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第九十四話 宴の場にて

 後日、王都でパーティーが開かれた。

 法王が快復し、公に元気な姿を見せる意味もあるようだ。

 法王は、人の良さそうなおじいさん、といった感じの人だった。

 すべてを優しく包み込んでくれそうな雰囲気。

 皆が順に法王に挨拶に行き、俺たちも今回の件の立役者ということで、法王に謁見することができた。


「法王聖下。

お初にお目にかかります」


「おお!

君たちか!

ローベルトたちから話は聞いておるよ」


 俺たちが跪いて順番に自己紹介をすると、法王は椅子から立ち上がり、俺たちの前で膝を落として目線を同じにした。


「法王聖下っ!?」


 その姿に、その場にいた全員がざわついている。


「頭を下げなければならないのはこちらの方じゃ。

ワシの認識の甘さが今回の事態を引き起こした。

君たちが手を貸してくれなければ、教会はこのまま神の教えに背いた組織へと成り下がっていただろう。

すべての信徒と神に代わり、ワシが礼を言おう。

本当に、ありがとう」


 そう言って頭を下げる法王に、俺たちもただ深く頭を下げた。









「よっ!

パーティーの主役がこんなとこで夜風に吹かれてどうしたっ!」


「ローベルト枢機卿」


 パーティーの熱気に疲れて、ベランダで景色を眺めていると、酒に酔ったローベルトが声をかけてきた。


「いやー、しかし、本当におまえらには世話になったよ」


 俺たちは窓辺に並んで、柵に身を預けて話し始めた。


「教会はこれから大変だろう?」


「そうだな~。

教会の上層部である枢機卿が奴隷売買に関わっていたなんて、とんでもないスキャンダルだ。

おまけに法王聖下を監禁し、聖女を利用しようとした。

責任の矛先は自然と俺たち、残された枢機卿に回ってくる。

教会のトップである法王と聖女がそれを宥めても、すぐには収まらんだろう」


 ローベルトはこれから起こる問題をイメージして、深く溜め息を吐いていた。


「だが、責任があるのは確かだ。

今回、おまえらが現れなければ、本当に最悪の事態になっていたからな。

どれだけ大変だろうと、これまで以上に奔走するだけだ」


 そう言って笑うローベルトの姿に、こちらも自然と笑みがこぼれる。


「ん~?

なんか嬉しそうだな~?」


「いや、責任を取って辞めるとか言い出さなくて良かったと思ってな」


「いやー、初めは法王聖下とアマネにそう言ったんだが、2人に思いっきり殴られてな。

神に仕える信徒として、途中で投げ出すことなど許しませんって言われちまったよ」


 ローベルトは思い出したように、殴られたのであろう頬を嬉しそうにさすっていた。


「教会のツートップに言われたら、従わざるを得ないな」


「そうなんだよ!」


 そう言って、俺たちは笑いあった。





「ところで、」


「ん?」


「影人はアマネを嫁にする気はないか?」


「ぶふっ!」


 いきなり何を言い出すんだ!

 飲みかけていた飲み物を吹き出したぞ!


「いやー、今回の件は本当に感謝してるんだ。

なんとかして影人にお礼もしたいし、アマネにも礼をしたいんだが、2人が一緒になる架け橋になれれば、これ以上ない礼になると思ってな!」


「げほげほっ!

酔っぱらってんのか、生臭坊主。

相手は聖女様だぞ」


 俺がそう言うと、ローベルトは少しだけ悲しそうな顔をして、紅い満月が浮かぶ夜空を見上げた。


「わかってるよ。

それでも、アマネにはいつか聖女としてだけではなく、1人の女としても、幸せになってほしいんだ」


「……ローベルト」


 枢機卿として、父親代わりとして、複雑な想いってわけか。


「まあ、あんたがそう思ってても、当人の気持ちってものもあるだろう。

俺も、今はそんなことを考える余裕はないからな」


「……当人の気持ちを(おもんばか)ってのことなんだがな」


「ん?何か言ったか?」


「いーや、なんでもねーよ。

そろそろ戻ろうぜ。

冷えてきた」


「ああ、そうだな」


 会場に戻る俺はパーティーの熱気に当てられたのか、ローベルトの様子を見に来た聖女様が今の話を聞いていたことに気付いていなかった。



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