第六話 頼み事
期末勉強のため遅れました。期末自体終わっていないので、次の投稿も一週間後くらいです。すいません
「ライラス様!ついに奴らが……」
「……仕方無い。全員配置につけ。」
「はっ」
(まあ、やれるだけはやったと思いたい)
眼下で、仲間の黒龍達が一体、また一体と配置についた。耳をすませば、その会話も聞こえてくる。
「いつも通り蹴散らして差し上げましょう。」
「今回勝てば、暫くは大丈夫です。」
(済まないな、皆。こんな不甲斐ないのがリーダーなんて)
会話だけ聞くと、戦いの前で互いに励ましているように聞こえるかもしれない。しかし、声に出さないだけで誰しも分かっていた。
自分達は「全滅」することが。
「来たぞ!」
大きな横穴から、沢山の白龍が入ってくる。体から神々しい光が溢れており、全身純白でまさに『神獣』と言われるのにふさわしかった。
(じゃあ、なんでそんなに目が虚ろなんだろうか?)
5000年前のあの日。人間から『祝福の日』と言われているあの日。
当時、まだ2歳だった俺は詳しくは覚えていないが、聞くところによると、『大災厄の魔女』が『神族』と勇者ラジウスによってガルセイヤ大迷宮に封印されたという。
混沌としていた世界に無力で怯えていた人間は、その日を境に活動範囲を大きく広げた。
(ただ、おかしい点がありすぎる。)
俺は『祝福の日』以前の世界は2年しか生きていないが、両親は2000年程生きている。だから、色々と聞かされていたが、どうも食い違う点が多い。
まず、第一に『賢者』こそいたものの『大災厄の魔女』などいない。両親は『賢者』に会ったことがあるそうだが、それはとてつも無い程凄い魔法使いだったらしい。
『賢者』と『大災厄の魔女』が同一人物では無いのかと思ったが、あんなに優しい心の持ち主が『大災厄の魔女』と呼ばれるなどあり得ないと言い切っていた。
そして、次に世界は別に混沌としていなかったらしい。これについては、2年間だけ生きた俺でも分かる。
人間が栄えるようになったとされているが、生活水準、機械や魔法の技術、その他諸々に関してほとんど変わっていない。
(変わったのは、魔物と俺達だけかぁ)
本当に、大きく変わったのはこの2つだけ。
魔物は、以前なら倒すとそのまま残っていた。しかし、今では魔石とドロップ品しか残らなくない。
そのせいで食料調達が難しくなった。だから、人間達から不評が出ると思いきやそんな声は全く出てこなかった。
俺達、つまり黒龍。黒龍に起こった異変というのは、簡単に言うと「魔物化」したっていうのが正解だと思う。
俺達は『祝福の日』を境に、死ぬと魔石になるようになった。何て言っていいのか分からないから、とりあえず魔物化と言っている。
(どっちかというと……白龍以外が魔物化したって考えるほうが妥当か)
『祝福の日』、異変に気づいた当時の黒龍達は、群同士互いに不干渉という不文律を破って他の龍の群の場所まで行った。
しかしどの場所に行っても、あるのは山と積まれた魔石のみ。最後に向かった青龍の所で黒龍たちが見たのが、青龍を殺戮している白龍。
その後、見た黒龍たちは直ぐに群へ戻って逃げることを決定した。しかし、白龍達はずっと追いかけてきて、5000年経った今でも変わらない。
「ライラス様。貴方様のお陰で、私達はここまで来ることが出来ました。誇りに思うことはあっても、御自分を卑下なさる理由など何処にもありません。」
そう言ってくれたのは、俺の横を飛んでいるユーフレシス。群の中でも一番長く接しており、戦友であり、妻でもある。
「そんな最期の別れみたいなことを言われたら、悲しくなるだろ? 」
こんな冗談を交わすのも最後になるのかと思いながら、彼女を見ると、口は開かず目で「ご指示を」と言っていた。
「総員、攻撃開始!」
この声が響き渡ると同時に、戦いの火蓋が切られた。
戦いが始まって1日位が経ったとき、左翼の一部を損傷して休んでいた俺の所へ、所々に傷を負ったユーフレシスが降り立った。
「……大丈夫か?」
「あら、それは聞かない約束でしょう?」
「……すまん。」
戦いの時に傷を負ったら、それは己の責任。これは俺が作ったルールで、仲間想いの黒龍は、仲間に気にかけすぎて逆に自分の身が危うくなる。
それは分かっていたもやはり仲間のことが気になるから、こうしてルールを作って気に病まないようにさせた。
「……私の虚言に付き合ってくれますか?」
「?」
「人間を……見たんです。それも子供の女の子でした。」
「!?……ここはガルセイヤだぞ、そんなわけが……」
「ええ、だから私の錯覚だと思うんですが、妙に雰囲気というのがリアルだったもので……。すいません、例え人間がいたとしてもこの状況ではどうもなりませんね。私の勘違いだと思います。変な話をしてすいませんでした。」
「……まあ、疲れてるなら休んだ方が良いからな。俺はそろそろ戻る。」
「ご武運を」
ユーフレシスが言葉に引っかかる物があったけれども、戦いの内に忘れてしまった。
その後のことはあまり覚えていない。何体倒したかは分からないぐらいに、ただひたすらに敵の喉を噛み千切っていた。ユーフレシスは一瞬俺がよろめいて、10体ぐらいに囲まれた時に、自分の命と引き換えに俺を助けた。
気がつくと辺りは静寂が支配していて、地面のあれ具合とかを見ていると、まるで神話に出てくるような大戦の跡のように思えた。
「まさか、こちらが生き残るとはなぁ。」
勝つ可能性など微塵も考えてなかったので、心底驚いている。
「……せめて、もう5、6ぐらいいたら良かったが。」
平時なら、俺は例え一人になったとしても白龍から逃げ続ける気概があっただろう。しかし、体力的にも、精神的にも無理だった。何より、今回は今までの襲撃とは違いすぐ近くに第二部隊が待機している。1日もすれば到着するので、逃げることは不可能だ。
「……ごめんな」
視界がだんだんぼんやりとして、意識が朦朧とするのが分かる。全て終わりだと思って、なるがままにしていたら、常時発動させていて切るのを忘れていた探索魔法「サーチ」に動物の反応があった。
『人間を……見たんです。それも子供の女の子でした。』
不意にユーフレシスの言葉が蘇ってきてた。
(まさか……)
目を開けると、本当にいた。目に傷があるのではっきりとは見えないが、たしかに子供の女の子だ。
(託してみるか……)
俺は"あること"をお願いするため、その子供に託すことを決意した。