第九十三話 罪の重さを秤る炎
[我、願い奉る]
[罪深き愚かなる者に
神の裁きを
神の導きを]
「そ、そんな、聖女様!
なぜ我らを!
我らは敬虔な信徒!」
「ちっ!」
うろたえる枢機卿とは裏腹に、副団長のリグルは剣を構えて、聖女様に向かってきた。
「聖女様!」
俺が割って入ろうとすると、聖女様は手だけをこちらに向けて、それを止めた。
[かの者らの罪を
神の裁量でもって裁きたまえ]
[紅蓮の眼
両秤白火]
祝詞が終わると、聖女様の瞳から白く巨大な炎が生まれる。
白い炎が床を溶かし、炎の熱がこちらにまで届いてくる。
おいおい、あの大きさじゃ、あいつらを消し炭すら残さずに燃やし尽くしちゃうんじゃ……
そして、その強力な炎が枢機卿とリグルを襲う。
「ぎゃああぁぁぁ~~!!
いやだぁ~~~!!」
枢機卿が手足をバタバタさせて逃げようとしているが、それよりも早く炎は到達する。
前に出ていたリグルも、枢機卿を庇うように下がっていた。
いやいや、これはホントにまずいぞ。
この勢いだと、2人を完全に殺してしまう。
そう思った俺は、心の中で思いっきり叫んでみた。
『おい!くそパンダ!
こいつらには聞きたいことがあるんだ!
2人とも殺したら、おまえの像を全部パンダにするからな!』
「えっ!?」
すると、2人を今にも焼き尽くさんとしていた炎がしゅんと、少しだけ小さくなった。
聖女様がその突然の変化に驚きの声をあげる。
「ぎぃやああぁぁぁぁぁっ!!」
「ぐああっ!」
白い炎は2人に直撃したが、2人で苦しみ方が違う。
明らかに枢機卿の方が激しく燃えている。
リグルの方の炎は、リグルが動けなくなるとすぐに消え去った。
一方、枢機卿の炎は彼を完全に焼き尽くすまでその場に残り、そして、文字通り消し炭ひとつ残さず、枢機卿をこの世から消し去った。
リグルは全身に火傷を負い、動けなくなっていたが、何度もくそくそと悔しそうに呻いていた。
「これが神の思し召しです。
神の元に召された枢機卿が救われたのか、生き長らえたあなたが赦されたのかは神にしか分かりません。
ですが、あなたにはこれから現世で悔い改める機会が与えられたのではと、私は思います」
聖女様は目を閉じ、胸の前で指を組んで祈りを捧げていた。
パン神が自分の像をパンダにされたくなかったから、とは言わないでおこう。
「アマネ!」
「ローベルト!」
そこにローベルト枢機卿が現れ、聖女様を抱きしめた。
「良かった……
無事でいて、本当に良かった」
「まったく、大げさなんですから。
私は大丈夫ですよ」
そう言いながらも、聖女様もしっかりとローベルトを抱きついていた。
「ふふっ。
まるで本当の親子ね」
「その通りですな」
「わっ!クラウスさんっ!」
ミツキがほほえましく2人を見つめていたら、いつの間にか背後にクラウスが立っていて飛び上がった。
「クラウスさん。
法王は?」
俺が尋ねると、クラウスはしっかりと頷いた。
「大丈夫です。
少し衰弱されておりましたが、今は王国付きの魔法士の方に治療していただいております。
外に出していた聖堂騎士団と、<リリア>に出向していた団長もすぐに戻るでしょう」
「そうか、良かった」
それを聞いた聖女様も、ほっと胸を撫で下ろしていた。
リグルは国軍と教会が共同で尋問するということで、合流したザジがクラウスとともに連れていった。
「皆様、この度は本当にありがとうございました。
心から、御礼申し上げます」
ようやくローベルトから解放された聖女様が、改めてこちらに深々と頭を下げた。
聖女様のケガはプルが治療して、すっかり元通りになっている。
「いえ、今回は俺たちは特に何もしてません。
お二人の尽力あってこそ、解決できた事態と言えましょう」
実際、俺たちがやったのは橋渡しだ。
直接幕引きをしたのはこの2人だった。
だが、今回はそれで良かった気がする。
教会の問題を、教会の人間が解決した。
その事実が重要になるだろうから。
「とんでもありません。
皆様のご助力あってこそです。
我々、教会は今後、影人様たちを全力でサポートすることを神にお誓い致します」
聖女様はそう言って、俺たちに跪いた。
「わかりました。
その代わり俺たちも今後、教会に何かあれば、また手を貸すことを、え~と、神に誓います」
俺が言うと信憑性ないが。
「影人が言うと信憑性ない」
「プル!
思ったけど言わなかったんだから、わざわざ言うなよ!」
「あ、すまん」
「ふふふ」