第四話 暴風
念のために更に一分ほどそのままの状態でいたが、何も起こら無かった。恐る恐る近づいて、転がっている赤い石を観察する。赤いと言っても半透明で、拳ぐらいの大きさがあり、ルビーのようであった。
「魔石.......だな」
魔石とは魔力が内包されている石のことで、魔物を倒すと手には入る。自分の持つ魔力の全てを使い切ってもこの石があれば魔力が回復するため、魔法使いには重宝されていた。
内包している魔力量は石の体積が大きく、かつ純度が高いほど多くなり、黄、青、紫、赤、黒、緑、無色の順に純度は高くなっていく。この大きさかつ赤色のこの魔石は魔力量は120くらい。
(何やら、何までおかしい。)
まずおかしい要素、一つ目。確かに魔物からとれるとは言ったが、それは倒した魔物を解体してとらなければならない。決して、このように魔石だけが都合良く落ちると言うことは無い。
(『自動解体』に似てるんだけどなぁ.......)
見覚えが無いわけでは無かった。これも異界の勇者の話(ただし、さっきのダイナマイトをくれた人とは違う)なのだが、その人は固有魔法に『自動解体』というものを持っており、その魔法を発動すると、今と同じように魔石だけがとることが出来た。
しかし、さっきステータスを見たばっかりだから分かると思うが、私は『自動解体』を使えないし、何より魔力の流れが全く感じられなかった。魔力量自体凄く減った私だが、魔力の操作に関しては全く衰えていない。
(後、魔石が小さすぎる。)
何度も言っているように、ここは大陸屈指の大迷宮、しかもその深層だ。本当なら内包魔力が5000位の魔石がとれてもおかしくない。
「とりあえず、次も倒すか.......」
崩した岩を隔てて、こちらにいる魔物はもう一体。爆破の影響か20メートルほど離れたところで、そちらもまた瀕死の状態で横たわっている。
「岩よ」
予め岩魔法を発動させておき、自分の目の前に岩の壁を作っておく。
(この距離なら槍の方がいいかな。)
壁の後ろから喉を突き刺すとなると、長い槍でないと届かない。なので、マジックバックに手を突っ込もうとしたが、手が入らない。
(魔力切れかぁ.......何年ぶりだろ)
思えばさっきから、魔法を使ってばっかりだったので、魔力が全然足りなかったらしい。昔こそ魔力切れをよく起こしていたが、『魔力消費軽減』のスキルを取得してからはめっきり減った。
(丁度これがあるから大丈夫だけどね)
その通りで、今手元にあるこの魔石のおかげで魔力120くらいは使える。手のひらにのせて、魔力を吸い出すイメージを思い浮かべると、魔石から暖かいものが腕を伝って体に広がる感じがする。全て吸い出すと、そのまま魔石は砂粒に変わり、形が崩れた。
「どちらが先に吸い出すかとか、昔やったなぁ」
懐かしい思い出が、頭に浮かんでくる。同じ量の魔力を内包している魔石を、どちらが先に吸い出すかをよく部下達とやった。ほとんどが私の圧勝だったが、たまに負ける人物が一人居た。その人物とは、私に剣をくれてここに連れてきた、あの部下である。
(とりあえず、槍を.......)
色々してやりたいが、まずは会って笑顔を見せてやりたい。別に奢らせるのも、腹パンするのもいつでも出来る。
突き立てれば何でもいいので、とりあえず適当に槍を一本取り出す。
「.......っしょ」
槍については剣ほど磨いてこなかったが、それでも基本の型ぐらいは知っているので、記憶を頼りに突き立てる。
ズボッという感触と共に、血が噴水のようにあふれてくる。そして、3秒ほどするとやはり先程と同じようにその魔物が光り出す。光が収まるとさっきよりちょっとだけ大きくて赤い魔石だけが落ちていた。同時にレベルアップの音が聞こえる
『レベルが211から319に上がりました。』
考えることより、行動することをモットーしている私は、先に残りの二匹を倒す為に自分で崩した岩をどけていく。岩をどけていた途中でまた声が響いた。
『レベルが319から421に上がりました。』
その声と同時に、サーチに映っていた赤い点が一つ消えた。
(多分、血が出すぎてで死んでしまったのかな?)
まだ様子を確認出来ていないが、恐らくこちらと同じ状態なので、出血多量で死ぬ可能性も充分あり得る。
(とりあえず、残っているであろうもう一匹を倒して、それから魔石の回収をする。分からないことが多すぎるから、大胆には動けないけど地上に行けば何とかな.......)
「岩よ」
思考より先に体が動いた。今使える最大限の岩魔法を発動して、自分の周りを覆うと同時に受け身の体勢をとる。とった後に物凄い悪寒が体中を駆け抜けて、身震いをした。
次の瞬間、「ドン」という凄まじい音と共に、覆っていた岩も粉々に砕け私の体は荒れ狂う風の中に投げ飛ばされる。
「風よ」
暴風の中でもみくちゃにされながらも、魔法を使い、飛んでくる岩や壁にぶつからないように自分の体を操作する。
(この状況じゃ魔石も使えないから、何処かに留まらないと.......)
「『身体強化』」
風を操作して、自分を地面に叩きつける瞬間別の魔法を使う。師匠が私一人を魔龍が千匹もいる場所に落とした時に使って以来、使って無かった魔法だ。体を頑丈にして生半可な攻撃や衝撃では傷がつかなくなる。
「痛っっっっっっい」
頑丈になるだけなので別に痛みが和らぐわけでは無い。暗黒魔法を使えば痛みを軽減することも可能だが、そんなことに魔力を使っている暇があるなら、『身体強化』に使った方がいい。
「全部使っても、やっぱり傷はつくな。」
感覚のがなくなって、変な方向を向いている自分の左腕を見て思う。適当に下に降りたのではなく元から窪みになっており、この暴風を防げそうな所に突っ込んだ。
「さて、元凶を探さないとね。」
少しだけ余裕が出た私は、次に何をすべきか考えるため一度座った。
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