ランドセル背負ったラブラブパンパンチラにはおふだは効かない
ラブラブパンパンチラにはおふだは効かない。
ピンクのランドセルをしょって、後ろから俺を追い越していった。
追い越す時にチラリと俺を見た。クスッと笑ったような気がした。今日のパンツははフルーツ柄だ。
いつもチラリとだけ見えるのに、柄がよく分かるのだ。まるで高解像度の静止画像を見たように。
今朝も見たという話をすると、カズオが羨ましそうに言う。
「いいなぁ。俺も見てみてぇ、ラブラブパンパンチラ。どんな顔してた?」
「正直、顔はよく憶えてないんだ。記憶に残らないっていうか……。ランドセルしょってるけど小学生じゃないのは確かだ。何しろ色気がムンムンでさ」
「おまえパンツばっかり見てんじゃね?」
「そうかもな。でも、俺に限らず誰でもあれはパンツに目が行くと思うぞ。とにかくスカートが短いのさ」
「ラブラブパンパンチラって結局、幽霊なの? それとも妖怪?」
「人間だと思う。この世に幽霊とか妖怪とか、いねーから」
「俺も見てーなぁ。ラブラブパンパンチラ」
「よくそんなに何べんも言えるなぁ、ラブラブパンパンチラって。恥ずかしくないか?」
「仕方ねーだろ。ラブラブパンパンチラって、そういう名前なんだから……あっ!」
「なんだよ?」
「来た!」
振り向くと、初めて彼女を正面から見ることになった。
いつも後ろから追い越して行くので、顔がよくわからなかったのが、今日ははっきりと見えた。
やわらかい栗色のショートカットを揺らして、まっすぐ俺のほうを見て、駆けて来る17歳の女の子だった。
ってか……おまえかよ、散美!
散美は俺の前で止まると、フフっと笑った。
「ようやく見てくれたね、あたしのパンツじゃなくて、あたしを!」
散美は俺の幼馴染みだ。最近見かけないと思っていたが……何なんだ、これ?
「どうして最近、よそよそしいの?」
散美のフフっと笑った顔が、急に泣き出しそうになる。
「あたしのこと、きらいになった!?」
それだけ言うと、散美は逃げ出すように、俺の横を駆け抜けて行った。
今日は紫色の紐みたいな勝負パンツだった。
「なんなんだ……」
俺が呟くと、カズオが冷やかすように言う。
「散美ちゃん、おまえのことが好きなんだよ。ちょっとは意識してやれよ」
「っていうか、カズオ」
「ん?」
「おまえ、ラブラブパンパンチラ見たことがないって言ってたよな?」
「うん」
「なんで俺の後ろから来る散美を見て、『ラブラブパンパンチラが来た!』なんて言ったんだ?」
「彼女が幽霊だから」