たくみとみさと友里に瑠璃
一旦終わります。
僕が女の子になって1ヶ月が過ぎた。
正確には、女性のたくみが居た世界に僕が転移して来てから、と言うべきか。
元々この世界に居た[三橋たくみ]はどこに行ったのだろう?
机にあったノートやスマホには彼女の痕跡が沢山残されていた。
女のたくみはとても妹想いで、みさとに対する気遣いが溢れており、それは友里だけでなく、クラスメートや生徒会長の瑠璃先輩に対する物もあった。
繰り返すが女の子のたくみはどこに行っちゃったのだろうか?
男の僕が居た世界へ行っちゃったのか、それとも僕の頭の中で眠っているのか分からないけど、彼女が戻ってきた時の為にちゃんとしておかねばならない。
たくみの置かれていた立場はだいたい把握出来た。
つまり、理想のお姉ちゃんだ。
でもノートやスマホの文章から察するに女の子のたくみは自分の事を『僕』と言っていた様だ。
タヌキ顔のボクっ娘。
これは何を意味しているか分からない。
一つ言えるのは、似合わないぞたくみ。
みさとはいつもご飯を美味しそうに食べてくれる。服をいつも貸してくれる。
僕が兄だった時は当たり前だけど無かった事だ。
やっぱりみさとは兄より姉が欲しかったに違いない。
少し複雑だけど、みさとに寂しい思いはさせられない。
でも、お風呂は1人で入りたい。
自分の身体でさえ未だに戸惑うのに、妹とはいえ、女性の裸は目のやり場に困る。
そこに最近友里まで乱入する様になった。
幸いにも、みさとが友里の侵入を防いでくれているので、彼女の裸を見た事は無い。
『こらホルスタイン!』
『何かしら?スキニーシスター』
『誰がスキニーよ!』
こんなやり取りを毎日脱衣場の向こうで繰り広げるのは止めてほしい。
半透明のドア越しに見える友里の裸だけで、十分な破壊力なのだ。
僕のアレが失われていて本当に良かった。
毎日友里に作る弁当も慣れてきたけど、彼女の作った弁当を食べられないのが正直惜しい。
前の世界で、友里と弁当のおかずを交換するのは楽しみだったのに。
確か、友里には友太と言う3歳年上の兄貴が居た。
僕の頼りになる兄貴的存在で、今は大学の一年生で下宿に1人暮らし。
だけど今回は一度も友里から友太の話を聞いてない。
一回だけ僕から聞いたが、
『男は野獣よ、たくみにあんな真似をするなんて』
そう言った友里の目は本当に怖かった。
あんな真似って、今年の夏休みに一度ラブレターを貰っただけなんだけどな。
もちろん、この世界での話。
これはたくみのスマホに残されていたメモに書いてあった。
[友太さんからラブレターを貰った。
鞄を漁られ、みさとと友里にバレてしまった。
返事を書けないまま友太さんは大学の下宿に帰ってしまった。
次の休みに友太さんが帰って来たら返事をしよう]
書かれていた内容はそれだけで、たくみはどんなラブレターを貰って、どんな返事を友太に書くつもりだったか分からない。
まあ今の僕ならお断りの返事しか書けないけどね。
しかし友太が僕にラブレターか、女として僕を見ていたのは複雑だ。
でも女の子に恋するのは自然な事。
そういえば、僕も瑠璃先輩にラブレターを書いた事あったな。
断られたんだけど。
『弟としてしか見られません』って。
瑠璃先輩は三人姉弟の長女。
下は弟二人だから僕をそう見ていたのはやむを得ない。
でも、この世界の瑠璃先輩は変だ。
毎日の様に僕を生徒会室に呼び出すし。
僕が男だった時は生徒会の役員をしていたから接点はあったけど、この世界では違う。
僕は生徒会役員じゃない、みさとや友里が役員だ。
行く必要はないが、行かなかったら僕の教室にまで瑠璃先輩は押し掛けてくるから結局は行く事になってしまう。
『ごめんなさい、たくみさん。
私ってダメな会長ね...』
一回だけ断ったら潤んだ瞳でそう言われてしまった
だから毎日生徒会室に通っている。
まだ先輩に対する恋心も残っているしね。
生徒会室で何をするって訳じゃない。
ただ瑠璃先輩の隣に座り、彼女の為にお茶を用意するだけだなんだけど。
「さてと...」
情報も整理出来たし、明日のお茶菓子を作るとしよう。
生徒会の役員達も楽しみにしているし。
「取り敢えずクッキーでも焼こうかな」
戸棚から材料を出してクッキーの生地を捏ねる。
みさとはチョコチップの入ったクッキーで、友里は紅茶クッキー、瑠璃先輩は何でも良いと言っていた。
『たくみさんのエキスが入った物なら何でも...」
あれって、どういう意味だろ?
やっぱり瑠璃先輩は少し変だ。
こうして僕の女の子生活は順調に過ぎて行くのだった。