Ⅱ.イユル✕聡明なる指揮官
「何!? フレアリス星団が攻め落とされただと!?」
「は、はい! それも一瞬で全滅させられたとのことであります!!」
「あそこは第1級不可侵領域だぞ……くそっ相変わらず化け物共め!」
青紫色の軍服を着ている彼らは、宇宙治安維持特殊防衛軍、通称「宇宙特防軍」の一員。
現時点で宇宙全体の凡そ7%の領域を管理下に持ち(因みに宇宙の大きさは半径約1兆光年の球体空間)、宇宙の治安と秩序を守る、言わば宇宙の警察である。
「ア、アズレ指揮官! 如何致しましょう!?」
フレアリス星団の陥落を伝えた一般兵がアズレという名の指揮官の男に指示を仰ぐ。
「どうもこうも何も、我々は今奴らに手を出すことはできん!そのまま奴らの動向を監視し続けろ! 以上!」
「りょ、了解であります! 失礼致します!!」
そう言うと一般兵はその場から下がっていった。
「”天領域宣言”、ですか……」
指揮官の近くで立っていた秘書官の女が不満気にそう呟く。
「そうだ。半年前の戦い以降、本部は界遊楽団を”天領域”として認定したのはお前も知っているだろう。つまり我々宇宙特防軍は如何なる理由があろうと奴らに武力行使することは叶わんのだ」
宇宙特防軍は、武力行使の可能性を有する対象について、その脅威度が特に高い存在に対して4段階評価を取っている。
まず”第3級不可侵領域”に始まり、第2級、第1級と数字が低くなる程脅威度が増す。
第1級不可侵領域までは、宇宙特防軍以外の一般の知的種族は対象への一切の武力行使を禁じられる。
だが宇宙特防軍のみ、緊急事態における対応として武力行使が許されている。
しかし第1級不可侵領域のもう1つ上の段階、”天領域”においては話が変わってくる。
天領域に指定された対象は、例え宇宙特防軍であっても一切の武力行使を禁じられ、緊急時の問題解決手段も、対話などの平和的解決手段に限定されてしまうのだ。
理由は至って単純。宇宙特防軍の全勢力を以ってしても天領域には勝てず、無駄な犠牲を生むだけだからだ。
「私は……私は納得いきません!!! あんな極悪人共を実質野放しにしなければならないなんて……!! 天領域宣言などと体良く言っていますが、言い換えればただの敗北宣言ではありませんか!! こんな理不尽が許されて良いはずが無いでしょう!!!」
「……ナザ、お前の気持ちはよく分かる。俺だって悔しい!! だが我々宇宙特防軍は既に半年前、一度奴らから直接その理不尽を思い知らされたのだ。しかもたった1人の丸腰の少女にだ。まぁ、信じられんだろうがな……」
「……私は戦線にいなかったので、あの戦争で何があったのかは詳しく存じません。それだけに未だ信じられません。たった16分でほぼ全軍が壊滅させられたというのは……」
アズレは左腕から先が存在せず、最新鋭の義手を付けられていた。
アズレはその義手を右手で抱えながら、軽く身震いする。
「今でも思い出すだけで恐怖で体が震える……。半年前の宇宙特防軍と界遊楽団との全面戦争、俗に言う”絶望の16分戦争”。ただ奴が最初からその気になれば、我々はほんの1秒たりとも生き残れなかっただろうがな……」
そしてアズレは半年前の界遊楽団との戦いについて、秘書官シヨにゆっくりと当時のできごとを語り始めた──。
******
──時は半年前。
その日、宇宙特防軍本部は界遊楽団討伐作戦を決行した。
討伐作戦のために出動した戦闘員は凡そ1億。ほぼ全勢力の投入であった。
大小様々な宇宙船の大群が向かう先は、当時界遊楽団がアジトに利用していた小惑星である。
「ハッハァ!! コイツは派手な来客だぜェ!」
「まあまあ、あんなに沢山来られると流石に小惑星がパンクしちゃうわねぇ。うふふ♪」
宇宙特防軍の突然の襲撃に対し、ユウガとダンノンが楽しそうに待ち構えている。
「ねーねー! あたしに遊ばせてー!!」
イルユがはしゃぎながらユウガとダンノンに頼む。
今アジトにはイルユ、ユウガ、ダンノンの3人だけ集まっていた。
「ありゃ俺の獲物だ、と言いてェところだがラッキーだったなァイルユ。俺ァさっき星獣共とたっぷりじゃれ合ってきたばっかで気分が良いんだ。今回は譲ってやんよォ」
「あらあら♪ いつもなら2人で玩具の取り合いばかりするのに、優しいわねぇユウガ」
「ハッ、娯楽を独占するほど俺も鬼じゃねェよ。今日は高みの見物と洒落込ませてもらうぜェ」
「やったーーーー!!! ユウガだいすきーーーー!!!」
「オイオイ飛び付くなっての」
飛び付きながらはしゃぐイルユを、ユウガは気怠げに頭をポンポン叩いてから押しのける。
「それじゃあ遊んでくるねー! キャハハハハハハハハ!!!」
銀髪の長いツインテールと黒いスカートを不気味に揺らめかせながら、イルユは迫ってくる宇宙船の大群の中に1人で突っ込んでいった。
******
「目標発見! こちらに真っ直ぐ突っ込んできます!」
「ようやくお出ましか。総員、迎撃用意!!」
指揮官アズレ率いる凡そ10万人規模の攻撃部隊が、イルユの襲撃に備える。
他の攻撃部隊も既に迎撃態勢を整えていた。
「真空エネルギー砲、放てぇ!!!」
瞬間、無数の宇宙船から極太のビームが一斉に発射される。
「キャッハハ♪ のろいのろーい!!」
イルユは視界を埋め尽くさん程の大量のビームを大はしゃぎしながら軽々と避けていく。
「秒速1000兆キロメートルの真空エネルギー砲だぞ!? それをあんな簡単に避けられるってのか!? クソっ一体どんな生物だよ!!」
攻撃部隊の隊員の1人が、目の前の非現実的なできごとに思わず困惑の声を漏らす。
他の隊員も同様に驚きを隠せないでいる。
「騒ぐな! 退路を塞いで確実に当てれば終いだ! 全方位から追い詰めろ!!」
「りょ、了解!!」
無線により各隊員にアズレより指示が送られる。
その後無数の宇宙船が、イルユを球状に囲むように陣形を変化させた。
他の隊も、アズレ率いる部隊と連携を取りながら、イルユを取り囲んでいく。
「わぁ、囲まれちゃった! どうなっちゃうの〜?」
あいも変わらず楽しそうにはしゃぐイルユ。
直後、先程よりも遥かに太いレーザービームが、四方八方からイルユを襲った。
「おっとっとぉ!」
これも軽々と避けられる。
よく見ると、複数の宇宙船から放たれた真空エネルギー砲が1本に束ねられ、先程とは桁違いの太さと威力を誇っていた。
その上先程とは比較にならない密度で、四方八方から真空エネルギー砲が迫り、最早避けることは不可能な程であった。
「わぁ、ビームがいっぱーい!」
イルユは、敢えて避けるのを止めた。
瞬間、大量の真空エネルギー砲が一度に衝突し、大爆発を起こした。
「よし、命中だ! 惑星どころか恒星さえ跡形もなく消し去る程のエネルギーだ。流石の奴も八方からまともに食らえば完全消滅は必至だ」
「まだだ、喜ぶのはちゃんと消滅を確認してからだ」
爆発による強烈な閃光が収まり、隊員達は爆心地周辺を入念にチェックする。
そして……
「対象の完全消滅を確認! 作戦成功です!!」
「よぉおおおおおおっし!!!!」
「やりましたね! 指揮官!」
隊員達は勝利に湧いた。
アズレもモニター越しにイルユの完全消滅を確認し、安堵して椅子に腰掛けようとしたその時──アズレの左腕に突如激痛が走る。
「あ……ぐぅ!?」
「ダメだよーおじさん。今あたしが座ってるんだから。ふんふーん♪」
「……そんな…………馬鹿……な…………」
アズレが座るはずだったその椅子に座っていたのは、本来ならば完全に消滅していたはずの存在。
銀色のツインテールを不気味に揺らめかせていた少女──イルユだった。
「うわああああああ!! しっ指揮官!! 腕が!! そ、それにあいつは……!!!」
「な、なんで奴がこの船内に!? こ、これは悪夢なのか!?」
アズレが乗っていた宇宙船の管制室は、たちまちパニック状態に陥った。
アズレもまた、椅子をくるくる回して遊ぶイルユを目の前に、正気を失い声も出せずにいた。
突然左腕を吹き飛ばされたことによる激痛やショックよりも、イルユから余りにも桁違いな力と、異質で不気味なオーラを嫌でも感じ取ってしまったことによる、絶望の方が圧倒的に勝っていた。
「みんなうるさいなー」
そうイルユが呟いた途端、アズレを除く管制室にいた全ての隊員達が一瞬で霧の様に散って消え去った。
「な…………彼らに何を…………」
「んー? うるさかったからちょっと素粒子レベルで切り刻んだだけ。それよりさー! さっきのビームの爆発、すっごくキレイだったよね! 爆心地から眺める爆発は特に絶景だったよ! おじさんも見れたらよかったのにねー、キャハハ!」
この時アズレははっきりと思い知らされた。
コイツと我々は住む世界そのものが全く違うのだということを。
常識も価値観も何もかも根本からイカれている、それが界遊楽団なのだと。
「さーて、もう遊ぶのも飽きちゃったし、さっさとお片づけしてかーえろっと! あ、おじさん達は絶景を見せてくれたお礼に今回は見逃してあげるね! 巻き込まないように1分待つから早くおウチに帰ってね〜」
そう言ってイルユは椅子から立ち上がり、その場から瞬間移動するかのように一瞬で消えた。
「…………総員、今すぐ退却だ。」
「し、指揮官!? 今指揮官の船から奴が出ていくのが見えましたが、ご無事でしたか!」
「ああ……それより1分以内に全員退却だ。理由は聞くな。すぐ分かる」
「は、はぁ……。了解です!」
隊員達は、ワープ航法を用いてあっという間に本部へと退却していった。
「……さて、近場にいる他の隊にも退却するよう連絡だけでもしておくか」
その後、アズレ率いる部隊含め、3つの攻撃部隊が1分の間に退却することとなった。
それは同時に、イルユと宇宙特防軍の衝突から16分が経過したことを意味した。
直後、後方に控えていた攻撃部隊は一瞬で跡形もなく消え去り、1億人からなる大軍勢が進軍していたエリアは、静寂が包むただの暗闇と化したのである。
プロットを一切練ってないので、執筆してる時は自分にも先の展開がどうなるか分かりません。私もまた皆さんと同じく1人の読者なのです。




