第一話 私は待ちましたよ?
読もうと思って下さりありがとうございます。途中で少し説明が入ります。
『ちょっとだけ待っててね、すぐ戻ってくるから.......』
はっと目が覚めると見慣れた白い空間が広がっていて、殺風景なこの無駄に広い空間には自分の呼吸音しかしない。
「5000年かぁ」
勿論誰も返答しないので、自分の声だけがこだまする。
いつもはこれでため息をついて終わりなのだが、すっと心のなかで何かが消えていくような感覚がして様々な感情が渦巻いてきた。
「いや、やっぱおかしい。確かに私が悪いことをしたのは認めよう。だ・け・れ・ど・も5000年も待たすか?普通」
その渦のような感情をなんとか収めようと言葉を口にしてみたが、逆に更に渦巻くようになった。
「ふーん、へー.......こんなに言っても来ないんだ。私出ちゃうよ?今まで我慢していた分、納豆そば全部奢らせるかもよ?」
自分でも何言っているのか分からなくなってきた。何度も言っているが誰も居ないのに話しかけていて、こだまする声に誰も返答しないのに自分だけふんふんと頷いている。
側から見ればやばい奴と思われるかもしれない、というか自分でもやばい奴という自覚はあるのだが口に出したら止まらなくなっていた。
それから数十分あーだこーだ言っていたが、遂に結論が出た。
「出るか‼」
5000年待った末に私が導き出した答えだった。
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「と言ってもどうやって出るかだよなぁ。」
この部屋は壁、天井、床、全てが全て白色で、縦も横も高さもどれも25m。黒い点を付けたらあっという間に双六のできあがりだ。
今、目の前にでっかい扉がある。勿論どんなに引っ張っても押しても開かない。
「スー.......ハッ」
思いっきり扉に握り拳をぶつける。
「いっっっっっっったぁぁぁぁぁ」
勿論物凄く痛い。馬鹿だと思われるかもしれない、実際大体の人から馬鹿と言われるのだが殴ったのには別に八つ当たりと言うわけではなく、確かめたいことがあっただけ。
「やっぱり駄目かぁ。昔は山一つ吹き飛ばせたのに.......」
本当のことである。昔はと言っているのには訳があって、決して私がサボっていたからというのでは無い。
「{ステータスオープン}」
こう唱えると青白い半透明のプレートが目の前に出て来る。実体は無く、触っても手はすり抜ける。{ステータスオープン}はその名の通り自分のステータスを見ることが出来る。口で説明するより見た方が早いだろう。
名:アリエスタ=ヘイルント
種族:人間
性別:女
Lv.1
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魔力:1
体力:1
耐性(物理):1
耐性(魔法):1
攻撃:1
敏捷:1
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使用可能魔法
風魔法(極)、水魔法(極)、炎魔法(極)
氷魔法(極)、岩魔法(極)、光魔法(極)
闇魔法(極)、暗黒魔法(極)、鑑定魔法(大)
探査魔法(極)、付与魔法(極)、身体強化魔法(大)
最終魔法
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使用可能スキル
魔力消費軽減(極)、体術(中)、槍術(低)
暗殺術(低)剣術(大)、乗馬術(高)、糸操術(中)
弓術(大)、不老不死
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その他
受けている呪い:『純愛の呪い』
状態:健康
見た方が早いとは言ったが、多分私のステータスは世界一参考にならない。それもこれも全て『純愛の呪い』のせいなのだが。
名、種族、性別は良いとしてまず魔力、体力等々。これは最大値が記されていて、リアルタイムの値とは限らない。私の体力は1だからダメージを1以上食らうと死ぬし、魔力も1だから一回の消費魔力が1より大きい物は使えない。
耐性はある分だけ受けるダメージが減る。さっきダメージが1以上だと死ぬと言ったが嘘で、例えばダメージが1.5とかでも耐性によって実際に受けるダメージは0.5になる。物理と魔法と二種類あるが、魔法と魔法以外だと思ってくれれば良くて耐性はそれぞれのダメージに働く。
攻撃は使っている武器の威力を高める。どういう原理かは知らないが、剣でも弓でもとりあえず攻撃のステータスが高ければ高いほどダメージが出る。拳とか頭突きはどうなのかと言われると、これも同様に高ければ高いほど威力が出る。
最後、敏捷。これはあるだけ早くなる。足のみに適用され馬や馬車に乗ってもその速度は変わらない。
「やっぱり全部1に戻ってる。」
人間に害をなす獣、魔物を狩ることでレベルがアップし、ステータスが伸びる。
「5000年前に確認した時は.......レベル6000位だったような。」
これは事実で当時は全てのステータスが6桁だった。何故1なのかというとちょくちょく名前を出している『純愛の呪い』を受けているから。今は魔力1なので鑑定魔法を使って調べることは出来ないが、1になるぎりぎりに確認したときには「一度全てのステータスを1に戻す」との説明であった。
「そういえば何でこんな呪いをかけたのか問いたださないと。」
この呪いをかけたのは私の直属の部下。そもそもここに連れてきて、すぐに迎えにくると言ったのもその人。
「あいつは許さん。何が何でも奢らしてやる。」
堅く心に決めるもこれ以上やることのない私は何か無いかと探す。
「持ち物は.......マジックバックと服だけか。」
マジックバックは見かけより沢山の物が入るバックだ。これは私が愛用している物で縦、横、高さ全て1kmの倉庫位の大きさでいろいろと入っているが、なにぶん魔力が無いので今は役に立たない。
「うーん、なにかあったような.......あ‼」
部屋の隅に転がっている一つの剣。柄も刃も全てが黒色で本当に剣なのか疑いそうである。じゃあ何故剣と言っているのかというと、これをくれたのも例のあの私の部下で、彼は私をここに連れてきて、これを剣と言ってを手渡した。
『何かあればこの剣を使って下さい.......勿論心配要りません。必ず私は戻ってきますので。』
と言ってもう5000年。私もそろそろ限界である。
「戻ってきてないし.......何かあっても流石にこれだけ待たした方が悪いはず。」
自分に言い聞かせてその剣を持ち上げる。触った感じでは石なのか金属なのか分からないが、異様に軽かった。体勢を整え、一番慣れている型で剣を構える。そして一気に振り下ろす。扉とぶつかると「ゴン」と鈍い音がしたかと思うと次の瞬間、すさまじい爆発音と共に辺り一帯に炎と煙が吹き暴れる。
「おお?」
驚いて思わず変な声が漏れてしまったが、依然続く爆発音にかき消された。
何分間か続いた後そこに残っていたのは、木っ端みじんに破壊された扉の残骸と根元から折れた剣を手に佇む少女。
5000年前に伝説の勇者ラジウスによって弱体化させられ、ガルセイヤ大迷宮深層に封印されている『大災厄の魔女』。そしてその封印が解けたとして、世界中を大騒ぎさせるのはまだ先の話。
読んでくださりありがとうございます。次回も少し説明入ります。