第八十一話 パンダさんとのお話タイム
白い、何もない意識の中の世界。
俺がこの世界に来る時に、パン神と会話したのと同じ場所だ。
『お久しぶりで~す!』
天地創造の神。
俺をこの世界に転生させた張本人。
唯一神にして、世界中から信仰されている女神様その人。
そして、手足をバタバタさせて飛び跳ねながら喜んでいるパンダ。
それがコレだ。
『コレはひどいですよ~!』
『ああ、あんたは心を読むんだったな』
マジでめんどくさいヤツだ。
『……聞こえてるの分かってて言ってますよね』
当たり前だ。
『グスン。
まあいいです。
久しぶりに会ったんです。
ちょっとお話しましょうよ』
パン神は両方の前足?の人差し指をちょんちょん合わせながらいじけている。
『ああ。
俺も、あんたに聞きたいことがあったんだ』
『ホントですか!?』
パンダが嬉しそうにピョンピョン跳ねている。
『ああ。
まずは肝心な所からいこうか』
『なんでしょう!なんでしょう!』
ずいぶん楽しそうだ。
神ってのは暇なんだろうか。
『フラウを俺の所に来させたのはなぜだ?』
『…………』
『なぜ黙る?』
パンダはバタバタさせていた手をすっと下ろし、無表情になった。
ぬいぐるみのようなその姿に、恐怖すら感じる。
『すいませ~ん。
それはオフレコなので~』
『…………ちっ』
『ちょっと!
舌打ち聞こえてますよ!』
突然、おどけたパンダに、思わずイラッとしてしまった。
『それは、話す気がないのか、それとも、話せないのか。
あるいは、話さない方が良いと判断したのか』
『…………今はまだ、知るときではない、ですかね』
パンダはしばらく沈黙したあと、ポツリとそれだけ返した。
『……そうか。ならいい』
どうやら、これ以上この件の情報は得られそうにないので、俺は他の話を聞いていくことにした。
『俺の『百万長者』の、万有スキルってなんなんだ?
他の転生者のは、そんな呼び方をしていなかったが』
『それは、ごく一部の人にだけ与えられている特別なスキルの総称です。
万有スキルはこの世界に7つ存在していて、影人さんの『百万長者』はその1つに当たります。
このスキルを所持していることが、あることへの条件だったりもします』
なかなか含みのある言い方だな。
『それが何かを教えるつもりはないんだろう?』
『それはもちろん!
まだまだこれからですぜ、ダンナ!』
『……ちっ!』
『また舌打ちっ!』
『まあいい。
それより、フラウの姉の居場所、あんたなら分かるだろ?
さっさと教えてくれよ』
『うぅ。
なんか、私に当たり強くないですかぁ』
たしかに。なんでだろうか。
動物は好きなんだが、単にコイツがムカつくからだろうか。
『そんなヤンキーみたいな!?』
『とにかく、あんたが教えてくれれば万事解決なんだが』
『うーん、ちょっと待ってくださいね……』
パン神はそう言うと、少しの間沈黙した。
『ダメですね。
本人に問い合わせたら、事情があるようで拒否されました。
探したいなら自力で探せ、だそうです』
『問い合わせた?
それはつまり、生きてはいるってことか』
『はうっ!
しまった!
ネタバレしてしまいましたっ!
叱られるっ!』
誰にだよ。
『それにしても、本人が居場所を知られたくないと言ったのか。
隠れられているのだとしたら、探すのは難しいな』
『そうですよね~。
じゃあ、ヒントだけ!
皆さんが探ろうとしている教会のクソどもを何とかすると、ヒントが出てきますよ!』
信仰されている神がそれを言うなよ。
『というか、お前の宗派だろ。
自分で何とかしろよ』
『嫌ですよ~。
人が勝手にやってることなんですから、自分たちで勝手に解決してくださいよ~』
『お前の勝手で魔王が誕生したんだけどな』
『ピーピピーピピー』
『……口で口笛の音まねするなよ』
その後もいくつかパン神に質問を重ねたが、まともな解答が返ってくることの方が少なかった。
『そういや、あんたの姿って、信者たちにはどう映ってるんだ?
なんか、マリア像みたいなのが飾ってあったけど』
俺が思わず吹き出しそうになったやつだ。
『それはもう!
可憐で素敵で美しく、神々しい女神様ですよ!
全身から溢れ出る神聖なオーラに、人々は思わず崇めてしまうようなっ!』
と、パンダが申しております。
『……ならなんで、俺にはパンダなんだ?』
『というか、転生者の方には、最初はこの姿でお送りしてます』
『なぜだ。
てか、なぜ俺は今でもパンダなんだ』
『…………楽しいから?』
『…………ちっ!』
『…………ぴえん』
『もう戻るぞ!』
『は~い。
あ、他の方にも神託を授けましたから、あとで話を聞いてみてくださいね~』
『分かったよ』
俺はそう言って、意識の中のパンダとのリンクを切った。
1人、白い意識の世界に残ったパンダが呟く。
『まだ、知るには早いのですよ。
私の姿を見てはいけないのが影人さんだけだと言うことは……』