2.イルユのお願い
「な、なんだ!? あの4体の星獣は!? ま、まさか……全て星獣の王だとでもいうのか!?」
「わぁ! 神の化身って四つ子だったのね!!」
驚き、戸惑う白き星獣、しろへびさんを横目に、はしゃぐイルユ。
(そ、そんな馬鹿なことが!! 星獣が複数体同じ星卵から生まれることなどあり得ん!! だ……だが確かにあの4体の星獣からは、この我ですら比較にもならぬ程の膨大なオーラを感じる……一体どういう……)
星獣は、星卵と呼ばれる、見た目は巨大な恒星と変わらない卵の中から、数千年の成熟期を経て誕生する。
しかしその際、1つの星卵から生まれてくる星獣は1体のみであり、双子以上で生まれてくることなど、本来であれば起こり得ないことであった。
(ま……間違いなくこいつのせいだ!! 恐らくあの過剰すぎたエネルギー供給の影響で、星獣一体が受け取れる許容量を大幅に超えてしまった! それにより、星卵の中で有り余ったエネルギーが、更に3体の星獣を生み出してしまったんだ!!)
しろへびさんの仮説を分かりやすく言えば、本来はコップ1杯分だけ水を注ぐ筈が、注ぎすぎて溢れ出した水が、更に3杯のコップに注がれた。
その結果、4杯分の十分な水で満たされたコップができてしまった、という訳である。
「さーてと、お願いどうしよっかな〜?」
イルユが叶えて貰うお願いをどうするか考えていた、そのとき──
「「「「グゴギャアアアアアアアアアオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!」」」」
「ぬ、ぬぉお!!!??」
「わっ!! 大きな雄叫びーー!」
4体の星獣が、宇宙全体を揺るがすかのような大きな雄叫びを上げる。
直後、4体の星獣は、目にも止まらぬ速さで四方へと飛び去っていく。
「あっ! ちょっとどこ行くのーー!? お願い聞いてよーー!!」
イルユは、高速で飛び去っていく4体の星獣を追いかけようとする。
しかし突如、背後から白い光線がイルユに迫り、直撃する。
強烈な閃光とともに、直撃した衝撃波が広範囲に広がる。
「……悪く思わぬことだな。これで死ぬとは思わんが、少しでもダメージを与え、我が王の勝率を上げる。それが我の、最後の役目……」
しろへびさんによる奇襲は完璧に成功した、かに思えたが……
「ねーねー、今のなぁに? しろへびさん」
イルユは何事も無かったかのように、しろへびさんの目の前に佇んでいた。
「な……ば、馬鹿な……。無防備な貴様に、我の全力の一撃をぶつけたのだぞ!? 倒せるとは端から思わなかったが、かすり傷すら付かぬだと……」
「ん? 今のが攻撃だったの? 急に口から変な光線ぶつけてきたから、どうしたのかなぁって思ったんだけど」
「っ……!!」
イルユは、しろへびさんによる奇襲攻撃そのものには、とっくに気付いていた。
しかし、イルユからすれば、内輪で軽く仰いだそよ風が吹いてきた、それと同程度の認識でしかなかった。
そよ風をわざわざ必死で避ける人などいない。
それと同様に、イルユはしろへびさんの奇襲攻撃を避けなかった。
攻撃とすら、思わなかったから。
「ふ…………ふふふふふ……。なるほど、ここまでとはな。どうやら、我が愚かだったようだな……」
「んー? どーしたの? ていうか、なんであたしを攻撃したの?」
イルユは、攻撃された自覚が全く無かったせいか、特に怒ることなく純粋な疑問をぶつける。
「イルユよ……貴様に真実を話そう。先程の4体の星獣、あれは願いを叶える神の化身などではない」
「……え?」
「あれこそ我らが星獣の絶対なる王。全ては貴様ら界遊楽団を滅ぼし、星獣による天下を取り戻す存在……そう願い、誕生の手助けのため、貴様を利用したにすぎない。まさか4体に増えるとは思わなかったが。しかし……」
しろへびさんの表情は、最早全てを諦めたもののそれだった。
「これまでの貴様とのやり取り、そして先程の奇襲に対する貴様の反応、これらを通じて確信した。恐らくあの星獣の王達では、貴様ら界遊楽団は疎か、貴様1人にすら敵わぬとな。我の努力は、全て無駄だったということだ。さぁ、殺すが良い」
非情なる現実を悟ったしろへびさんは、死を受け入れることにした。
己の努力が報われなかった悔しさよりも、どうあがいても絶対に覆ることのない、遥か別次元の力を味わったことによる、清々しさのほうが勝っていた。
(これ程の圧倒的な力によって踏み潰されるってんなら、むしろ本望だ。ああ……儚いものだったなぁ、俺の生涯は……)
「…………ずるい」
「な、何?」
「そんなの、ズルいよ!!!!」
ズバァン!!!!
「ぬぐぅおおあああああああああああああああああ!!??」
突如怒り出したイルユは、しろへびさんに強烈な平手打ちを食らわした。
しろへびさんは物凄い勢いで吹っ飛び、いくつもの星を貫通した末、とある岩石惑星にぶつかったことでようやく止まった。
「う……ぐおお……」
「ねぇ、ちゃんと生きてる? しろへびさん」
一瞬でふっ飛ばされたしろへびさんに追い付いたイルユは、若干怒気を孕みながらそう問いかける。
「……な……なにを……ぐおおおおおおおおおおおお!!!!!」
いつの間にか、しろへびさんの尻尾の部分に移動したイルユは、その尻尾を軽く踏み付ける。
「せっかく……せっかくお願い聞いてもらおうと楽しみにしてたのに……色々お願い考えてたのに……嘘付くなんてひどいよ! あたしのことだましておいて、簡単に死ねると思わないでよぉ!!」
「ぐぅうう……ふ、ふふ。た……確かに……な。楽に……死ねると考えるのは……愚かだった……な……。ならば気が済むまで……いたぶるが良い……」
既に満身創痍のしろへびさんは、この後味わうことになるであろう地獄のような苦しみを、素直に受け入れる覚悟であった。
「しろへびさん! 嘘付いたバツとして、さっきのカラフルへび達に代わって、あなたがお願い叶えてよ!!」
「…………なぬ?」
「あたしに付いた嘘を本当にするまで、絶対にしろへびさんは殺さない。勝手に死ぬことも許さない。あたしのワクワクしてた気持ちを台無しにした責任、取ってよぉ!!」
一瞬、訳が分からなかったしろへびさんだったが、
「……ふ、ふはははは、ハーッハッハッハッハ!!」
「なにがおかしいのよ、この嘘つきへびさん!」
「ぐおおおいででででっ!!! ま、待て、済まぬ!! 頼むからもう踏むのは勘弁してくれぇ!!」
「……ふんだっ!」
気が済んだのか、尻尾を踏みつけていた足をイルユはどかした。
(我らが星獣の王達よ、申し訳無い。どうやら俺が辿る運命は、どこまでも最悪な道へと向かうしかないらしい。だが……)
白き星獣、しろへびさんは、吹っ切れた表情を浮かべ、イルユに語りかける。
「イルユ殿、例え我が同族を裏切ることになっても、我は生涯この命を、イルユ殿を騙した償いをするためだけに、捧げることを約束する。すまなかった……」
その巨大な頭をゆっくり下げ、しろへびさんはイルユを騙したことを謝る。
先程までは、ただの復讐対象の1人としてしか考えていなかった。
だが、己は疎か、星獣の王すら超え得る、その超常的な力を見せつけられたことで、しろへびさんの中で、復讐心を超えた畏敬の念が芽生えていた。
それは星獣の、より強き個体を王として崇める習性によるものか、或いは弱者が圧倒的強者に対し抱く、生物としての本能によるものか。
「……うん、いいよ! じゃあ早速1つお願い聞いて!!」
「我にできることなら、なんなりと」
「そのかたっ苦しい感じ、やめて! あたしもやり辛いし! これから界遊楽団のお願いを叶えていく下僕になるんだから、もっと気楽にいこー? それが1つ目のお願いだよ」
「……そうか。ああ、分かったよ! それがアンタの願いなら、もう王様ぶるのは辞めだ! これから我……いや、俺は、界遊楽団の下僕として、懸命に償いをすることを誓うぜ! 王から下僕への大幅降格、ははっ傑作だな!!」
千年近くもの間、星獣の王として相応しい存在であろうと、本当の自分を抑え、王としての偽りの自分を演じてきたしろへびさん。
そこから下僕というどん底に落とされたことで、そういったしがらみ全てがどうでも良くなり、むしろ王として君臨していた頃よりも清々しさで満ちあふれていた。
「改めて、よろしく頼むぜ! イルユさんよ!!」
「イルユ……さん?」
「アンタが俺を『しろへびさん』って呼ぶから俺もさん付けだ。嫌か?」
「……それ、良いね!! それじゃあ早速、みんなに紹介しに行くから付いてきてー! キャハハハハハ!!!!」
イルユははしゃぎながら、楽団の拠点へと猛スピードで飛び去っていく。
「ちょちょちょ待てええええ!!! 速すぎるって!! 俺そんなに早く飛べねぇってええええ!!!!」
しろへびさんは慌ててイルユを追いかけ、そのまま宇宙の彼方へ飛び去っていった。
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「ふむ。この気配、そして先程の咆哮……」
先程までイルユとの遊びに付き合い、イルユと同様に遠くにふっ飛ばされたクロトマーダ。
イルユを探そうと気配を探っている内に、イルユによって生み出された4体の星獣の気配に気付く。
「イルユの奴め、どうやら新たなる玩具を出現させたようだな。ふふふ、これは良き退屈しのぎになりそうだな」
不敵な笑みを浮かべ、クロトマーダは拠点へと飛んでいった。
流石にそろそろプロットもちゃんと作らなきゃなぁ、と思う今日このごろ




