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第八十八話 枢機卿は聖職者の偉い人です。

「ローベルト様。

影人様ご一行をお連れしました」


「入れ」


 クラウスが扉越しに声をかけると、低く渋い声が返ってきた。


 俺たちはローベルト枢機卿の屋敷に招かれた。

 部屋に入ると、椅子に座っていた妙齢の男性が立ち上がる。


「よく来たな。

私がローベルトだ。

君たちがアマネが言っていた者たちだな」


 どうやら、聖女様から念話か何かで俺たちのことを聞いていたようだ。


「影人と申します」


「ミツキと申します」


「プル」


「あ、フラウ、と申します」


 俺たちが自己紹介をすると、ローベルトがこちらに近付いてきた。

 俺の前に立ち、こちらをじいと見下ろす。

 かなり大きく、ガタイも良い。

 聖職者というのは、もう少しひ弱な存在だと思っていたが、なかなかの実力者のようだ。

 武僧というやつだろうか。


「…………」


 ローベルトは相変わらず俺を見下ろしたままだ。

 すごい圧力だ。

 俺を圧しようという気圧が感じられる。

 並の奴なら怯んでしまうだろう。


「……ふむ」


 ローベルトがようやく口を開く。


「さすがはアマネが見込んだ者たちだ。

俺の【威圧】スキルをモノともしないとはな」


 スキルを使っていたのか。

 すると、ローベルトは突然、ニカッと笑顔を見せた。


「うむ!

よく来た!

改めて歓迎しよう!

そこに座れ!」


 ローベルトはハッハッハッと笑いながら、俺たちと向かい合うように、どかっとソファーに腰を下ろした。

 俺たちは呆気に取られたが、少しして、同じようにソファーに腰掛けた。

 クラウスが、用意したお茶をテーブルに置いた。

 一緒に出されたお菓子にプルが飛び付く。

 フラウたちはさすがに緊張して遠慮しているようだ。


「で、どこまで話を聞いている?」


「ずいぶん単刀直入なんですね」


「回りくどいことは好きじゃないんでな。

アマネにも危険が迫っているのなら、話はさっさと済ませたい」


 ローベルトの真摯な目には、たしかに聖女様を心配している気持ちが感じ取れた。


「教会に奴隷売買に関わっている人物がいること。

それが枢機卿である可能性があること。

そいつは法王に虚偽の報告をしていること。

聖騎士団の一部に、その枢機卿の下についている者がいること。

そして、あなたが聖女様の育ての親であり、聖女様が信頼を置く人物だと言っていること、ですね」


「ふむ。

聖騎士団のことまで知っているのか」


 ローベルトは顎に手を当てている。


「実際に、先ほど聖女様と一緒にいる時に襲われましたからね」


「なにぃ!」


 俺はガタンと立ち上がったローベルトに、先ほどのことを説明した。


「……おのれ、リグルめ。

団長の不在時に好き勝手しおって」


 どうやら、聖騎士団の団長は治癒と後方支援のために、南の<リリア>に出向いていて不在らしい。

 だからこそ、一枢機卿の命令で大胆な行動に出れたのだそうだ。


「……アマネは無事だろう。

聖女のネームバリューは奴らからしても、大いに役に立つ。

殺すより、生かして利用した方が良いと考えるはずだ」


 ローベルトは冷静に言いながらも、拳をぎりっと握り締めていた。

 本気で彼女を心配しているようだ。


「聖女様は、あなたが法王と会い、今回の件の黒幕を突き止めてもらうと言っていました」


「……無論、そのつもりだ。

だが、以前から法王聖下には面会要請をしているのだが、許可がいっこうに降りんのだ」


 ローベルトが悔しそうに顔を歪める。


「……その、法王への面会要請を受理して、許可を出すのは誰なのですか?」


「判断自体は法王聖下だが、受理は法王付きの神官が行うんだが……まさか!」


「あなたの申請が、法王まで届いていない可能性があるのではないかと」


「……バカなっ。

法王聖下の側仕えだぞっ!

司祭の中でも、選りすぐりの信徒のはずだ……」


「あくまで、可能性、ですが」


 俺がそう言うと、ローベルトは1度、大きく溜め息を吐いた。


「そうだな。

先入観を持つのはやめよう。

すべてを疑ってかからなければ、真実はつかめないというものだ」


 ローベルトはそこまで言うと、バッ!と頭を下げてきた。


「すまないが、君たちも手伝ってほしい。

報酬はきちんと出そう。

実力者の手が必要だ」


「もちろんそのつもりではありますが、よろしいのですか?

俺たちのような素性の知れない人間を信用して」


 俺だったら、そんな奴ら決して信用できないのだが。


「アマネが信じた。

それだけで十分だろう?」


 ローベルトはそう言って、ニヤリと笑った。


「……そうですね」


「お前たちこそ、怪しい枢機卿の中の1人をすんなり信じてもいいのか?

すべてはお前たちをハメる罠かもしれんぞ?」


「聖女様があなたを信じている。

それだけで十分でしょう?」


 俺がそう言って、ニヤリと笑うと、ローベルトは豪快に大笑いした。


「なるほどな!

たしかに十分だ!」


 ローベルトは楽しそうに立ち上がった。


「よし!

これからの動きを打ち合わせしよう!

さっさと悪者を退治して、皆で酒を酌み交わすぞ!」


「いや、俺たちは未成年なんだが……」


「固いこと言うな!

ハッハッハッハッ!」


「……聖職者だろ」




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