えなかったら、解決策を見つけるまでにもっと時間がかかったはずだし。やっぱり姫はもってるね」

「本当に、シャノン様の勘の良さは陛下に匹敵するかもしれないですね」


 フィズの言葉に、紅茶とお茶請けを持ってきたアダムが同意する。

 体調が回復したアダムは、一瞬で復帰した。何の後遺症などもなく、バシバシ働いている。


「シャノン様のおかげでお茶をする時間も余裕もできましたよ。本当に幸せを運ぶ妖精さんですね」


 そう言ってアダムがテーブルにカップやお茶請けの載ったトレーを置く。

 原因不明の体調不良で休んでいた人達は、サシェによって何事もなかったかのように、あっさりと回復を遂げた。寝込んでいたことで若干筋力や体力が落ちた人はいるけど、それも普通の風邪で休んでいた時と同じくらいなので、すぐに職場に復帰することができたのだ。

 各部署に人が戻ってきたことで、ここ最近の目の回るような忙しさも改善されつつある。経理部の人達も全員戻ってきたので、私のお手伝いも終了となった。最後の日に、「皇妃様ありがとうございましたあああ!!!!」と熱烈にお礼を言われたことを思い出す。


 まあ、平穏な日々が戻ってきたのはいいことだよね。


 あとは―――


「―――犯人捜しだけ、だね」


 私を床に下ろしたフィズが言う。


 そう、今回の騒動は、何者かによって起こされたものだ。


 私はおじ様との会話を思い起こす。


「―――え!?」


 おじ様から耳打ちされた内容に、私は目を丸くしておじ様の顔を見上げた。


「ふふふ、驚いた子猫みたいでかわいいですね」


 ほのほのと微笑むおじ様。

 おじ様の優しい雰囲気は大好きだけど、今はほのぼのしている場合じゃない。


「おじ様、今のって本当ですか? 今回の騒動の原因が催眠術って……」


 にわかには信じがたいんだけど。というか、そもそも催眠術でそんなことができるのかな……?


「僕も正直半信半疑だったんですけどね。ドライミントのサシェが効いたことからも、催眠術が使われたと考えて間違いないと思います」

「でも、おじ様はどうして分かったんですか?」

「最近催眠術について少し調べていましてね、そこで閃いたんですよ」


 そして、おじ様は一冊の本を取り出した。

 その本の表紙は色あせているし、装丁や紙の質感からも大分古い本だということが窺える。


「書かれたのは大分昔なので、もう市場には出回っていない本です。そもそもの数も少ないでしょうから、これが最後の一冊かもしれませんね」


 そう言いながらおじ様は繊細な手付きで本のページを捲る。


「字が掠れて読めない箇所もあるのですが、かろうじて催眠を解くには植物が有効そうだということが読み取れました。それから、ほら、ここのページを見てください」


 おじ様は、ほぼ消えかけている、植物のイラストを見せてくれた。


「このイラストに似ている植物を調べた結果、ミントに辿り着きました。ミントには気付けの効果もありますし。ただ、ヒイラギと組み合わせる必要があるとは思っていませんでした。お手柄ですね、シャノンちゃん」


 よしよしと私の頭を撫でてくれるおじ様。


「でも、おじ様、催眠術なんて本当にあるんですか?」

「おや、魔法を使うシャノンちゃんがそれを言いますか? 冷静に考えれば、魔法なんて催眠術よりもよっぽどでたらめな力だと思いません?」

「た、たしかに……」


 言われてみればそうかもしれない。


「それに、催眠術について調べている途中で、そういえば、催眠術を扱う一族がいるという話を小耳に挟んだことがあったなぁと思い出したんですよ」

「パッと思い出すことができないのは年だな」

「あなたには言われたくないです」


 おじ様とリュカオンの間に一瞬、火花が散る。


「でも、そんな一族がいるなんて話聞いたことないですよ?」

「国家機密ですからね。そうそう出回る話じゃないですよ」

「……じゃあ、なんでおじ様は知ってるんです?」

「ふふふ、これでも大陸全体に信者のいるミスティ教のトップですからね。いろんな話が耳に入ってくるんですよ」


 意味深に微笑むおじ様。


「おお……」

「各国にはそれぞれ特徴と呼ぶべき強みがあります。ウラノスの聖獣だったり、このアルティミア皇国だと我がミスティ教の本拠地でありお膝元であることが強みですね。巫女と呼ばれる存在がいる国なんかもありますし。催眠術を扱う一族がいるというのもそのうちの一つです。え~っと、その一族は……そう、ヒュプノー王国にいたはずです」

「ヒュプノー王国……」


 たしか、このアルティミア皇国の北に位置する国だったはずだ。


「その一族の人が王城に紛れ込んでるってことです?」

「催眠術を発動する条件は分かりませんが、その可能性は高いかと」

「なんと」


 いわゆる、スパイとか間者と呼ばれるやつか。


「……もしかして、一大事?」

「一大事ですねぇ」

「おじ様、のんきですね」

「もう対抗策は見つかりましたからね。対策が分からないままだったらかなり深刻な事態でしたが、催眠を解除するすべが見つかった今、後は犯人を見つけるだけですし、それは皇帝に任せます」

「なるほど」


 確かに、そう言われてみればそうだ。

 解除方法が分かっているのならば、催眠にかかることはそこまで恐れることではない。


「僕としては平穏に暮らしたいので、間者が早めに見つかることを祈るばかりですが」

「フィズに伝えておきますね」

「よろしくお願いします。あ、シャノンちゃんはくれぐれも危ないことには首を突っ込まないでくださいね。危険なことはあの化け物レベルに強い皇帝に任せるんですよ」


 しっかりと目を合わせ、私に言い聞かせるおじ様。


「うん、大丈夫です。私は自分の非力さをよく分かってるので、進んで首を突っ込んだりはしないです」

「そうしてください。でも、シャノンちゃんに何かあったら駆け付けますから、すぐに知らせてくださいね」

「は、はい……」


 おじ様が来たら大変な騒ぎになりそうだな……。なんてったって調べることもタブー視されている、謎に包まれた幻の教皇様なんだもん。


「おじ様が駆け付けることにはならないように頑張ります」

「いえ、むしろシャノンちゃんは何も頑張らないでください。安全な場所で守られることがシャノンちゃんのお仕事ですよ」

「はい……」


 おじ様は真顔だった。





 そして、大人しく伝書鳩役に徹したシャノンちゃんは、おじ様からの伝言をフィズに伝えた。


「言われなくても姫を危険に晒すようなことはしないけどね。しかし……催眠術師なんてどうやって見つけたものかねぇ……」


 私の頬をモチモチと揉みながらフィズが思案する。

 というか、なんでほっぺを触るんだろう……。考え事がはかどりますかね?


「―――あ、そんなフィズにいい道具があるよ」

「ん? なにかな?」


 私は上着のポケットをゴソゴソと漁り、あるものを取り出す。おじ様から借り受けたものだ。

 私が取り出したものは、への字型に曲がった二本の金属の棒―――ダウジングという道具だ。


「……姫、これなに?」

「だうじんぐ」

「もしかして、これで犯人を見つけようってこと?」

「うん」


 コクリと頷くと、なぜかフィズは慈愛の笑みを浮かべて私を見下ろした。


「姫はかわいいね。本当にかわいい。こんなにかわいい子がこの世に存在するなんて奇跡だ」


 私の頭を撫で、頬を揉みくちゃにするフィズ。


 ……ダウジング、いいと思ったんだけどな……。


 催眠術師を見つけるには、同じくスピリチュアル系のダウジングをぶつけるのがよいと思ったのだ。だけど、フィズには響かなかったらしい。

 むぅ。


 幼子が突拍子もないことを言い出した時のように私を揉みくちゃにするフィズと、されるがままになる私。

 そして、リュカオンはそんな私を「それ見たことか」と言いたげな目で眺めていた。


 ……そういえば、私が棚に置いてあったダウジングを借りる時、おじ様も今のフィズと同じような顔をしてたな……。

 もしかして、ダウジングって人を探す道具ではない……?


 気付いてたならその場で言ってくれればよかったのに。


 私は頬を膨らませながら、頭の中のおじ様に抗議をした。









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コミカライズページ
書籍3巻8月6日発売!
<書籍3巻は2025/8/6発売です!>
お飾りの皇妃書影
ぜひお手に取っていただけると嬉しいです!

― 新着の感想 ―
[一言] でもきっと、そんなダウジングロッドで犯人に見当付けちゃうのがシャノンちゃんクオリティw
[一言] 頭の中のおじ様も「そんなつもりじゃなかったんだ」と慌ててそう
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