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第八十七話 お出迎え

「ここは、神樹の森か?」


 ミツキに貸与した【強制相転移】によって、俺たちは神樹の森に転移してきたようだ。

 【強制相転移】は空間と空間を繋ぐ転移魔法と違い、対象空間にある物体と物体の場所を交換するスキルだ。

 魔法ではないから、転移阻害の対象になっていないため、あの場から移動することが出来た。


「急だったから、人のいない場所をイメージしたら、前からよく来てた修行場に来ちゃったみたいね」


 ミツキが人間4人分ほどの大きさの岩があったであろう場所を見つめながら答えた。


「聖女様も無事でしょうか」


 フラウが不安そうな顔を見せる。


「大丈夫だろう。

あのあとすぐに聖女様に何かあれば、聖騎士団が犯人だと言っているようなものだ。

あの場でどさくさに紛れて聖女様に手出ししなかったのだから、奴らは聖女様には危害を加える気はないのだろう」


「それにしても、聖騎士団にも、奴隷売買に関わってる奴らの息がかかってるなんてね」


「枢機卿がそうなんだ。

その下に直属的なな部下がいてもおかしくはないだろう」


「これから、どうする?」


 プルが首をこてんと倒す。


「……ローベルト枢機卿の元に行くのが無難か。

もしかしたら、聖女様とも合流できるかもしれないしな」


 俺がそう言うと、ミツキが思い出したように口を開く。


「あ、ゴリアテちゃんは?

これぐらい情報があれば、たぶん裏切り者の枢機卿を見つけてくれると思うわよ」


「そうか、その手があったな」


 たしかにゴリアテのスキルなら可能かもしれない。


「よし、<アーキュリア>は転移魔法が使えないから、<マリアルクス>の南部三都にあるギルドから連絡してみよう。

ついでに、そこでローベルト枢機卿についての情報も集めるとするか」


 俺たちはそうして、南部三都を管轄するギルドへと向かった。








「聖女様。

お加減はいかがですかぁ?」


 リグルが聖女様の部屋に入ってきて声をかけてきた。


「リグル!

なぜ私を閉じ込めるのです!

私には行かなければならない所があるのです!」


 聖女様の訴えを、リグルは一笑に伏す。


「聖女様は賊に拉致されたのですよぉ!

しばらくはこの隔絶結界の張られたお部屋でおとなしくしておいていただかないとぉ!」


「……くっ!」


 表向きには真っ当な理由を上げられ、聖女様はそれに反論できずにいた。


「それに、この隔絶結界は法王聖下が張り、枢機卿が管理するものです。

結界に何かあれば、枢機卿にはすぐに分かりますから、ご安心ください」


『影人様はそれを危惧して、ここでの会話をやめたのですね』


「まあ、良い子にいていてくださいよ。

あなたは民衆の信仰の対象だ。

無下にその命を散らすこともないでしょう」


 そう言って聖女様を見下ろすリグルの目は恐ろしく冷たかった。


『なんとか、なんとかしなければ……』








「ゴリアテちゃんがボルクスにいないってどういうことよ!

ギルドマスターなのよ!」


「そ、それが、ゴリアテ様指名の、緊急の依頼が入りまして、しばらくの間、人間の領域の外で活動されるらしいです」


 南部三都のギルドの職員はミツキの圧に押されて、あたふたしながら教えてくれた。


「……先に手を打たれたか」


「これも、敵の手?」


 プルが首を傾げている。


「おそらくな。

ゴリアテのスキルは厄介だ。

俺たちがその力を頼ることを見越して、ゴリアテと連絡が取れないように手配したんだろう」


「なかなか手強いわね」


 そう簡単にはいかないか。


「そうなると、やはりローベルト枢機卿に頼るしかないか」


 俺たちは手分けして、ローベルト枢機卿の評判を聞くことにした。

 ギルドは国にも教会にも属さない組織だ。

 先入観のない情報を集めるにはうってつけだろう。


 俺はミツキとフラウが情報集めに動きだしたのを確認すると、


「プル」


「んー?」


「ちょっと、転移させてほしい場所があるんだが」


 俺は俺で動くことにした。









 仕入れた情報によると、やはりローベルト枢機卿は評判の良い人物だった。

 信徒の声によく耳を傾け、弱者救済の教義のもとに行動する、手本のような人物だと、皆が口を揃えた。

 良くない噂もあったが、それはよくよく調べてみれば、ローベルト枢機卿を貶めたい者の流した流言のようだった。


「影人。あなた、どっかに行ってたみたいだけど?」


「まあ、ちょっとな」



「失礼。

影人様ご一行で宜しいでしょうか?」


「ん?」


 俺たちが情報を整理していると、執事服に身を包んだ老紳士が声をかけてきた。


「あなたは?」


「これは失礼を。

わたくしはクラウスと申します。

貴殿方がお調べになっておられた、ローベルト枢機卿の側仕えをさせていただいている者です」


「……耳が早いな」


「恐れ入ります」


 俺が苦笑すると、クラウスは粛々とお辞儀をしてみせた。


「俺が影人です。

それで、どのようなご用件でしょうか?」


 俺が尋ねると、クラウスはお辞儀をしたまま、顔だけをこちらに向けてきた。


「我が主。

ローベルト枢機卿がお呼びです。

ご一緒いただけますか?」



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