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たくみとみさと、そして友里

「おっ旨そうな朝食!」


「あげないわよ!」


 友里がみさとの朝食に目を着けた。

 必死で皿を隠すみさと。

 やはりおかしい、昨日までの2人と全く違う。


『美味しそう!』


『友里ちゃん食べる?あーん』

 なんてやってたのに。

 友里も美少女だ。

 友里とみさとの事を学校で知らない者は居ないだろう。


 少し小柄な二人。

 腰まで伸ばした髪はとても艶やかで、切れ長な瞳のみさとに大きな瞳の友里、目は対照的だ。


 鼻や口、その他のパーツも本当に整っている。

垂れ目で丸顔、タヌキみたいな僕とは比べ物にならない。


「友里、食べるか?」


「え?」


 僕の朝食を友里に差し出すと、2人は驚いた顔で固まってしまった。なんで?


「...嘘良いの?」


「冗談よね、お姉ちゃん...」


「また作れば良いんだし」


「やった!」


「酷いよ!!」


 飛び上がる友里と涙を流すみさと。

 これは一体どうなってるんだ?


「バカバカバカバカ...」


 僕の胸を叩くみさとに罪悪感が込み上げる。

 理由はどうあれ、妹を泣かす兄は最低だ。今は姉だけど。


「今日のお弁当にタコさんウィンナー入れてあげるから」


「...え?」


 ピタリと泣き止むみさと。

 昔からタコさんウィンナーが大好きだったからな。

 よく僕のお弁当を見ながら言っていた。

『兄ちゃん、タコさんは入れないの?』って。


「...カニさんもお願い」


「分かった」


 小さな声で了解する。

 良かった、みさとの機嫌は治ったみたいだ。

 奥のテーブルではリスみたいに朝食を頬張る友里が笑っていた。


 三人分のお弁当を作り、しっかり鞄に詰める。

 準備完了!


「さあ行きます...か」


 玄関で立ち止まる。

 しまった、まさかここにも問題が。


「たくみ、どうしたの?」


「姉ちゃん何かあったの?」


 不思議のそうにみさとと友里は玄関を覗き込む。

 しかし、どう説明したら良いんだ?

 三足並んだ靴、どれが僕のか分からないなんて。


「先に出てくれる?」


「え?」


「どうして?」


「良いから」


 とにかく2人を先に出そう。

 残った靴が僕の物だ。


「変な姉ちゃん」


「本当」


 ブツブツ言いながら2人は靴を履く。

 残った一足の靴。

 黒いローファー、学校の指定、女物だけど。


「23.5か」


 靴に書かれているサイズに思わず呟く。

 昨日まで僕は25センチの靴だったのに、身体の大きさは変わらないけど、足は縮んだって事なのか?

 もちろん靴は難なく履けた。


「では出発!」


 外に出ると友里は僕の右腕を掴んで駆け出す。

 そんなに引っ張らないで、慣れない靴でスカートだから転けちゃうよ!


「ちょっと友里!」


 ほらみさとも心配してる。


「姉ちゃんの右側は私!」


「いいじゃん、たまには」


「そっちか!」


 なぜか両脇を友里とみさとに挟まれ歩きだす。

 こんなの変だよ、昨日までは友里とみさとが並んで歩いて、僕はその後ろを着いて行ってたのに。


 がに股にならない様、細心の注意を払いたいが、僕の集中力は阻害されてしまう。

 だって、


「あの友里」


「何?」


「...胸が」


 僕の右肘が友里の胸に食い込んでいるのだ。

 そういえば、友里って大っきな胸してたっけ。

 ゴメン、たまに横目で見てました。


「いいじゃない、女同士だし」


「それは...」


 そういう物なのか?

 男同士とまるで違う...


『たくみ、俺の胸はどうだ?この筋肉をどう思う?触っても良いんだぜ?』

 そういえば、友人の勝夫はよく僕に筋肉を見せびらかしていたな。

 気持ち悪い記憶だ、それに比べたら友里の胸は全く平気、そんな物か。


「こら友里!」


「なにか?」


「牛みたいな胸を姉ちゃんに押しつけるな!

 牛乳が出て制服が汚れるだろ!」


「あら、いくらつるペタだからって嫉妬?」


「...な」


 友里の暴言にみさとが固まる。

 これはいけない、兄として見過ごせない。


「友里」


「なにかしら?」


「謝れ」


「え?」


「みさとに謝るんだ、誰だって言われたく無い事ってあるだろ?」


「...たくみが怒った」


「姉ちゃん...」


 どうだ妹よ、兄ちゃ...姉ちゃんだって言う時は言うんだぞ。


「たくみ...私の事...嫌いになった?」


「はい?」


 どうしたんだ?友里の目が滲んで...


「たくみに嫌われた!!」


 友里の目から涙が溢れる。

 これはどうしよう?まさかこんな展開になるなんて。


「みさと...」


「自業自得ね」


 ダメだ、みさとはあてにならない。


「嫌いじゃない、友里を嫌いになんてならないよ」


 必死で宥めるしかない。


「...本当に?」


「ああ、本当だとも。友里は大事な幼馴染みだ」


「良かった!!」


「うわ!」


 友里に突然抱きつかれてしまい、バランスを崩した僕は尻餅を着いてしまった。


「こら、離れろ!」


「...もう少し」


 必死でみさとが友里を剥がそうてするが、僕の胸に顔を埋めて来る。おっぱいが左右に揺れてくすぐったいぞ!


「ん?」


 突然友里が止まる。


「おかしい...」


 なにやら友里が僕の胸に顔を埋めたまま呟く。

 何がおかしいんだ?

 だいたいおかしいのは友里とみさとじゃないか。


(にお)いが」


「臭い?」


「たくみから女狐の臭いがする」


「は?」


 なんだよ女狐って。


「ふふん、気がついた?]


「まさか...みさと」


「姉ちゃんは今私のシャツを着てるのよ!」


「なんですって!!!」


 両手を腰に当て勝ち誇るみさと。

 対する友里は驚愕の表情、そんなに驚く事か?


「姉ちゃんはオシャレに目覚めたのだ。

 だから私のシャツを着てるのよ」


「いや目覚めた訳では...」


「不潔よ!物理的にも道徳的にも!」


「何が不潔なの!ちゃんと洗ったやつよ」


 また始まってしまった。

 いつになったら学校に着くんだろ?


「貴女達、往来でお止めなさい」


「あ」


 聞き覚えのある声に振り返ると、そこには1人の女性が静かな瞳で僕達を見つめていた。


「君島さん」


「たくみさん、ごきげんよう」


 美しく気品のある笑顔。

 ニ年生の君島瑠璃さん。

 生徒会長である彼女に僕は憧れている。

 もっとも、全く相手にされてないのは自覚している。


 すらりとした体型と縁無し眼鏡に涼しげな目元、キリッと引き締まった口。

綺麗に編み込んだ長い髪、全てが僕の理想なんだ。


「貴女達、学校の評判だけでなく、たくみさんの評判まで落とすつもり?」


「ごめんなさい」


「すみません」


 君島さんの前ではみさとと友里もタジダジだ。

 やっぱり凄い。


「一体原因はなんですの?」


「たくみがみさとのシャツを着てたんです」


 おい友里、そんな事を君島さんに言うな!


「...な...なんて事なの」


 口元を抑えて後ずさる君島さん。

 なんて事...って、そんなに驚く事かな?


「はい、たくみさん」


 君島さんは鞄から一枚の体操服を取り出した。


「これは?」


 一応は受けとる。

 うん君島と刺繍がされてるね。


「学校に着いたら穢れたシャツを脱いで、これを着なさい」


「はい?」


 今。なんつった?


「学校が終わったら生徒会室まで返しに来なさい、くれぐれも洗わない様に」


「へ?」


 赤い顔の君島さん。

 どうやら彼女もおかしいみたいだ。

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