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【101】旦那様のヘルプに入りま~す!





「ふむぅ」


 王城から帰って来た後、部屋のベッドで腕を組んで唸っていると、リュカオンがベッドに上がって私の隣に寝そべった。


「どうしたシャノン」

「最近の王城の人手不足はどうしたもんかと思って」

「確かに、異様だのう」

「人から人に伝播する系の病とかなのかな?」

「いいや、それはないな」


 リュカオンが断言した。

 なんでだろ。


「もしそれならばシャノンにうつっていないわけがないだろう。自分の体質を考えろ」

「ああ、確かに」

「でなければ我がシャノンを王城に通わせるわけがないしな」


 そんなことも分からないのかと言いたげな目を私に向けるリュカオン。 

 リュカオンが過保護なのはよく分かってるけどね。


「王城に通ってお仕事を手伝うのはいいんだけど、このままじゃイタチごっこというか、ジリ貧状態が続くだけだと思うんだよね」

「そうだな」


 リュカオンとそんな話をしていた時、部屋の扉がノックされた。


「どうぞ~」

「失礼します。シャノン様、アダム様がいらっしゃっています」


 部屋に入ってきたのはセレスだった。どうやらアダムが来たことを伝えに来てくれたらしい。


「アダムが一人で? 珍しいね」

「シャノン様の忘れ物を届けに来てくださったみたいですよ」

「え? なんだろう。今行くね」


 せっかく届けに来てくれたんだから直接受け取った方がいいよね。

 セレスとリュカオンを伴い、私はアダムが待つという玄関ホールに向かった。


 すると、玄関ホールではアダムが狐を抱いたノクスに話し掛けていた。


「本当に狐君に懐かれてるんだ。確かに君、ちょっと変わった雰囲気だもんね。常人とは明らかに違う空気感だし、そこが狐君に好かれたのかな」

「……さあ……?」


 アダムの言葉に首を傾げるノクス。

 ……なんだか異色のコンビだ。

 そこで、アダムが私に気付いた。


「あ、シャノン様こんにちは~。ケープを脱いで陛下の執務室に置いたまま忘れてましたよ」

「あ、すっかり忘れてた。ありがとう。でも、わざわざアダムが持って来なくてもよかったんじゃないの?」

「ふふふ、ずっと書類仕事ばかりしていると気が滅入ってしまいますからね。シャノン様に忘れ物を届けるという口実で抜け出してきちゃいました」


 いい気分転換です、と笑うアダム。


「ただ、長居をすると心の狭い男に嫉妬されてしまうので、俺は早々に失礼しますね」

「もう帰っちゃうの」

「ええ、俺ってば結構頼りにされちゃってるんですよ。我ながら出世したもんです。ではこれで」


 私にケープを手渡すと、アダムはさっさと帰って行った。

 お茶くらい飲んでいけばいいのにと思うけど、今は忙しいからそんな時間もないんだろう。


「シャノン様」

「ん? どうしたのノクス?」

「明日……少し出かけてきても、いいですか……?」

「もちろんいいよ! お休みの日は好きに出かけて! 今度からは報告もしなくて大丈夫だよ」


 そういえば、明日はノクスのお休みの日だったね。


「では、明日は出かけてきます……」

「キュゥ?」


 ノクスの言葉に、狐が不満そうに顔を上げる。


「狐、明日は我慢だよ。ノクスだってお休みは必要なんだから」

「キュ~」

「明日は私が構ってあげるから」

「……」


 なんだその不満そうな顔は。

 え~? お前かぁ、みたいな顔してるよこの毛玉ちゃん。

 ちょっとムッとしたので、ウリウリと頬をこねてやった。




 翌朝。


「じゃあ今日はなるべく早く帰ってくるから、いい子にしてるんだよ」


 狐を撫で、そう言い聞かせる。

 よく考えたら、狐は知らない人のたくさんいる王城には行けなかったのだ。だから、王城のお手伝いに行くためには狐を置いて行かないといけない。


「寂しくなったらルークのところに行くんだよ」


 よしよしと狐を撫でくり回す。

 離宮の面々には当初ほど人見知りをしなくなったので、そこまで困ることもないはずだ。


「……すみません狐様」

「キュ~」


 ノクスが謝ると、狐が寂しそうな鳴き声を上げた。


「俺も、なるべく早く帰ってきます……」


 ノクスも狐を撫でる。

 おい狐、私が撫でた時と反応が違くない? ノクスが撫でた方が露骨に嬉しそうなんだけど。


 狐をルークに預け、私達は離宮を出た。


「あれ? ノクスもこっちなの?」

「はい。王城の宿舎の部屋に、荷物を忘れてきてしまったので、取りに行きます」

「そうなのね。じゃあ一緒にいこ」

「はい」


 そして、私達はノクスと一緒に王城に向かった。

 王城に着くと、早速ノクスは一人の男性に話し掛けられていた。


「おー! ノクス! 元気でやってるか?」

「え? ノクス? 久しぶりだな~」

「皇妃様に迷惑をおかけしてないか?」


 おお、ノクスの周りに続々と人が集まっていく。人気者だぁ。

 そういえば、ノクスはフィズの耳にも入るくらいの有名人だったね。口数が少ないから勘違いしてたけど、意外と交流関係は広いのかな。


 ノクスがどんどんと人に囲まれていく様子を、私とリュカオン、そして護衛でついて来ているオーウェンは遠巻きに見詰める。

 そこで、私はふと思った。


「……私、あんなに話し掛けられたことない……」


 ポツリと呟きが漏れる。


「もしかして私、そんなに慕われてない……?」

「「!?」」


 私の言葉に、リュカオンとオーウェンがギョッとした顔でこちらを見てきた。


「私も、みんなとあんな風に打ち解けたい……」


 なんだか急に寂しい気持ちになり、べそをかいてリュカオンに抱き着く。

 そんな私に狼狽えたのはオーウェンだ。


「と、とりあえず陛下のところに急ぎましょう」

「うむ、そうだな」


 リュカオンは私を背中に乗せると、フィズの執務室に走った。




「――あれ? どうしたの姫」


 私の顔を見た瞬間、フィズはリュカオンの背中から私を取り上げた。

 そして私を抱っこすると、よしよしと背中を撫でてくれる。


「よ~しよ~し、何があったの? 姫を泣かせる奴は俺が排除してあげようね~」

「排除はしなくていい」

「姫が言うなら排除しないよ。よ~しよし、べそかいてかわいいね~」

「デレデレだな皇帝」


 私を子ども抱きにしてあやすフィズを、リュカオンが半眼で見上げている。

 ……フィズあったかい……。

 安定感を求めて目の前の首に手を回したら、フィズの体温が伝わってきた。その温もりが心地よくて、思わずフィズの首筋に頬を擦り付ける。


「ど、どうしたの姫? そんなかわいいことして」

「皇帝で暖を取り始めたようだな。一瞬前まで落ち込んでたのに器用な奴だ」

「え、なにそれ小動物かよ。俺がいくらでもあっためてあげるからね~」


 私の頭頂部に頬ずりをするフィズ。


「んで? このかわいい生物を悲しませたのはなんだったの? 誰かに何か言われた?」

「言われたというか、何も言われなかったからだな」

「ん? どゆこと?」


 私を抱っこしたまま首を傾げるフィズ。

 あ、なんか既視感があると思ったら、これノクスに抱っこされる狐と一緒だ。うむ、狐がノクスから離れたがらないのも分かる気がするな。居心地がいいもん。


「うちの新しい使用人がこちらで人に囲まれているところを見て自分は慕われていないのではないかと不安になったようだな」

「ああ、あの彼ね。でも、こんな無防備な生物が慕われてないなんてありえないと思うけど……」


 フィズは、ぐでんと脱力して自分の肩に頭を乗せる私を見下ろしてそう言う。

 

「というか、姫があんまり話し掛けられないのは普通に考えても慕われてないからじゃないでしょ。皇妃様に自分から話しかけるだけでも恐れ多いっていうのに、その皇妃様がこんな神秘的にかわいい存在なんだよ? 易々と声なんかけられないって。姫、自分が王城の使用人達の間で『幸運を運ぶ妖精』とか言われてるの知ってる?」

「え、知らない」


 なんだその呼び方。

 というか、幸運ってなんだか重そうだし、非力な私には運べないよ。


「まあ、そんな呼び方をされるくらいに姫は王城の者達にも好かれてるから大丈夫だよ」

「うん……そっか……」


 とりあえず、嫌われてないならいいや。


「――あ、ところでアダムは? 昨日忘れ物を届けてくれたから、改めてお礼を言いたいんだけど」

「ああ、あいつ今日はまだ来てないんだよ。アダムが遅刻することなんてあんまりないんだけどね……」


 フィズがそう言った時、丁度扉がノックされてアダムが執務室に入ってきた。

 噂をすればというやつだ。

 だけど、やって来たアダムの様子は普段とは明らかに違った。なんだか、とても体調が悪そうだ。


「おい、アダムお前大丈夫?」


 流石のフィズもアダムの心配をする。

 これはのほほんと抱き上げられている場合ではないと思い、私はフィズから下りた。


「な~んか、今朝から体が重たいんですよね。熱はないんですけど、机仕事のしすぎですかね?」


 肩を揉みながら、アダムは自分のデスクへ歩いていく。

 そんなアダムを、フィズが胡乱な目で見詰めていた。


「お前それ、今休んでる者達が訴えてる症状と同じじゃないの?」

「え? でも俺動けてますし、寝込むほどじゃないですよ?」

「体の強さだけが取り柄のお前がそんな風になるだけで異常でしょ」

「陛下にだけは言われたくないですけど、確かにおかしいですね。でも、俺が今抜けたら陛下は困るでしょ?」

「困るけど、倒れられるよりはいい。今日は休め。これは決定事項だよ。休む休まないの問答で時間を無駄にしたくないから、さっさと帰ってくれる?」

「……俺が来るまでシャノン様と戯れてた気がしますけど……」

「お前バカ? 姫と接する時間が無駄なわけないでしょ。ほら、さっさと帰って休みな」

「……じゃあ、お言葉に甘えます。だけど、なにかあったらすぐに呼んでくださいね」


 アダムもこれ以上の問答は無駄だと思ったのか、一礼すると自分の家に帰っていった。本当は結構体調が悪かったのかもしれない。

 心配だ。

 だけど、とりあえずそれよりも優先すべきことがある。


 アダムの後ろ姿を見送った私は、フィズに向き直った。


「フィズ、私は何をお手伝いすればいい?」


 そう問い掛けると、フィズは眉尻を下げて苦笑した。


「まったく、姫には敵わないね」


 フィズの一番の側近であるアダムの抜けた穴は大きいだろう。だから、経理部のみんなには悪いけど、今日はこちらの手伝いをすべきだと判断した。

 遅れは大分取り戻したから、一日くらい私がいなくても問題ないはずだし。



 それに、私は旦那様が大切だからね。









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